金策
キンギョは、外に出て数回深呼吸する。いまから話さないといけない相手に粗相があってはいけない。のどの調子を整えて、念話を飛ばす。
「もしもし。なんですの。お母さま」
先程までの声とは違うかわいらしい声。
「また、下品なイントネーションになっていましたよ。キンギョさん。」
「申し訳ありません。」
「ライオリア家4条」
「常に上品で気高くあれ」
「ライオリア家第一条」
「むしり取る際、けつ毛も残さぬ」
「え?いまなんと」
「敵対する際、チリをも残さぬ、と申し上げました。」
「左様です。魔法少女を増やすことは、ライオリアの価値が下がるということ。許されないことです。あなたが唯一の魔法少女であるアドバンテージは守りなさい。」
「しかし、他の学校や魔女の復活の可能性を考えるならば」
「知ったことではないわ。お家のために我慢なさい」
その通信は一方的に切れた。キンギョはイライラを募らせていく。母親の理不尽も、次女の奔放さも、末妹が見つかったことも、勇者が現れたことも。お家のために我慢なさい。その言葉は幾千と聞いた。何もかもがうっとうしい。
「……勇者、殺し……」
一瞬よぎった考えを頭を振り追い払う。違う。この短絡的な考えは危険だ。
さくらこたちは、午前の授業を終え、第二魔法学校を歩く。全てを自分で賄えと言われ、とりあえずの宿を確保し、所持金が心持てなくなっていた。
「素泊まりで1泊10000ブロッサムは足元見すぎじゃねーか!」
「稼げる時に稼ぐ。間違ってはない」
アンリはそのあたりシビアだった。
「取りあえず、バリューって魔法使うには、金を稼がないと」
「あとは、練習だな。とりま、空き缶並べて狙ってみるか。100ブロッサムで」
「「「バリュー!」」」
さくらこのバリューは、ひょろひょろと飛び、マツリのバリューは不発。アンリのバリューは弱いながらも缶を倒した。
「威力がみんな違うな」
「魔法は同じなんだけどね」
「マツリちゃん不発だったね」
「うっせーよ。ちょっといらいらしすぎて、手元が狂っただけさ。」
「100ブロッサムでこの威力。魔法の上手なアンリちゃんでさえ、缶を倒す程度」
「んで、金は転送されると」
「どんな仕組みなんだろ」
「おそらく召喚魔法。通貨にあわせて扉が開く、だけど、」
「引き出せる量は術者しだいってことか?」
アンリとマツリがふむふむと話し合っている。さくらこには一切わからない。
「え、えっとどういうこと?」
「たぶんどっかにエネルギーの塊があって、対価を払うと、そこへの扉が開く。契約者が力を引き出すのさ。こいつらと一緒さ。」
アルファとベータがマツリのまわりをくるくる回る。
「アルファとベータも、本体があって、そこからいつも召喚してる。魔力を食わせて、その分働いてもらってんのさ。あたしの実力的に、このサイズなんだけどさ」
「いまの考えが当たってるんなら、急がないとやばいんじゃない?お金持ちがたくさんエネルギー持ってっちゃったら」
「争奪戦になる」
「そっか!バーゲンセールみたいだね」
さくらこの一言に目を合わせて、笑い出す2人。
「ふ、ふふ、ふふ!さくらこそれは、なんかふ、ふふ」
「はははは!たしかにそうだな。金稼いでとっとと買い占めちまおーぜ」
さくらこたちは、残った残金のことを考える。
「金稼ぐには、やっぱ働かないとだな」
「他の子が言っていたみたいに日雇いもある程度あるみたい」
「何をするかだな」
さくらこたちは、エレベーターの前でたちどまる。20階建ての巨大なビル。学校があるのは3階まで、それ以降は商業施設。4階から7階まではスーパーや子供服売場、8階から10階はレストランやフードコート。11階から13階は映画館やアミューズメントエリア。15階より上はVIPエリア。ホテルや高級ブティックが立ち並ぶ。
「14階エリアだけ何もかかれてないぜ」
「さっすがマツリたん!いい所に目をつけたな。ハーハッハッハッハー!」
ハナビ=ライオリアがエレベーターで現れたのだ。
「あ、お姉さん。わたしたち後からのエレベーターに乗るので、先上がってください」
「かしこまりました」
エレベーターガールのお姉さんにマツリちゃんがさらりと伝える。
「あ、」
そのまま扉がしまり、上がっていってしまった。