仮面
「学生のみんなー。魔力効率について考えたことはあるかいー?」
授業自体は普通に始まった。さくらこたちは、大講堂にて話を聞いていた。高齢の魔法使いはのんびりとしゃべる。
「種魔法火炎球を撃つとすると、君やってみてー」
1人の男子生徒が杖を振るう。
「は、はい。火よ!飛べ!火炎球!!」
彼の杖先に火が灯り、火の玉が現れ、飛んでいく。窓ガラスがわれ、外で悲鳴があがる。
「うむ、ありがとう」
先生はこともなげに続ける。
「通常は、魔法を思い浮かべ、威力を調節し、必要量の魔力を使い、属性を変え、言霊と杖の振り方で情報を整えて放つ。という過程が必要になるー。だから、外の世界では、魔法陣を使って時間短縮したり、あらかじめ、魔法を封じ込めたりしてるんだー」
のんびりした口調でつえを振るうと、紙が現れ、描かれた魔法陣から、火、水、風、など様々な魔法がとびだしてきた。
「だが、ここマジブロッサム内では、魔石と杖、世界樹の力を借りて、誰でも簡単に魔法を放てる。杖に刻まれた魔法のおかげだー。そのせいで創意工夫しないものも多い。第二魔法学校では、商いを生業としているものも多く、早く、コストを低くし、今まで以上の効果を求めて、日々学業に勤しんでいるー。」
彼はさっと一振りつえを振り、
「フレム」
とだけ言うと杖先から火が迸った。
「発火紙を杖先に巻いていた。」
「今回君たちが貸与された魔法は、そんな中開発された魔法。価値ある物を生贄にして、エネルギーを生み出す。しかも、魂や肉体を犠牲にしなくても良いところが素晴らしいー。君たちが挑む大岩は、魔法騎士の鎧にも採用されている。硬度は充分。買いたいものは、あとでおいでー。1週間の期間がんばれー。」
商売根性逞しいな。眠気と戦いつつ、こっそりとなりと話す。
「みんな所持金は?」
「ウチは8000ブロッサム」
「あたしは15000ブロッサム」
「わたしは20000ブロッサム」
「さくらこ多いな」
「魔法少女見習いのお給料があるからね。だけど」
大した金額ではない。あの大岩を貫くにはいくらいるんだろうか。やはり何かしらの方法でお金を稼がないと。
「マツリの実家は、名家なんでしょ?」
「アンリ、あたしは3年も家出てたんだぜ。借りられるわけねーだろ?あたしはあの家の力はぜってぇかりねーよ」
頑なにマツリは言った。
「金策なにかないかな」
一人の男子生徒が教室を出る。彼は純白の仮面をつけていて、目元は赤と青の宝石で装飾されていた。
「なぁ、魔法少女、待てよ」
「口の利き方がなってへんな」
彼は教室の外にいたキンギョ=ライオリアに声をかけた。彼女はコインを弾きながら、その生徒を観察する。…強いな。ローブに何か仕込んでいるようで、はっきりと認識できない。正体を隠したいのはどっかの貴族か?
「たとえば今試験を受けることは可能か。自分にとってあの魔法は無価値なものだ。茶番に過ぎない」
「へー、おもろいこと言うなぁ、いいで。試験してやろうやないか。ただし、失敗したら二度とうけさせへん」
「かまわない。出してくれ」
彼は腕を突き出した。彼の腕には金の腕輪がついていた。
「……を生贄に、バリュー」
「ふーん。やるやん」
大岩には穴が空いていた。
「……いいんかいな。大事なもんちゃうんか」
「俺は合格でいいか。」
問いかけには無視をされた。仮面のせいで表情もよみとれない。
「まぁ、ええやろ。あと6日どないすんねん」
「教える義理はない」
「さいでっか」
可愛くないやつ。
「なぁ、あんた、俺の下で働かねーか」
「いややいやや。ウチを口説きたいなら金積まんかい」
「勇者殺しに興味があるか」
「は?」
こいつ、なんて言うた。勇者殺し?そんなんしたら、世界線唯一の魔女対抗の力が失われてしまうやないか。
「なぁ、魔法少女。お前たちはなんのためにいるんだ?」
バカにするような煽るような言い草に、カチンと来るも、言葉を反芻する。
「そりゃあ、あんた……。!」
奴が言いたいことを察する。
「お前はうちの平和ボケした魔法少女たちと違うはずだ。」
「おもろいこと考えおんな。やけど、答えはNOや。リスクがデカすぎる。ウチは商人でもある。バクチを打つにはだいぶ材料が足らへん。ウチはこの学校唯一の魔法少女や。忘れたるさかい、さっさといきや」
「お前を強くしてやる。」
「ウチは十分つよい」
「……この学校唯一の魔法少女。だったな。」
「せやったらなんや」
「どうして、唯一なんだ?」
彼の口ぶりは疑問ではなく、確信を持って話しかけている。
「……勧誘するか。脅すんか。はっきりせーや」
「気が向いたら声をかけろ」
後ろ姿を見ながら、コインでそいつの後頭部に狙いを定めるが、キンギョは腕をさげた。
「やめとこか。」
キンッとコインを上に弾く。
すると、講堂のドアが開き、さくらこやマツリが出てくる。彼女らの鼻先にコインを打ちバリューを放つ。驚いて尻もちをつくマツリを見て、せせら笑う。
「すまへんすまへん。雑魚過ぎてどこにおるんか分からんかったわ。できそこない。」
「んだと!」
どいつもこいつも、ウチをイラつかせる。踵を返し、その場を離れる。あたまに念話の通知が大量に流れ込む。
「ほんとにどいつもこいつも!!」