発動
世界樹内にて、戦闘を感知。
木人残存数1。
生命反応低下。
緊急プログラム発令
コード 《天使》 を オーダー
「承認。ダーリン、って呼びたくねーな。あのおっさん。いや。あいつ。しつこすぎだろ」
暗闇に呟く声が聞こえる。
「みんな……いままで、ご苦労だったな」
女性の声がする。すこしだけ、声がかすれていたようだ。次の瞬間。
「おい、さくらこ、いつまで寝てるんだ。しゃんとしろ!」
鋭く輝く眼光がこちらを見据える。
「はっ」
さくらこが目覚めると、くま先生と額をぶつけた。
「ぬぅ。起きたか春風」
「ってて、いったい、どうなった、の」
「俺のほうが聞きたいくらいだ。」
辺りを見渡すと、負傷してる人達が治療を受けていた。
「この大聖堂は、ちょっとやそっとじゃ壊れないつくりのはずなんだがな。半壊している。春風、起きてすぐで悪いが力を貸して欲しい。」
くま先生の出で立ちは普段と大きく違っていた。木を編み込んだ鎧を身にまとって、爪には大きな鉤爪を付けていた。
「いくよ、さくらこ。……くま先生。さっき言った通りだから」
「……ぬぅ。だが、」
なにやら、納得してないような雰囲気を醸し出している。
「マツリちゃん」
マツリの様子もおかしかった。なにやら、くま先生と話をしていたのか。気になるのは目を腫らしていた。
「もしかして、マツリちゃん、さっきまで泣いてた?」
「ん、ああ、あくびが出ただけさ。さくらこ。お前が気絶しているあいだに怪人が現れてな。アンリに化けて、不意打ちくらわしやがったんだ。本物のアンリは《鳥の巣》の、医務室で休んでいる。」
早口でまくし立てるようにマツリは喋る。
「え、無事なの?」
「あぁ、大丈夫だ。もし、この先で誰かに化けた怪人に出会ったら、構わず進め、あたしが、代わりに相手すっからよ」
マツリちゃんが腕まくりをする。くま先生もそんなマツリの様子を見て、さくらこに話しかける。
「……いまから、白仮面の連中を追いかける。勇者の剣を奪取しろ。ここから先の戦いは、人類の命運を左右する戦いになる。……春風、これを渡しておく」
ノートの切れ端が数ページ。
「くま先生、これって」
魔女のノート相変わらず何が書いてあるのか、分からない。
「かき集められるだけ我々が集めていたはじまりの魔女のノートだ。校長先生から託された。……剣のないお前が戦うために必要になるかもしれない」
さくらこはノートを取り出すと、先生の杖の一振で、修復されていく。だいぶ元の本に近づいた。それからと、先生はグイッとリュックを差し出した。
「役に立ちそうなものを一式を詰めこんだ。食い物や飲み物も入っている。あとで食べろ。」
何やら外が騒がしい。
「……来たか。ライオリア、春風」
くま先生は鼻をひくつかせて、渋い顔をした。
「いまから、お前たちを白仮面のところに転送する。大聖堂の道は途切れてる。だが、俺は1度あそこに行っている。転送魔法でいけるはずだ。剣を取り戻してこい」
「せ、先生は」
「ここにいるものを守る。いま、やつらが何かしたせいで、ここに大量の《天使》がくる。はじまりの魔女の手の者だが、やつらに慈悲も敵味方の区別もない。殲滅するだけだ。」
嫌なほど知ってる。
くま先生は杖を抜く。
「援軍が来たらすぐに送る。春風、ライオリア。やつらに門をくぐらせるな。行けばすぐわかる。」
転送魔法により、さくらこたちを送る。
「……ライオリア。ほんとにいいのか。」
第3勢力として、現れた白騎士たち。馴染みの者。
間違いなくはじまりの魔女に近づこうとしている。
もしも、さくらこや人類の敵になるなら、わたしが、アンリを
彼女の言葉を思い返す。
そうならないことを祈るしかない。
大聖堂の外に出ると、空には大量の《天使》がいた。白い輪を頭に載せた存在。
「……っ。思い出したくもない。」
いまなら、分かる。あれは、機械だ。
失われた技術。はじまりの魔女の時代の。
ざっと、数十機。ロックの時代には、3機ほど現れたが、国は半壊して、死傷者もたくさんいた。
「リベンジマッチだ。鉄くずにしてやる。」
一斉にレーザーを放ってくる。負傷している子どもたちにも、躊躇なく放たれる。それらの座標を先読みし、転送呪文をかけ、他の天使に当たるように仕向ける。
「す、すごい」
女生徒が驚嘆するも、ロックは警戒を解かない。
「できるだけ1箇所に、私の後ろへ。……《天使》ども、お前らの武装が効かないなら、当然」
《天使》たちは、くま先生目掛けて飛んでくる。全身から刃を出して、回転しながら迫ってくる。くま先生は鉤爪に魔力をのせ、獣のように咆哮する。
「白兵戦だよなぁ!おらああ!!」
さくらこたちが目を開けると、
「いらっしゃーい。」
1人の魔女が立っていた。