金策④
「ブラッ…ド…」
マジブルーは、胸の傷を押さえながら、かろうじて息をしていた。魔法少女オウル。聞いたことはある。だけど、その人はすでに。
「…魔法少女オウルって…たしか…」
研究室との大規模な戦いのあった数年前に大怪我を負って引退してるはず。三年生である二人も動揺している。
「なんで、あんたはんが」
「違うぞ。リッチ。絶対あの人じゃない」
二人は衣装が同じでも、思い描いた人ではないことは感じていた。だが、その声が仕草がそれを感じさせる。
「んー、ひどいなぁ、私が魔法少女オウルだ、ぜ☆」
相対する魔法少女白い外套が大きく膨らみ。ふわふわモコモコした身体。感情豊かな声色とは逆に、無機質な陶器のような白い仮面。
「距離が少しあるとはいえ、世界樹の魔力の加護は絶大だな。私の知識が、再現可能な技になるなんて☆ハリキリがいがあるぜ。仮面の子に感謝しなきゃ。ちゅっとかしちゃってさ☆」
彼女はくるくる杖を手の中で回しながら嘯く。
「リッチ!ブラッドとブルー連れて撤退しろ。」
「だれが、あんたはんの言うことを」
「聞け!この場に、そう、この場に現れて、私たちを呼んだ意味を考えろ!」
「…?………まさか?!!行くで!あんたら!立ちや!!」
マジリッチの頭に浮かんだ最悪。封印してるあの怪物に、私たち魔法少女を食わせる。誰にも止められなくなる。
「逃げさせると思ってんの?」
杖が何かを形取っていく。何かされるまえに。マジワサビは、刀を召喚する。戦闘用の中でも一番の業物。手によく馴染んだそれは彼女と苦楽を共にした名刀。「撫子」それを横目に見た、マジカルリッチは、彼女の本気さを汲む。あれを抜かないといけないレベルの相手。冷や汗が流れる。チャンスは一瞬。
「押し通る、だけだ!!」
「「百花繚乱流」」
声が重なる。
「!?…向日葵!」
同じ構えに戸惑うもののそのまま刀を振るう。ワサビ得意の広範囲に及ぶ刃撃。円を描くように刀を振るう。魔力を乗せて、威力をあげる。同じ構えをとった仮面の女は杖を刀に変えて、魔力を集中させる。
「源流 向日葵刃武」
ワサビの一撃の魔力を巻き取りながら、刀を回す。二人分の技の威力を乗せたまま、袈裟斬りにマジカルワサビを斬りつける。
「…な」
なんだ今の技は。私の技が。それよりも。源流。源流と言ったのか。数100年前に失われた技だぞ。まさか。そんな。
「な、何ぼーっとしとんねん!ドアホ!花魔法!硬貨雨弾!!」
宙にばら撒いたコインに魔力が籠る。腕を振り下ろすと、コインがマシンガンのように降り注ぎ、二人を引き離す。マジオウルはさっと後ろに飛び、距離を保つ。
「ぐ…」
傷が深い。現役の魔法少女相手にこの傷。魔法少女服は、かなりの耐久力を持つ。だが、こうも易々引き裂かれるものなのか。
「しっかりせんかい!ワサビ!」
援護をした彼女の頬に刃が迫る。
「いっ!」
「源流 竹囃」
刀が次々と、飛んでくる。回収したマジブラッドを落としてしまう。
「余所見はダメだよ?キンギョちゃん。だっけ☆」
ゾッとする。声色は優しく、彼女を思い起こす。
「…ぼ、ぼけ!よそ見なんか、するかい!すまん、ブラッド、早よ立ち!逃げるで!」
コインで刃を撃ち落としていく。
「どうせ、あんたも、研究所の!ギロギロチンチン!ギロチンチ…」
マジカルブラッドが。ゆらりと立ち上がり、たくさんの拷問器具を召喚し、飛びかかる。
「はぁ、気持ちを込めて、一生懸命やれば、自分の都合のいいようになるって。本気で思ってんの?行き当たりばったりの感情で戦うことが通用するほど、はじまりの魔女は甘くないぜ☆呪詛返」
軽く杖を振るうと、拷問器具が向きを変え、マジカルブラッドに襲いかかる。
「え、なんで、あ、あ!ああああ!」
「人を呪わば、穴二つってね☆」
「何が目的や!!」
「やっと君だけになったね。ライオリアの魔法少女。君たちが隠し持つ、魔女の手帳をよこせ。図書館にはなかった。あそこにあったのは、真実を捻じ曲げた紛い物だけ。だから、焼き払った。時間がない。わたしの実力は分かっただろ?」
「わ、すごい!」
さくらこたちは、獣人たちが働くカフェにいた。無重力空間に浮かぶドリンク。かわいいケモ耳のメイドさん。ここは理想郷か!?
「美味しいな!この料理!獣人語だからよく分からなくて不安だったけど。この味はなかなか!」
「かわいい!ウチも写真撮りたい!」
さくらこたちは大いに飲み、歌い楽しんだのだ。
「ありがとう!ニャルゴちゃん!とっても楽しいよ」
「楽しんでもらえてよかったにゃ!まさか、さくらこがお金持ちだとは知らなかったにゃ」
「ん?何言ってんのニャルゴちゃん」
「にゃ?だってこのエリアはVIPがくるレストラン街にゃ。ウチの店も高級レストランにゃ。一皿数万の皿をペロリにゃんて、とてもとても。みんな少しずつ味わいながら食べる店にゃ」
さくらこの血の気が引いている。そんな場所でさくらこは飲めや歌えやの大騒ぎをしていたのだ。
「さくらこ?大丈夫かにゃ?」
「う、うん、ちょ、ちょっとトイレに」
「み、みんな、集合」
「お客様、そろそろお席のお時間が来ております。」
無常にもそんな一言が頭上から聞こえてくる。顔を上げると、ギラギラ光る牙をもつヒョウの獣人がいた。
「あ、わ、わ、」
「どうなされましたか?お客様」
「ひ、実は」
さくらこは観念して話した。
「ふぅ、金がないと」
さくらこたちは通された小部屋で黒服たちに囲まれて立っていた。全員屈強な肉体を持つ獣人。店のオーナーは葉巻に火をつけ、煙をふかす。ワニの獣人のオーナーはさくらこたちをゆっくり眺めた。
「す、すみません。とても素敵なお店で、楽しくて、つい。そんな高級店だとは」
「あん?ウチが安っぽいってか?」
黒服の1人ががなる。
「ひ、そういうわけでは。」
「持っているお金全部です。いくらでも働きます。すみませんでした。」
3人して頭を下げた。
「全然足りねーよ!!」
黒服の1人が机を蹴飛ばす。
「やめねーか。おい、にゃるご。こいつらと知り合いなんだろ?どうするこの落とし前」
さくらこたちと同様ににゃるごもそこに居た。顔面蒼白でしっぽは小刻みに震えていた。
「わ、わた、わたしは、」
「にゃ、にゃるごちゃんは悪くありません!わたしたちが」
さくらこが声を荒らげると、頭に冷たい感触が。
「頭を冷そーね。自分の置かれてる状況分かってるよね?」
女のヒョウの獣人が囁く、
「いいカモだと思ったのか?」
「ち、ちがうにゃ!そんなことは思ってないにゃ。さくらこは恩人で友達にゃ。そとの世界で意地悪されたのを庇ってくれたんにゃ」
「勇者春風さくらこ。ライオリアの3女、マツリ・ライオリア。禁魔区の奇跡アンリ・ガルダリオ。ただの若い女に、これだけの価値がつくとはな」
ワニのオーナーは、近くの黒服に何やら金属のトレーを見せた。
「は?え?このガキどもが、え?」
黒服の驚きように、さくらこたちは戸惑う。
「一人売ればお釣りがくる。これはタブレットって言ってな。旧世界線の技術でな。あらゆる情報が手に入る。んで、賞金首を探せるんだよ」
オーナーは、こちらに投げてよこす。
「誰を差し出す?」
3人の顔写真がそこには載っていた。額の違いはあれど、顔の下には0がいっぱい書かれていた。
「ワルス家に楯突いた世間知らずに、ライオリアさんとこの家出娘、禁魔区の亡霊。どういう縁をしてんだか、で、誰が死ぬ?」
元はと言えば、確認もせずに来てしまった自分が悪い。さくらこの判断は早かった。
「わたし!」「あたし!」「ウチ!」
三人はそれぞれ自分を指した。
「「「!?」」」
「ばか、おまえら、そもそもあたしが姉貴の誘いに乗ってればこんな苦労はしなかっただろ?」
「それを言うなら、うちは何にも役に立ててない」
「私だって、入学してから、二人に助けられっぱなしで」
三人の様子を見ていたオーナーは、
「……この経歴、お前らそれなりに戦えそうだな。おい、今日の試合のマッチングリストを持ってきな」
「おー、こりゃあいいぜ。お前ら、賭け試合に出ろ。」
「?」
「万が一にも、お前らが勝てば、借金はチャラだ。残った金も支払ってやる。」
「え!」
「こいつと戦って勝て」
オーナーが指差した先には、ハナビ=ライオリアの名前があった。