傑物2
「2人ともご苦労さまです。こちらの準備が終わりました。退避してください」
混戦のさなかスーツ姿の男が現れる。場ににつかわない地味な男。役所にいてもおかしくない格好である。ただ、彼も只者ではないのは、片手でもっているライフルで分かる。バレルの長い超ロングライフル。銃身はうっすら熱を帯びていた。
「早くした方がいいであります。学習スピードがとてつもないであります!」
「時間稼ぎ役なのかな。君たちは。で、あんな地味なのが切り札かな?」
「まぁな。イグル先生は地味だけど、あの地味さが持ち味なんだよ!」
「聞こえてますよ。ライオリアさん」
怒るでもなく穏やかに言った彼はとても戦う雰囲気はなかった。
「ふーん。だから君はこんなにダサい役回りをしてるんだ」
「カッカッカッ!安い挑発だな。ダサくて結構。役割果たしてなんぼだ。あんたのやばさはよく分かる」
会敵してから10分あまり、一度もこれといったダメージを与えられなかった。魔法による火力と爆薬による物理的火力。通常どちらにも耐性がある怪人はいない。ハナビ・ライオリアは苦々しく思っていた。
「こんなダサい姉なら妹もたかが知れてるな」
「あ?」
「大バチ!小バチ!」
ライオリアの手にくるりと大小の木のバチがにぎられる。刻まれた紋様からすぐに魔術が発動する。
「王太鼓!!」
さらに魔法陣の描かれた巨大な太鼓がイカロスの前に現れる。
「あは!これはやばいかも」
「ちょ、ライオリア殿?!」
「一発ぶち抜く!!!!!!!」
「ダメですよ」
ふわりと彼女の体が宙へ舞う。
「準備が無駄になってしまいます」
身構えるイカロス。
「もう描ききりましたから」
地面に突き刺さる弾丸。
イカロスの周りに魔法陣が現れる。イグルが監視していた時に放った弾丸の軌道が魔法陣を描き動きを鈍らせる。
「こんな雑魚魔法でボクを止める気?」
「一瞬立ち止まってくれたら、それで十分です。タロ先生お願いいたします」
ぱんと手を打つ音が響き、鳥居が空から降ってくる。
「ぐっ」
一つ、二つ、四つ、八つ。倍々になっていく鳥居は、雨のように降り注ぐ。最後には赤い固まりのようになった。空から細身の気位の高そうな男が降り立つ。
「ふん。百花繚乱流……時限式封印術……桃……。どんぶらこと流れていきたまえ。時の彼方へと」
「タロ教官?!」
「キージ大佐。封印はしてやった。真っ二つにしたまえ」
「しかし、ガリレオ殿は、封印までだと」
「この状態からどうなるとでも?時が来るまで一呼吸さえ許されない、超多重封印術。第三の生徒会長すら修めてない百花繚乱流の奥義だ。時空魔法に長けたベアーズ・ロックじゃないんだ。そうそう破られてたまるか」
ドゴン!!
巨大な鳥居の固まりから音が響く。はたから見たら桃に見えるそれを見つめ、息を飲む。
「……っ!」
「……報告に戻りましょう。……タロ先生。猶予はどれくらいですか。たしかガリレオ校長は10年封印すると」
「……100年だ。癪に障ったのでな。だが、このままだと一年もつかどうかもあやしい」
「あなたの気まぐれに救われましたね。行きましょう。校長たちがお待ちです」