金策2
「まつりちゃ?マツリちゃあ、あ?ああああああぁぁぁ……」
次第にフェードアウトしていくハナビの声にさくらことアンリはあっけにとられる。
「え、えっと、良かったのかな」
「お姉さん上いっちゃったねぇ」
「いいんだよ。」
だが、14階には何があったんだろう。エレベーターの階層を案内してる枠は何故か白塗りになっていた。
「もしかしたら大図書館かも」
アンリは目を輝かかせた。そういえばアンリはそれを楽しみにしていたんだった。学校にいる間、暇さえあれば、図書室に通っている彼女のことだ。大きな図書館はとても魅力的なのだろう。
「そういえば、世界でも指折りの蔵書量なんだろ?」
「貴重な昔の本もたくさんある。とくに世界線が更新されるまえの書物も沢山あって」
なんか生き生きとしてるアンリちゃん珍しいな。いつも落ち着いている印象があるから。
「うちにとって本は世界だから」
「大図書館は」
階段を駆け下りながら、ハナビは言った。トゥっという掛け声とともに降りたった。
「ないぞ」
「え……」
「あんなもん金にならん。くぅ~さすが、マツリちゃん!お姉ちゃんと会うのが恥ずかしかったか。かわいいやつめ」
「おいおい姉貴どういうことだよ」
さらりと無視して話をする。
「ごふ、さっき言っただろ?もうねーよ」
無視に少しダメージを受けたみたいだが、彼女は質問に答える。
「この建物は旧世界線の建物だ。建築技術も空間拡大魔法も今の世界線の比じゃない。そもそも空間拡大魔法はここを解析して作られたもんだからな。確かに蔵書はすごかった。だがな金にもならない本を置くより、研究して有効活用した方が、いいだろう。だから売った。」
「売った?!そんな、人類の叡智が」
アンリが絶望に打ちひしがれていた。
「物好きの金持ちがいてな。ここの商売の元締めはライオリアの管轄だからな。売っぱらった。いやぁ、すんげぇ額になったぜ。んでよ面白いのがよ」
彼女は傑作だというように笑う。
「そいつ、数日後には、本に火を放って灰にしちまったんだぜ。くくく。さすがのあたしも絶句したさ。」
ふらっとアンリが倒れた。泡吹いて気絶してる。
「アンリちゃん?!」
「お、おい。アンリ」
「ん?大丈夫か?そいつ。」
「そのお金持ちって」
あー、たしか、こんな風に名乗っていたな。
「魔法少女オウル」
「おいさくらこ。魔法少女オウルって知ってるか」
「いや、聞いたことない」
「ん?聞いたことないのか?お前が?」
何故か怪訝そうに眉をしかめるハナビ。わたしが魔法少女見習いだとしても、いつも会長やミナト先輩について行くだけだから、他の魔法少女との交流なんてない。
「ふーん、あいつ、言ってないのか?ま、いっか。おい、マツリ。そこにぶっ倒れてる女はお前にとって大事か?」
アンリちゃんを指さす。
「……大事な友だちだ。」
「あたしよりもか」
「まぁ、そうだな」
にやりとマツリは言い放った。ハナビの目元がぴくりと動いた気がした。さくらこは静かに気づかれないように剣に手を伸ばした。マツリは気づいてない。
「ふーーーーん、あたしよりもか」
「なんだよ!当然だろ?小さい頃にあんだけいじめられたんだ。今更好きになれって方が不自然だろ」
「……いやな。そいつを助けたほうがいいか。殺した方がいいか。迷っていてな」
ふと、思い出したかのように言った。その一言にマツリが青ざめる。
「あたしの友達に手を出そうってんなら」
「どうだっていうんだ?かわいいかわいいマツリちゃん」
彼女は両手にバチを召喚した。見た目はなんの変哲もない木の棒だ。たいこを叩く時のバチだ。魔力が見えるさくらこは、たじろぐ。高密度の魔力が込められている。あんなのでたたかれでもしたら。
「お仕置が必要か」
その一言にさらにマツリは青ざめる。
「へ、へ。あたしだって3年前のあたしとは違うんだ!捕まるもんか」
精一杯のつよがりだ。さくらこでも分かる。
「……なにを言ってんだ?誰がお前を捕まるって」
彼女はくるりとアンリの方を見る。狙いに気づきさくらこは走り出す。
「お前は傷つけないよ。あたしには、お前が大事だからな。お前は傷つけない。だからよぉ、そらぁ!!」
振りかぶったバチをさくらこは間一髪鞘で受け止めると同時に叫ぶ。
「勇者魔法フィール0!」
さくらこは吹っ飛ばされる。十分気持ちを整えることが出来なかった。消しきれなかった魔力がはじける。
「噂の勇者魔法か。あたしの大バチを受けて、折れないなんて、相当な強度だな。いや、この感じ魔力を吸ったのか。」
くるりとバチを回し、今度はさくらこの方へかけ出す。
「敵対するなら、花火のように散りな!!勇者!」
マツリちゃんのお姉さんと極力戦いたくはない。どうする。鬼のように冷たい表情の彼女。マツリ以外に興味も慈悲もない。
「悪かった!!ハナビ姉!あたしが悪かった……」
さくらこの眼前でバチが止まる。
「全面的にあやまる。許してくれ」
「一言一言は大切にしたほうがいいぜ。マツリ。外の世界に染まりすぎたなあ。不用意な一言が酷い仕打ちに繋がるうちのことを覚えてないのか?」
「もう、わたしはあの家とは」
「仲間を守るために動けない。口先だけのお人形さんだな。大人しく飼われとけばいいのさ。お家のためにな。」
マツリはなにも言えず、唇を噛み締めたままその場に立ち尽くしていた。