第6話:ソワル・ジダルの街(前編)
第6話:ソワル・ジダルの街(前編)
コーヘイは以前から思っていた。
ここの住民の街を見てみたい。どんな生活なんだろう?
(よし、ファロスギルドでルマさんに聞いてみよう!)
早速、ギルドの受付カウンターに足を運ぶ。
「すみません、ルマさん。ライオースにある街について教えてもらえますか?」
ルマは笑顔で答えた。
「もちろんです、コーヘイさん」
「ライオースにはいくつか都市がありますが、ソワル・ジダルという街が近いし、有名ですよ」
ルマさんは細く絞った腰をぐっと伸ばして続ける。
「ソワル・ジダルは、ライオースの中でも古い都市で、商業や文化が発達しています。ご質問はありますか?」
コーヘイは答えた。
「ええと、まずはその街の成り立ちとか、どんな人たちが住んでいるのか知りたいです」
「ソワル・ジダルの街は古くから交易の中継地として栄えてきました。様々な種族が共存していて、独自の文化が育まれているんですよ」
ルマが説明する。
すると、カウンターにシュウが近づいてきた。
「コーヘイ、ソワル・ジダルに興味があるのか?僕たちもこれから街の様子を見て回るつもりだから、良ければ一緒に行かないか?」
コーヘイは快諾した。
「いいね!ちょうど僕からも声をかけようかと思っていたところだ」
しかし、ユカは少し不安そうだ。
「ソワル・ジダルの街って、ちょっと治安が悪いって聞いたことがあるけど大丈夫かな?」
一方、ヤストは目を輝かせる。
「ん?でも美味しいものがたくさんありそうだよ!ボクはそっちの方が楽しみだな」
それを見たルマは少し微笑んで言う。
「確かに、ソワル・ジダルは裏の社会も発達していますから、注意が必要です。まあでも、皆さんなら大丈夫でしょう。何かあったら、ギルドに相談してくださいね」
そう言って街までの地図を渡してくれた。もちろんレンタルで。
地図のとおりに南に続く街道をいくと、大きな門があった。この先がソワル・ジダルの街だ。ギルドで教わったように門番に冒険者パスポートを見せる。門番たちは何やら声をかけ合うとサッと敬礼。あっさり通してくれた。
大きな門をくぐり、広場のある大通りに出ると、コーヘイたちは人だかりに圧倒される。
「うわーすごい!人がいっぱいるな。建物は中世ヨーロッパと古代ローマの混合って感じだな」
シュウは言った。
「ああ、ソワル・ジダルは活気があっていい。でも気をつけよう。きっとスリや詐欺師も多いからな」
ユカはキョロキョロしながら言った。
「あっちのお店、何か売ってるみたい。ちょっと覗いてみようよ」
ヤストはお腹をさすりながら言った。「その前に、何か食べ物屋はないかな?お腹が空いてきた」
コーヘイは苦笑した。
「ヤストは本当に食いしん坊だな。でも、確かに何か美味しそうな匂いもするね」
通りの端にある露天商の老婆が、キョロキョロしているユカを見て声をかけてきた。
「おや、お嬢ちゃん、冒険者かい?」
「魔法の道具、たくさんあるよ」
老婆は胡散臭い笑みを浮かべながら、机に並べた奇妙な道具や薬を見せた。
「どれどれ?なんか面白そうだな」
コーヘイは興味津々で老婆に尋ねる。
「これ薬ですか?何のポーション?」
「あーこれは不思議な薬で、飲んだらみるみる強くなるのさ」
「ふーん、面白いな。ところで冒険者ってこの街によく来るんですか?」
老婆の笑みがニタァっと、ますます嘘くさくなる。
「まぁまぁかな。みんなこの魔法の道具を買っていくよ!」
コーヘイの後ろに隠れていたユカがぼそっとつぶやいた。
「あの…あそこから魔力、感じないんだけど…」
それを聞いたシュウは、この店は怪しいと判断した。
「コーヘイ、ユカ、もう行くよ」
と、皆を店から引き離す。
老婆は明らかに不快な表情を浮かべて、ぶつぶつ言っている。
「悪いね!僕たち用事があるんで!!」
シュウはそう言うとコーヘイにそっと耳打ちした。
「ほら不機嫌になった。ああいうヤツラには慣れてるんだ。あの表情、きっと詐欺師だよ」
「私たち、カモだと思われたんだね…」
ユカはひとつ、ため息をついた。
「…あとちょっと気になることが」
ん、なんだろう?
「あのお婆さんもそうなんだけど、ここで時おり影みたいなエネルギーを感じるんだよね…」
「街ではこれが普通なのかな?」
シュウの眉間にきゅっとシワが寄る。
「いや、これは後でギルドに報告だな」
一方ヤストはそういうやり取りや
怪しい露天商にはまったく関心を示さず、ひたすら食べ物の匂いを追った。
「ん?あっちのほうから美味しそうな匂いが…」
何かを焼いている。
「あそこ屋台だ!みんな!いくぞー!」
香ばしい匂いが漂い、食欲が刺激される。
神妙に話し合っていたコーヘイたちも、あわててヤストに続く。屋台をのぞくと【ニクロール】と書かれた文字の前に、長細い食べ物が並んでいる。何かの肉を焼いて、潰した穀物で固めたもので巻き、ペタペタにタレが塗ってあるようだ。これは…間違いないやつだ。
「おじさん、それください!」
「はいよっ!!ひとつ地元貨3枚だよ」
迷わずお金を払って頼むヤスト。
まずはガブリとかぶりつく。
「ふ、ふまい!」
ヤストが目を丸くする。
コーヘイたちも次々とかじりつく。
じわっと肉の脂が染み出し
甘辛のタレと混ざることで絶妙なうまさが口の中に広がる。確かに美味しい!
四人は夢中でその肉ロールを食べた。
すると次には…の、飲み物が欲しい。それは生物の当然の欲求。
「はい!飲み物もあるよっ」
それを見越したように屋台のオヤジが
金属製のコップに飲み物をそそぐ。
「肉ロールとあわせてひとり銀貨1枚」
うっ…商売うまっ!!
それでもギルドでは食べられない美味しさに感動しながら、飲んで食べた。
「いやあ、美味しかったな!」
とシュウ。
「こんな味、久々だったよー」
ユカも同意する。
ん?久々?
あ、そうか、何かこれ、ジャンクフードっぽい味なんだ。まさか、この世界で新しいジャンクフードに出逢うとは!
「ふう、少し休憩しようか」
シュウが提案し、全員賛成する。
四人は盗まれないようにサイフの入ったポーチをしっかり抱えながら、しばし街のベンチでゆっくりするのだった。
第6話(終)