最悪の怪人イカロス3
「神?ばかじゃないの」
さくらこは吐き捨てるように言った。
「立場を考えてね?勇者ちゃん。君は、今人質を取られていて、あらゆる技が、ボクに効かなかったんだよ」
さくらこの魔法も、勇者の剣も効かなかったのは事実。演習場に現れたイカロスは、まず、監視をしていた魔法少女たちを瞬時に倒し、奇襲を成功させた。その場にいた参加者が気づいたときには、全員が負傷していた。盾に潰され、拳で殴られ、剣で切られ、魔法で飛ばされる。手足の他に6本の触手それぞれに奪った魔石を宿してるのを感じる
「タコニチュア。君にその剣を残した彼は絶対的な勇者ではなかった。魔女に挑み死んでいった哀れな魚人の1匹だ。」
「タコさんのことを知ってるの?」
「知ってるわけじゃない。覚えているのさ。僕の細胞が。」
彼は触手を向ける。
「う、ぐ」
「アンリちゃん!」
触手によって、捉えられたアンリを向けられる。
「魔女から魔法石を抜かれた後も奴は世界線に抗い続けた。そういう意味では勇者だったかもな。他の勇者は惨殺されてしまいだったが、魚人の生命力で生き残ったわけさ。」
「アンリちゃんや、みんなを返して!」
「魔心臓は抜いてしまえば、成長が止まるから。飼い殺してあげるよ。もちろん君もね。勇者ちゃん」
「わたしの魔心臓……」
「僕はつよいけど。念には念を。ね。魔女の強さを知る人間はいないからね。極限まで強化させてもらう。この力最強にふさわしい。」
「……。あなたは、哀れな人だね」
「ん……なんだって?」
「哀れだって言ってんの。みんなと、みんなの力を奪っただけ。あなた自身は何も成長してない。哀れだね」
「君は魔心臓とりだしたら、ぐちゃぐちゃのミンチにしてあげるよ。」
「……巨人の輪」
鞘からリングを外す。魔力がさやに吸われ始める。何秒持つか分からないけど。
「フィール0……百花繚乱流…………」
「?」
「無・薔薇!!」
魔力無効化をまとったトゲを精製し、剣技と共に切り植える。
「こんな、小さなとげ?攻撃のつもりかい」
「そうだよ」
キン!!
さくらこが剣をさやに納める音とともにトゲの周囲の魔力をえぐり去る。
「!?」
「旧魔法!探求針!!」
鞘に反応し、魔法が強化される。さくらこの目にたくさんの魔法石のありかが映し出される。
「フィール2、怒」
「その攻撃はさっき防いだろ?君の先輩の技で狩ってあげるよ、蒼拳!!あの、弱いくせに魔法少女を名乗ったへなちょこの技。僕なら昇華できる!だれが、哀れか言ってみろ!!群青拳!!」
ぎり、さくらこは歯を食いしばる。
「先輩は、弱くない!!フィール3、激怒連斬………威薔薇!!!」
殴打と斬撃の応酬が互いにダメージを与えていく。さくらこは的確に魔法石を弾いていく。
「小賢しい。これだけ集めるのにどれだけめんどうだったか!!」
再生と殴打で、深刻なダメージはないとはいえ、苛立ちを表す怪人にさくらこの頭は、通常よりも早いペースで感情が溢れ出ていた。
「うらああああああああああ!!!」
「離れろ!!!」
肉体を弾けさせ、さくらこを遠ざける。
「お前には、人質が見えないのか!!」
触手を向ける。だが、その先端はすでになく。
白い仮面の魔道士たちが、少女たちを救い出していた。
「なんだ、きみたちは」
「悠長なおしゃべりのあいだですよ。知覚を眠らせましたが」
「タダシさんの剣技と俺の煙の合わせでな」
「おいエセ勇者、遠慮なくかませ。全力でよ」
「フィール……4......」
鞘に描かれた桜の紋様が光り、さくらこの集中力が研ぎ澄まされる。そして、虚ろに呟く。
「神化深解……ソウルアーツ……マジックブースト」
獣人、巨人、魚人の文字で描かれた魔法陣が共鳴を始める。武器の性能があがり、肉体と魔力が強化される。さくらこの肉体にも影響があり、髪や背が伸びていく。その姿ははじまりの魔女と瓜二つである。
「……っ。あの女、研究室にあった写真の」
流石にこの出力は、とっさに肉体の一部を切り離す。大部分を失うが、また、長い年月をかければ復活は可能だ。
「わたくし、そういう美しくない真似は好きじゃないので、ጿ ኈ ቼ ዽ」
イカロスの背後に現れた白い仮面の魔法少女が一瞬時をとめる。
「……桜紋・大一閃」
さくらこは、剣を振るう。
「春!」
足を踏みしめ、
「一!」
腰を捻り
「番!!!」
一気に振り抜く。
渾身の一振り。その一振りは空間を切り裂き、凄まじい強風と、魔力圧で、怪人を時空の彼方に消し去ってしまった。
さくらこを包んでいた光も消え、膝から崩れ落ちた。
「よし、勇者の剣を回収した」
白い仮面の少年が、聖剣を拾い上げた。