賭け試合4
「さーちゃんの魔法による他者の精神への干渉。上手くいって良かった。手助けしないとまだ発動しないフィール3。彼女たちもピースの一欠片になりうる」
取り残された少女はつぶやく。
「んーまたひとつ花が散っちゃった。さーちゃん早くしないと滅んじゃうよー。この世界」
魔法は精神状態が大きく作用する。幼きころに虐待を受けていたマツリの精神は限界を迎え、バラバラになった。アルファとベータという不完全な召喚獣はその彼女の心を写し取る。
春風さくらこの意識が現実世界に帰還した時。目の前には、マツリの背中があった。全身から蒸気の様なものが立ち上っている。マジックブーストで身体能力をあげたのか。
「助けて、じゃない!!助けるんだ!!あたしが!!」
頭が冴える。うだうだしていた時間が嘘のようだ。
固い決意とさくらこが整えた彼女の精神により魔法は本来の姿に戻る。ライオリアの魔法は召喚魔法。長女は魔金を、次女は魔具を、三女は魔獣を召喚する。
「アルファ!ベータ!」
桜子を狙ったハナビの雷撃は地面から生えた巨大な土の手によって握りつぶされた。
「泥人形か。おあつらえ向きだなっと、と、と?!」
土の弾丸が飛んできたのを、躱し、再度雷が放たれる。
「ゴーレムが飛び道具だと」
「アルファの柔軟性、ベータの強固さを混ぜ合わせ自律式土人形を作り出す。本体の話をしていたな。アルファはキンギョ姉、ベータはハナビ姉だ。」
「はぁ?何を言って」
「家出して、外の世界にでて、命を脅かされ、強さが必要だった。ライオリアの人間は嫌いだ。だけど、私にとっての強さはあんたらだった。幸い、キンギョ姉のコインも、ハナビ姉の火薬玉も、浴びるほど受けてきたからな。それを本体にして、魔法を作り上げた。」
空間をこじ開け、取り出したのは、コインと火薬玉。そこから魔力がほとばしる。
「この召喚魔法で姉貴!あんたを超える!!バリュー!!」
ハナビは手に握った古い火薬玉とコインを捧げる。バリューは価値のあるものを捧げることでそれに見合ったエネルギーをわたす魔法である。価値の見出し方は人それぞれ。他者にはガラクタでも強い思いの籠った供物は、多大な魔力を引き出すことになる。マツリはバリューによって引き出されたエネルギーを使って魔法を解放する。
『あたしはどこまで行っても家から離れられない。なら、とことん利用してやる。キンギョ姉の魔力も、マツリ姉のコロシアムも!ライオリア流召喚魔法 アルベーレム!!』
不思議な形のゴーレムだった。内部に筋肉があり、周りを強固な外皮を持つ生きているかのようなそれをハナビは攻撃する。
「所詮ゴーレム!ぶっ壊しちまえば」
腕がくだけるが、直ぐに再生する。
「ははっ!面白いなマツリたん!なら、あたしも本気で動いてやるよ。燃やされる前に回収しておいた魔女の1ページ。魔装の秘技を」
「火よ、いかづちよ、雷のように燃え広がれ、炎のように落ちて来やがれ、火雷天神・花火万雷」
『な、ちょっと!ハナビ氏!やりすぎでは!?うわぁぁぁ』
「わりぃな!まだあたしも完璧に制御できてるわけじゃねーんだ」
それでもハナビは魔装をさらに強める。図書館にあった魔法の本。売る前に貴重な本は回収してある。中でも異質だった数片の紙。魔女の1ページに書かれた魔装。はじまりの魔女が、書き込んだと思われるメモでハナビの魔法はさらに磨かれた。まだまだ強くなれる。視認できるほどの魔力。炎に包まれた雷撃が、光の束になっておそいかかる。
「護るよ!!アルベーレム!」
アルベーレムを盾にして、攻撃に耐える。耐えて!耐えて!!耐えて!!!
「ウオオオオアアアアアアアアアッッッッ!!!!!」
砕かれた先から再生させる。あたしの後ろには大事な友達がいるんだ!
絶対に守りきる!!
「後ろががら空きだぜ?」
激しい攻撃をおとりに、回り込んでさくらこを狙っている。
「わかってるよ!あんたならそうするって。ちびちゃんたち!」
さくらこの周辺の地面からちいさなゴーレムが飛びだし、不意をついて、ハナビの手足をつかむ。ちいさな召喚獣の扱いは慣れている。アルファとベータのおかげだ。
「チビアルファーレム!!引きづり落とせ!」
「くそ、離せ、重い」
スピードがガクッと落ちる。
「いくら姉貴でも、この状態で早くは動けないだろ?」
「マツリィィ!!私を見下ろすなぁ!」
ハナビの目には、マツリが飛び交かる姿が写った。
「もう、怖くない!怖がる必要はない!私は強い!強くなった!」
自身のゴーレムを駆け上がり、拳を岩で固め、殴りかかる姿を。
「あたしの、あたしたちの、勝ちだ!!!ウオオオオアアアア!!ラァア!!!」
マツリがハナビを殴り倒し、観客たちは歓声と悲鳴をあげる。ハナビは起き上がれない。会場内を激しく破壊していた雷もやんだ。
『な、な、な、なんていう番狂わせ!!ハナビ氏の顔面へのヒットと気絶により、勝者は、反逆の小熊チーーム!!』