世界樹街道(ストリート)2
「少し付き合え春風。」
寮の外に出たフクロは身体をほぐし始める。
「勇者魔法を次に進める。3校合同授業もある。ほかの学校の人間に勇者魔法が実践レベルで使えると知られたくない。通常の魔法も練習しておけ。」
組手をしつつ、会話をはじめる。魔法使いは同時並行で様々な事をしなければならない。そのための並列思考の練習なんだそうだ。
「はい」
さらに魔法もとんでくる。
「こっから先は、未知の領域だ。さくらこお前好きな食いもんはなんだ」
「さくらもち」
「あたしは鶏肉だ」
「?えっと人によって感じ方はそれぞれってはなしでしたっけ。だから、フィール2も」
フクロは頷き、話を続ける。
「予測が出来ない。純度の高い感情の爆発は、土壇場で発揮される。だけど、もっと簡単に純度を増すのは、雑念を取り払うことだ。フィール0で、感情を落ち着かせ、思い出を使って一気に感情を昂らせる。やってみろ」
さくらこは深呼吸をする。
「勇者魔法フィール0、無の剣」
手に剣がにぎられる。周囲の魔法を取り込んでいく。
「感情の高ぶった思い出を思い出せ。」
「入学式試験で、合格したこと!」
喜びが、身体を満たす。
「フィール、、、2....?」
さくらこは、首をかしげる。
「あれ、わたし、何か忘れているような。」
大事なことを。見逃している。見逃されてるような奇妙な感覚に陥っていた。
ワルス家の施設兵たちの練兵場でバロスは、歯を食いしばり、魔法を唱えた。
「魔法葉!炎大蛇」
杖先から伸びた炎の鞭は、容赦なく、相手を襲う。
「ぬん!!」
相手のハゲ頭の男は、浮き上がる筋肉に魔力を乗せて炎の蛇を殴り消した。バロスは杖を引き、覚悟した表情で唱える
「魔法花!炎王大蛇!!」
「HAHAHA!精が出るね、みんな」
「旦那様?!」
唐突の来訪者に全員が敬礼した。
「ち、父上」
「んー、うん!」
ドゴン。ワルス市長は息子を殴り飛ばした。
「ぬるい訓練しているのか。副団長。あんなもの」
「だ、断じて。ぼっちゃんの成長は著しく、魔法花まで。」
「はぁ、殺す気でやれ。新魔法はあくまで、対魔女に向けた魔法でしかない。真の力はまだ、その先にある。HAHAHA。バロス。来い。しごいてやる」
30秒とたたなかった。凄惨。立ち上がっては殴りとばし、立ち上がっては、ひねり潰し、バロスは滅多打ちにされ、床に伏した。そんな彼に近づき、耳打ちをする。
「バロス。お前の言っていた春風さくらこに会ったよ。兄だった男を奪還すると言ってな。HAHAHA!失敗してたよ。記憶をいじっておいた。俺の瞳で。徐々に記憶が封じられていくはずだ。お前のことを直に忘れる。」
サングラスをずらし、透明な瞳を見せる。
「ガリレオには、魔力を視る瞳と伝えているが、実際は違う。記憶瞳。瞳を合わせた人間の記憶を改ざんできる」
「兄上が、そんな……春風のやつにも、魔法を」
そんなバロスの頭を持ち上げて、瞳を見る。
「助けはこない。救いもない。バロス。君の中に眠る力を呼び起こそう。来るべき時のためにね。お、ようやく、心の壁をすこし開いたね。そんなにショックだったか?大丈夫だ、ワルスの器は大事に磨くよ。3校合同授業には間に合わせる。みな驚くぞ。HAHAHA。楽しみだ」
「……はい、父上……」
「…春風!…おい、春風!」
「あれ?先生?」
「大丈夫か?まだ早かったか?フィール2の修行は、」
「い、いえ」
……誰だったんだろ。あの人。
「焦りすぎたかもしれない。今日は休め。」
チキチキ、チキチキ、チー、チキチキチー
さくらこが寝静まったあと、電子的な稼働音が部屋の中に響く。日記帳の表紙からホログラムが投影される。
「半径10m内の覚醒者皆無。スキャン開始、完了。世界線到達率、95、124パーセント。文明レベルB.現人類の結束レベルc.戦闘レベルC.魔力レベルAオーナーとの戦闘予測、勝率0パーセント。続いて、本日勇者候補者と接触。勇者覚醒率57パーセント。前回の接触時より30パーセント向上。勇者魔法レベル2までアンロック。オーナーとの戦闘予測、単騎での勝率0パーセント。現人類の勝率0.000001パーセント。懸念材料。世界樹付近に新人類候補封印。現人類勝率19.852パーセント。データを宇宙ステーションノアに送信。送信完了。ノアよりデータを受信。勇者プログラムの継続を確認。個体春風さくらこを現世界線の勇者29代目と認定。勇者の剣の機能をアンロック。他の勇者プログラムを停止。以降は春風さくらこが死に瀕するまで勇者プログラムをロック。懸念材料。未登録の新人類候補は、現人類に壊滅的な被害をもたらす可能性があり、注意されたし。被害が大きい場合世界線を更新する可能性もあり。注意されたし」