クラス分け試験3
さくらこが目を覚ました病室は、大樹のうろのような場所で、木をくり抜いて作った場所だった。光の魔法があたたかく辺りを照らしており、薬品のツンとした匂いがした。シーツは清潔で、ベッドは植物のつるでぬわれたハンモックだった。体を動かすとゆったりと揺れた。
「んー」
奇妙な脱力感があり、頭がボーッとしていた。証明の明るさに目を細めつつ、ハンモック脇のつくえに立てかけられた杖が目に映る。薄ほんのりと緑がかった杖先のそれを見て、徐々に頭がはっきりする。
「あ、試験!!」
でも、このベッドの上という状態ということは
「退学かー」
ぱたんと、起こした体を倒す。
「ガッコウ楽しみにしてたんだけどな」
そう呟くさくらこに
「なんで、あんな危険な真似をしたのよ」
すこし、ムスッとした声で隣のベッドから声が聞こえた。
「あ、えっと、誰かが死んじゃうかなって。そしたら悲しいでしょ?」
「あ、あんたが、死んでしまうわ!無茶苦茶よ!防御魔法もなしに、魔力もなし。最悪バラバラになってたのよ」
こちらをキッとにらみつける。ドカンとドアが蹴破られ、ストーップと、オレンジ髪の少女が病室に入ってきた。
「おいおいおい!まてまてまて!じゃりんこ。生きてて良かったじゃねーか?んで、ゆーことあるだろが?」
その言葉にうっすらと彼女の目に涙が浮かんでいた。
「………………………ご、ごめんなさい。……あと、じゃりんこ言うな」
さいごは呟くように言った。
「いやいや、そんな」
「詫びをいれろとか言ってもいいんだぜ」
イタズラっぽく、オレンジ髪がウインクしながら言ってきた。しゅんとした表情の少女を見て、とてもじゃないが、そんなことは言えないし。言うつもりはない。
「はははは、わたしが勝手に飛び出しちゃったわけで……」
頬をかきながらさくらこはいたたまれない気持ちになった。だが、ひとつ思いついたことがあった。
手を差し出した。
「えっ、と。春風さくらこです。よろしく。わたし知り合いもいなくて、魔法も詳しくなくて、もし良かったらお詫びってことじゃないけど、友達になってくれないかな」
「え……」「はは!」
小柄な少女は戸惑いを、オレンジ髪の少女は満面の笑みを浮かべた。
「えぇ、えっと、アンリ=ガルダリオンよ」
アンリはすこしハニカミながら、その手をとって握手をした。
「おいおい!あたしも混ぜやがれ!召喚術師えーと、マツリ・ライオリアだ。こっちがアルファで、こっちがベータ」
ぽんぽんと、マツリの手からフワフワとした魔法生物と、ゴツゴツした魔法生物が現れる。
「かわいい!」
「だろ?だがあのくま公に突っ込んでいったのはこいつらさ!どうだあのくま公の顔!ははは」
「よぉ。怪我の具合はどうだ」
「は、、、、、」
ガラリと扉を開けて入ってきたのは、ベアーズ・ロック先生だった。凍りつくマツリ。くま先生は静かにオレンジ髪の少女のあたまに、爪のついたゴツイ手を置いた。
「楽しそうだな。マツリ・ライオリア」
「はい。先生様もご機嫌麗しゅう。素敵な鉤爪ですね」
「ん?そうだろう。手入れを欠かしてないんだ。下手するとコンクリートも切っちまうから、困ったもんだ」
「わーお」
彼女の顔は顔面蒼白だった。彼女の前髪はそのごつい鉤爪に触れていた。
「ふぅ……お前たち問題児3人は俺の受け持ちになった。お前らは一年ベア組な」
「へ?わたしたち落ちたんじゃ」「げ」「嘘だろ」
「試験の説明に退学なんてなかっただろう。お前らだけだ。試験官に喧嘩ふっかけたのも、試験の玉を取れなかったのもな。そういったケースは試験担当の俺預かりになる」
気まずそうなアンリ。絶望の表情のマツリ。喜ぶさくらこ。三者三様の表情だった。
「ついてこい。【鳥の巣】を案内がてら、新入生オリエンテーションだ」