第12話:明日へ(最終話)
第12話:明日へ
ソワル・ジダルの街はファロスギルドの冒険者たちによる援軍の活躍で、暴走したモンスターたちから街の主要施設を護り続けていた。
「さすが冒険者たちだ。効率の良い戦闘を心得ている」
街のギルドマスター、ボルガーが感心して言う。
「ありがとう、ボルガー。街の者も必死で戦っている、この街がこんなに団結するとは思わなかったよ!」
見た目は可愛いエルフ少女のリアネが素早い剣筋で次々に巨大モンスターの足の腱を断ってゆく。
ワイバーンなど空のモンスターは、魔術師たちが担当した。
「アカネさんチームはあっちのワイバーンを落として!それからノブカツさんチームは、回復魔法ができるから、神殿のサポートをお願いします!!」
ファロスギルドの受付嬢ルマが的確な指示を出していく。
この調子なら、もうしばらくはモンスターたちの侵攻を食い止められる。
(そう、【あれ】さえ来なければ)
…だが程なくして【あれ】は来た。
カン!カン!カン!カン!
奪還した見張り台の鐘が鳴り響く。
「ドラゴンがきたぞーーーっ!!!」
その声に、ルマとリアネは素早く建物の屋根に登る。目を凝らすと遠くに飛竜のシルエットがみえた。気流を操り、各個体が単騎で飛行している。あれはワイバーンではない!
街で暴れていたモンスターたちも、あわてて散りはじめた。
「街のものは石造りの建物に逃げて!」
「冒険者たちは盾を装備!遮蔽物に隠れながら動いてー!!!」
ついに来てしまった。街にとっての最大の災厄であり脅威、エルダードラゴン。空から放たれる炎の吐息は防ぎようがない。
「とにかく、女、子供は隠れろ!丸焼きにされるぞ!窓からも見るなっ!!」
ボルガーが声をはる。
クアアアアーーーッ!!!
遠くから恐ろしい鳴き声が響いた。
魔法耐性があるため、うかつに魔法使いも攻撃できない。
エルダードラゴンは2体、街が壊滅するには十分だ。
(このまま次々と超級のモンスターが来たら、犠牲は甚大だ)
一体目のドラゴンが街の上を飛来する。
ユラリ、と街の空気が揺れたあと
ゴアアアアアーーーーッ!!
ドラゴンブレスが街を焼く。
悲鳴と怒号と破壊音が街に響き渡った。
空からの攻撃は、防御も難しい。一段と高くへ飛び、しばらくの静寂。
ギャオオオオオオオオオ!!
ドラゴンブレスの二発目がくる!!
(く!…ここまでか!!)
街中に恐怖と緊張が走る。耳を塞ぎ、地面に丸くなる街の人、子供をかばい、覆いかぶさる母親。
恐ろしい瞬間がくる…はずだった。
「見ろ!ドラゴンが去っていくぞ!」
誰かが空を指差して言った。
グッグッゲッギャアアアアツツツ!!
空中でグルグル狂ったように暴れ回っているドラゴン。まるで何かに殴られたように街とはまったく違う方角に墜落する。
「他のヤツらも逃げていくぞ!!」
思考を操っていた魔人クオンダークが倒されて、影のエネルギーが消え去り、精神状態が混乱したのだ。
(コーヘイさんたち、やってくれたんだ!!)ルマは確信した。
街の各所から人々の声があがった。
うおおおおおおーーーーーっ!!!
その時、ソワル・ジダルの街全体が、勝利と喜びに震えた。
「ただいま戻りました」
コーヘイがファロスギルドの扉を開けた瞬間、広間に集まった冒険者たちから歓声があがる。
「よくやってくれた!」
「すごいぞー!若造っ!!」
「あれがユカさんパーティーね!」
人をかき分けて、受付カウンターにたどり着く。
「ありがとう…今回もクエスト達成ですね!」
そこには涙ぐみながら勇敢な冒険者たちを迎える受付嬢のルマと、とても満足そうなエルフのリアネがいた。
「いやぁヤバかったよー!!」
ヤストがすこしおどけて言った。
シュウが静かに語る。
「でも、コーヘイが来てくれたおかげで何とか勝つことができました」
続いてリアネが、ねぎらいの言葉をかける。
「コーヘイ、お前たちの活躍はギルド中に伝わっているぞ、見事だった」
それを見て、空気の読めないヤストが言った。
「うわ、エルフのお嬢ちゃんだ!かわいい!ありがとうーーー!!」
瞬間、凍りつく空気…それは凍気。
「お、おバカ!大先輩よ!」
ユカがフォローを入れて、ペコペコ頭を下げる。顔をすこし赤くして上を向くリアネ。
「こ、今回は活躍に免じて…大目にみるっ!…そこ、笑うなっ!!」
クスクス笑いが漏れるルマ。
シュウがコーヘイの肩に手を置く。
「コーヘイ、僕たちはいつまでも仲間だな、頼りにしてるよ」
ユカも笑顔で感謝を伝える。
「ありがとう!コーヘイ」
ヤストは目を輝かせて言った。
「コーヘイ、あとで一緒に美味しいもの食べに行こうよ!」
コーヘイは笑い返した。
「ああ、もちろんだ」
その時、平常心を取り戻したリアネが声をかける。
「そうだコーヘイ、グランドマスターが会いたいとのことだ」
グ、グランドマスターが?あたりがざわつく。伝説の存在なのだ。
「今回の異変について、詳しく話をされたいらしい」
「わかった。ヤスト、みんな、メシはその後でな!」
リアネの案内でコーヘイは再びグランドマスターの部屋の前に来た。
「では私は、これで」
見た目少女のエルフ指揮官は深く礼をして、その場から立ち去った。
扉が自動で開き、中から声がする。
「こちらに来てください、コーヘイさん、いや風丘康平さん」
言われるままに、グランドマスターの前に歩み寄る。まず、コーヘイは剣の事でお礼を言いたかった。
「そうだ!この魔法剣、大変助かりました。お返ししようと思うのですが…」
グランドマスターは、にこやかに首をかしげる。
「それはあなたに託したものです」
「そのまま、お持ちください」
はっ、と頭を下げるコーヘイ。
「ところで風丘康平さん」
「私は、ファロスギルドのグランドマスター、ジェイです」
「ですが、同時にファロスコーポレーションの会長ジェイでもあるのです」
ふと気づくと、ジェイもコーヘイも現実世界の服を着て、会社の社長室のような部屋の中にいた。
「この部屋はいくつかの世界が交差しています。ですが、その事実はほとんどの人が知りません」
突然の事態に驚きを隠せないコーヘイ。
「なぜ僕に教えてくれるのですか?」
穏やかな口調で続けるジェイ会長。
「今回の異変、あなたたちの活躍は目を見張るものがありました」
「特に風丘康平さん、あなたに
お願いしたい事があるのです」
コーヘイは真剣な表情で問い返した。
「なんでしょう?」
「あなた方が倒した魔人、おそらく偶然に復活したものではありません」
「…黒幕がいます」
コーヘイの背筋に緊張が走った。
「まだ終わっていないと…」
こくり、とうなずく会長。
「わかりました。僕もこのまま放ってはおけません」
「そのクエストお受けします!!!」
ジェイ会長がニコッと笑う。
再び部屋の景色が冒険世界のグランドマスター室へと変わった。
「受けていただき、ありがとう」
「先ほど、なぜコーヘイさんなのかと問われましたね?」
黙ってうなずくコーヘイ。
「その答えは、あなたがよくご存じのはずです」
(僕が、知っている?…僕はただ冒険をしたかっただけの人間だ)
「それです」
グランドマスタージェイは我が子を見つめる父親のような目で言った。
「ここが冒険世界だから」
シュウ、ユカ、ヤストにルマさんも巻き込んで、盛大に夕食会は終わった。
冒険者の宿に戻ったコーヘイは自室の扉を開ける。ずっと会いたかった精霊マーが相変わらず、へんちくりんな姿でコーヘイに挨拶した。
「コーヘイ様、お帰りなさいませ!」
「ただいま、マー」
ただの挨拶なのに、不思議と涙がこぼれた。こいつだ、こんなやつらがいる世界で、僕は冒険がしたかったんだ。
「コーヘイ様、これからどうされますか?」
精霊マーが尋ねた。
「そうだな、グランドマスターも好きに冒険をすればいいって言ってたし」
うん、冒険していたら、きっと苦しいことも乗り越えていける。
「また冒険されるのですね!!」
精霊マーは喜びを隠せない様子だった。
(おいおい、おまえがワクワクしてどうするんだよ!)
「ああ、これからもよろしく頼む!」
こうしてコーヘイは、これからも仲間たちと共に、冒険の旅に出る。
冒険はまだ始まったばかりだ!
第12話(終)
【スタッフ】
原作:アルゴラインズ
著:牧野円
監修:森さとる
スペシャルサンクス:
木よる会の皆様
ドラゴンキャッスルズ関係の皆様
【異世界紀行・ダンジョントリッパー
ファロスギルド編】(完)