新たなる杖
さくらこは恐る恐る声を掛けた。
「だ、大丈夫ですか」
「その声は、若い女の子の声!!……お嬢さん。この後お茶でも」
ドアの下から枝が伸びてきて、カサカサと動く。
「ひぃぃ!!」
「さくらこ1年生。……とりあえず降りてやれ」
出てきた姿に2人は驚く。
「いやぁ!すまないすまない!なっはっは!!」
「木が喋ってる」「まじかよ」
目の前には、木がいた。いや、木なんだけど、生きている。動いている。木から枝や根が人間の手足のように生えていて、優雅に椅子にすわり、足を組んでお茶を飲んでいる。さくらこたちの前にもカップが置いてあり、緑茶の香りが広がっていた。店内は半分世界樹に飲み込まれており、店内は上から下までぎっちりと杖が刺さっていた。
「失礼だな。木が喋ったらいけないのかい?」
「すみません。」
「まぁ、驚くか。我々は森の人だよ」
「森の、人?」
「悲しいかな。もはや我々のことを知らない世代も来たか」
「あなたも人類なんですね」
「おぉ。嬉しいねぇ。今の人類の多くは我々のことを気味悪がるのに。」
ぽぽぽん
「あ、あたま」
さくらこは彼?彼女?の頭に可愛らしい花が咲いたのを見た。嬉しいと咲くのかな。
「面白いだろ」
「はい!」
「おい、さくらこ失礼だぞ」
「いいんだ。いいんだ。君たちは杖を治しにきたんだろ?さくらのこよ」
さくらこは事の経緯を話した。勇者魔法のことを話すか迷ったが、結局話すことにした。この人のことを自分は知らないけれど、何故か信頼出来る気がした。杖を直すなら、その職人に知っていてもらいたい。
「ほぅ。勇者魔法の回路に杖を使うとは、中々荒いことをしたもんだね。さくらのこよ」
さくらこの折れた杖を診ながら言った。何だか名前を間違えて覚えられてしまったようだ。彼の指先が輝く。なかから、魔石を取り出し、ゆっくりと観察する。
「君の魔石はかなり無茶をしているね」
「す、すみません」
「勇者魔法、魔法による身体強化、羅針盤の魔法、世界樹魔法、心魔法、マジックブースト、魔法少女魔法、面白いね。君は勇者でもあり、魔法少女でもあるのか」
「世界樹魔法?心魔法?」
「君たちの言う新魔法と旧魔法だよ。魔女の記憶を借り受ける魔法と己の心のあり方を移す魔法さ。複雑な心をもつ、今の人類の魔法だよ。自然のマナを借り受ける我々の魔法とは根本から違うのさ。さくらのこよ。剣も見せておくれ」
「は、はい」
さくらこは空中から剣を取り出す。
「懐かしい。剣もだが金の瞳を見るのも本当に懐かしい。私がこの剣を見るのは4度目だ。大魔道士チェリーブロッサム、巨帝ワールース、流世の英雄タコニチュア、そして、君が持ってきた。君の知らない魔法は誰かの魔法かもしれないね。戦乱のさなか、幾重にも重なる世界線の中、剣のみぞ知る物語。」
彼はゆっくりと歩き出し、杖の積み重ねてある店の奥へ向かう。
「勇者魔法は魔女が自らを倒すために造った魔法だ。勇者魔法は純粋な者がもつ。勇者魔法は誰よりも魔法を愛し、愛される者がもつ。勇者魔法は、手がかりがない世界を切り開く勇気ある者がもつ。勇者魔法は魔女と呼ばれた魔法使いが、世界の担い手を選ぶ魔法だ。純粋ゆえに散っていったもの、無謀に魔女に挑んだもの、闇に取り込まれたものも多い。君の魂がつよく輝くことを祈っているよ」
戻ってきた彼の手には、木でできた鞘がにぎられていた。複雑に彫られた模様は海の波のようだった。
「タコニチュアが置いていった鞘だ。彼の杖を元に加工している。鞘がそのまま握り手になり、魔法剣を作り出す。彼の二刀流の剣技は、海底で瞬く流星の如き、と、評されていた。勇者の剣で魔法を切り裂き、魔法剣で敵を滅ぼしていた。」
彼はそのまま、鞘を振る。蛍のような光が鞘の口に集まっていき、剣の形を作り出す。
「とても古い杖だが、海底の水圧にも難なく耐えるほど頑丈で、その勇者の剣とも親和性が高いから、役に立つだろう。持ってきなさい」
「タコさんの杖。こんなに貴重なもの、とてもじゃないけど、お金が足りません。」
「お代はいらない。君がタコニチュアの次ならば、彼も許すだろう。君の綺麗な瞳が虚ろにならないことを願っている。」
「?」
森の人は、さくらこを通じて、誰かを見ているようだった。
「……我々も、はじまりの魔女に挑んだことがある。結果として、自分の世界線を失い、杖作りの職人として、ここに縛られている。さくらのこよ。自分の世界を守りなさい。我々みたいにならないように。……すこし時間を貰おう。魔法石と鞘を合わせてあげるから。」
奥の部屋へ行った。奥から声が聞こえる。
「魔法少女の君。我々は魔法少女が嫌いだ。魔女を殺そうとする浅はかな考えが嫌いだ。」
「は、はい」
「だが、君の活躍は、我々から聞いている。どんなものにも手を差し伸べる。我々は君に敬意を示す。マジカルブルー。道に困った時はここに来なさい。」
少し驚いた彼女は自分の胸に手を当てて、うなづいた。
「はい」
「我々はどこにでもいる。世界樹があるかぎり」