母さんが魔法少女
転送先の魔法使いの周りには火が燻っていた。
「ひどい……」
バラバラに砕かれ燃やされた木が足元に散らばっていた。
「勘違いしないで貰えるかしら、わたくしでは無いわ。木が動いて喋るなんて、」
「その声、お母様、」
「あらあら。マツリ。ライオリアはこちら側につくわ。あなたも早く、それを捕まえてきなさい。」
さくらこの方を杖で指し示す。
「あの男が言うには、その子はいま、武器を持ってないそうじゃない」
「ねぇ?マツリ」
彼女の冷たい微笑。びくっと体を震わせる。
「母さん。母さんには悪いけど、あたしは友達の味方でありたい」
「はぁ、下らない。変身」
歳が若返り、魔法少女の姿になった。マツリちゃんにそっくりだが、まとう空気はどこか冷たい。
「母さんが魔法少女」
「ねぇ、2人ともご存知?魔法少女の強さを」
反応出来たのは、さくらこだった。マツリの襟首を掴んで、自分もしゃがむ。
背後の壁にざっくりと斬撃の跡があった。
「アルファーレム!!」
ゴーレムが2人を守るように覆い被さる。
「だめ、マツリちゃん!」
あの威力の斬撃を出せる相手に自ら視界を塞ぐのは悪手だ。
「この子のほうがよくわかってるじゃない。」
アルファーレムの両腕が切り落とされる。
「ベータ!極大防御!」
腕を振り下ろす母親に向けて、岩の盾を張る。
「シールド・シールド・シールド」
さくらこは半球状のシールドを重ねてはり、直後に背後から砕ける音をきいた。
「種魔法・シルド」
威力が緩和された攻撃を防ぐ。なんだ?糸か?
「あなたなかなか、戦闘の勘がいいわね。発動の早い旧魔法で攻撃を緩和。かつ、感知をして、硬い新魔法で、防ぐ。それなりに場数を踏んできているようね。」
「どうも!」
さくらこは、鞘を構え考える。鞘にはさくらこの杖の魔法石がはめられている。今みたいに魔法を放つことはできるだろう。だが、弱い。さくらこはやはり、勇者の剣が手元にないことを不安に思った。
「私の勇者魔法で」
直接叩き込んで魔力を消し、戦闘不能にする。
「火薬玉」
突如目の前で花火が爆ぜた。
その爆風に吹っ飛ばされる。
「っつ!」
吹き飛んだ先には、鉄の檻。
「さくらこ!足場に」
足元にアルファを召喚される。
「ごめん。アルファちゃん。」
アルファを踏み勢いを殺す。アルファはそのまま、さくらこを上にあげる。
さくらこは下を見ると、魔道士が増えていた。
「わたくしのコレクション《魔法少女》シリーズ」
彼女が杖を振るとさらに人影が増える。
「……あなたを血みどろに、マジカルブラッド」
「……金を積んだら、なんでもします、マジカルリッチ」
「……斬る、斬る、斬る、マジカルワサビ」
「……爆ぜろ世界、マジカルハナビ」
「……知恵袋、なんでもわかる、マジカルオウル」
みんな、虚ろな瞳をしていた。
「みんな、どうして」「アネキたちなのか」
それに
「あのマジカルオウルって、アンリちゃんじゃ」
「うそ、だろ」
「仮ですわ。本物はわたしに力を奪われてから逃げ隠れてしまったから。中身はくたばり損ないを使わせていただきました。足止めに使うなら、これくらいしないと。ラッキーですわ。瀕死の魔法少女が次々と手に入るなんて。次は勇者の娘」
彼女が手を伸ばす。
「さぁ、わたしのコレクションたち、さっさと、終わらせなさい」
「「「「……はい」」」」
刀を避け、飛んできた金貨を跳ね返し、拷問器具を跳んでかわし、魔法を砕く。
「さくらこ!これじゃあ!いつまでももたないぞ!」
「分かってる!!」
さやに勇者魔法をこめる。まだ、応えてくれない。この鞘に込められている力を読み解けば、私はさらに力を得られる。そんな予感がする。
「マツリちゃん!わたしに1分時間をちょうだい!」
さくらこは鞘の金の輪に手をかける。
これをはずしてしまえば、一気に魔力を吸われてしまう。だけど、本来の出力を使えるはず。操ってる魔法を解除してしまえば、なんとかなるはず。
「わっーた!!アルファ!ベータ!致命傷だけでいい、フォローをたのむ。んで、いくぜ!!」
彼女は、手のひらを向ける。
賭けだ。アルファは魔石を砕いた土、ベータは魔金属から生み出した。いま、散らばっている木々は高い魔力を持っている。だから、命を与えることは出来るはずだ。そしたら、戦力になってくれるはず。
「信じられない。才能なき娘に命をあずけるなんて、2人とも死になさい。ヤレ」
魔法少女たちが一気に魔法を繰り出してくる。
「木人たちよ。あたしが力をわけてやる。甦れ!!」
次々に魔法が飛んでくる。答えは無い。あたしはライオリア。才能はない。
「才能なくても、友達守る力くらいあるだろうが、根性見せろや!あたし!……ガンマ!!!」
木々が纏まり、1つの体を成す。小さな鹿が生み出される。
『これは、いったい』
「ガンマ!目覚めに悪い。助けてくれ」
『再び、生を受けたのか。……わかった。体の形が変わっているが、なんとかなるだろう』
彼がひづめを鳴らす。
足元から木々が伸び魔法少女たちを縛り上げていく。
「よし!やったぞさくらこ!」
振り返った彼女の目には、迫る母親の姿。
「じゃまをするな!!バカ娘!!」
糸を鋭く、伸ばす。
「うそだ、ろ」
安心して気が緩んでしまった。まずい。
いつも読んでくださりありがとうございます!
はじめにあった人物紹介を活動記録に移して、第1話を書き換えました!