クラス分け試験2
「まて!この!」「シーク!あそこの柱のそばだ!」
目の前をはね回る玉や、見えなくなってる玉。様々な魔法が掛けられてる玉はさくらこからするりと逃げ回る。
「ぬぅ、この!シーク!だっけ。」
杖を振ってみるも、聞こえてきた魔法を唱えてみるも杖は反応しない。さくらこの杖の先に取り付けられた魔法球は無色。つまり、なんの魔法も生み出さない。
「まずいまずいまずいって」
初日に退学とかありえない。必死に追いかける。不可視の玉をとることは砂の中から米粒をみつけるに等しい。ならば、狙うのは、跳ね回ってる玉だ。役に立たない杖は背中に背負い。両手を開く。
「おら、この、くぉりゃ、どぅりゃ!もう!」
夏の夜の蚊のごとく、あっちでぱちん、こっちでぱちん、と空を叩く音が響く。するりするりと逃げ回る玉に地団駄を踏むさくらこ。彼女を尻目に次々と生徒たちは玉を捕まえていく。
「そぃやああああ!」
手を伸ばし後わずかって所で、玉が魔法ではじかれる。そのままさくらこは地面にすっ転んだ。
「だれじゃ!こんちきしょう!!」
拳を握りしめてたちあがる。刹那。
ひゅん。
さくらこの髪のよこを魔法の刃が飛んできた。何本かの髪がぱらぱらと風に舞う。
「馬鹿野郎ほかの子供がいるとこに飛ばすんじゃない」
「じゃま」
「す、すみません」
くまの先生とジト目の少女がふわりとさくらこの横を通り過ぎていった。先程の小柄な少女が杖を振って魔法をくまの先生に放っていた流れ弾がかすめたようだ。
「よけ、ない、で!!」
「無茶言うな。んー、なら、こうか」
くるりと向きを変え、爪に魔力をまとう。くまは魔法をそのゴツイ爪でかき消していく。
「風魔法の使い手か。その練度。なかなかだな。荒削りだが、魔力が高いな。魔心臓に恵まれたな」
「……バカにして」
「ふんっ。お前が、教職員を下に見すぎだ。今まで、散々チヤホヤされてきたか知らんが、その程度。」
そんな先生の顔に魔法が撃ち込まれる。頭が煙をあげる中、ギロリと鋭い眼光を撃ったぬしに向ける。
「いよっしゃー!大当たりだぜ。よくやったアルファ!」
さくらこが振り向くと先ほどのオレンジ髪の女の子が杖をライフルのように構えてガッツポーズを決めていた。
「…召喚術の類か…調子にのるなよ」
「やべ」
明らかに空気の濃さが変わる。若干いらついたベアーズ教諭は拳を握りしめ、脇をしめ、突きの構えをとる。まるで大きな黒い岩のようだった。
「隙あり」
懐に潜り込んだ小柄な少女が下から魔法を放とうとする。
「その勇気は認めてやるが、隙なんざねーよ」
踏みしめた足に魔力を込め、さらに強く踏みしめる。地面から吹き上がる魔力に少女の身体が浮く。
「え?」
くまの先生が引いた手を繰り出しながら、手を広げると指と指の間に試験で使われてる玉が挟まっていた。
「え?」
そのまま回転を加えながら、掌底をくりだす。玉だけが手を離れ、直線上にならんだ挑戦者だった2人の新入生を襲う。
「獣拳・乱反射玉街道」
玉が弾み、別の玉に当たる。さらに別の玉にぶつかり、お互いがお互いを跳ね返していく。
「痛たたたた!」
「いつつつつ!」
「あたたたた!なんで、わたしまで!!」
さくらこも巻き込みつつ、玉の踏襲をくらう3人に、上級生から笑い声が起きる。
「ばーか。入学したてが先生に勝てるかっての。くくく」
「まるでタップダンスだな」
「こんな魔法!」
ムキになった小柄な魔女がふたたび魔法を唱えようとする。杖の先の緑色が濃くなる。
「鳥王……」
「あ、だめ」
さくらこは、思わずくまの先生と小柄な少女の間に飛び出した。なぜ、飛び出したかはあまりはっきりした覚えがない。ただこのままこの魔法を出してしまえば、良くないことが起きることになる気がした。
「え、なにして……」
はっとしたくま先生が叫ぶ。
「馬鹿野郎が!!慣れてない大魔法の詠唱中に集中を乱すな!!ぐあっ」
「あ、」
一気に爆発するように風が吹き荒れて、グランドは風が吹き荒れ嵐の中のようだった。あちこちで悲鳴があがる。さくらこと少女は暴走する魔法の竜巻の中に閉じ込められてしまった。砂が舞い上がり、呼吸ができない。
「かっひゅっ!」
「だめ、抑え、きれない」
動揺する彼女に、何も出来ずにアワアワしてると、竜巻の向こうから声が聞こえる。姿は見えないけど、暴れ風の中でもはっきり聞こえた。
「杖を前に、優しく振って、」
さくらこが杖を抜き、言われた通りに振ってみる。なにも起きない。くまの先生も竜巻の向こう側。わたしが、なんとかしないと。わたしのせいだ。
「大丈夫、もう一度、優しく、心を落ち着かせるんだ。心配ないって、魔法はあなたの味方だよ」
無色の杖を握りしめて、もう一度振るう。すると、風が杖にすいこまれ、ガラガラと巻き上げられた物が、落ちてきた。
「おいじゃりんこ!お前も、大丈夫かっ!」
オレンジ髪の女の子が駆け寄ってきたのを見て、急に力が抜けさくらこの意識は途絶えた。