怪物の真実
「春風。お前いつの間に。こんなに、魔法を使いこなして」
「さぁクマせ、ロック先生!私たちの船に戻りましょう」
驚くロックだった。4月彼女は魔法の知識は、ほとんど素人。魔法少女見習いとして活動したのもそれほど長い期間ではない。フクロ教授の力が、きっかけになったのか。
「いや。」
考えるのはあとだ。クマ先生は鼻をひくつかせる。怪物の足は徐々に再生しつつある。船もいつまでも持たない。
「まだだ。この怪物を野放しにはできない。こいつに掴まれている間、魔力をすわれ、ほとんど魔法が使えなかった。それに」
「そう…ですね」
さくらこは勇者の剣を抜いたことで見える魔力の流れを見ていった。さくらこの瞳が金色にひかる。船底に魔力の集まっているのを感じとる。
「これは手足。本体は船底にありそうです」
「徐々に回復している。こいつがマジブロッサムに行けば、壊滅的な被害をうける。可能ならここで始末をつけたい。だが、」
軋む音はさらに激しくなり猶予が残ってないことを諭す。足しか見えてない敵をどうやって。
「それなら、ロック先生。転送用の魔石を利用できませんか?」
生徒会長から通信が入る。
「転送用の魔石なんて、貴重品。あるわけないだろう。」
「私たまたまですが、持っていて、」
校長が生徒会長に託した転送用の指輪。本来ならば、副会長をマジブロッサムに還す為のものだった。彼がいないのなら、おそらく、もう。
「指輪の転移先をこの船の上空に変えることはできるか」
「やってみます」
会長は紫色の指輪を取り出して、一瞬見つめて、リングから魔石を取り外した。短く息を吐き、魔法陣を杖を使って、描き始める。
「時間を稼いでもらっていいですか」
「おぅ。頼んだぞ」
クマ先生も、杖を構える。
「春風今から、魔法で船体の維持を行う。俺はその間動けない。」
長く鋭い爪を甲板に突き刺すと、魔力を流し始めた。すると、その魔力に反応して、触手が襲ってくる。
「春風は、触手の対処を。頼んだぞ。できるだけ削って体積をガンガン削れ」
「はい!……フィール0。無の剣」
心を鎮めて触手を切り伏せていく。これぐらいなら全部すぐに。
「油断するな!春風!」
突如として、足の吸盤一つ一つに魔法陣が精製される。
火の玉や氷柱が降り注ぐ。
「わわわ!!」
とっさに避けるも、気持ちが焦りフィール0が解けてしまった。様々な属性の魔法。
「このやろ、魔法も使えるの?!……!!」
無数の魔法が一気に襲いかかる。さくらこの目には、魔法が映る。あ、やばい。これ。スローモーションにうつる世界に直感した。これ、死ぬやつかも。さくらこの使用している勇者の剣は、1度の魔法には、絶対的なアドバンテージがある。しかし。動揺してしまった今。ただの古びたなまくら刀に成り代わってしまった剣に破魔の力はなく。加えて多方向からの魔法攻撃を捌く技量は会長はともかくさくらこには無かった。避けるさくらこの目前に鋭い魔法のスパイクを宿した触手が襲いかかる。
「春風!」「春風1年生!!」
「獅子盾!!!」
さくらこの目の前には、金色の盾が現れ、触手を受け止めていた。
「なんで、こんなとこ、にウチの、生徒がいるんだ。お前、早く、逃げ、ろ」
身をかがめ、転がり抜けると、盾がへしゃげた。声がした方向に顔を向けると。そこには、ボロボロの青年が片腕を出して、通路から出てきた。彼は血まみれで特に胸の辺りを赤く染めていた。壁に寄りかかりながら、ズルズルと座り込んでしまった。
「ワルス副会長!!」
生徒会長が叫ぶ、この人が。アイツのお兄さん。
「くそ、逃げる最中に、捕まって魔心臓を抉りださ、れて、しまっ、た。魔力がうまく、操れな、い。はぁ、はぁ」
再び迫る触手。
「春風!」
「フィール1 !勇者剣」
感情を乗せろ!!
「う、りゃああああ!!」
副会長に集まり始めていた触手を蹴散らす。
「ロック先生!!いつでも行けます!!」
会長からの声にクマ先生は反応し、魔力で出来た爪を飛ばす。辺りにいた触手たちに突き刺さり、魔法陣が現れる。
「魔石を外に思い切りなげて、すぐにこの場を離れろ。月影瞬き、空翔ける。転移転送!!朧月!!」
周りにあった触手が消え、辺りが暗くなる。
「大っきい!!」
見上げるとワルス家の船を超える巨大なイカが空に現れた。そして、ゆっくりと落下してきた。
「化け物が。再生するから、こいつは1片残らず始末しないとな」
「なら、わたしが、フィール2で」
クマ先生はさくらこをちらりと見て、首を振った。
「どんな力かは知らないが、まだ出来ないんだろ。気休めでもなんでもいい。ワルス副会長に回復魔法をとにかくかけまくれ。ここは俺がやる。」
クマ先生は落下してくるイカを見上げながら、どっしりと腰を落とし、詠唱をはじめる。
「深緑の彼方、忘却の森。照らされた大木。悠久の記憶。」
黒い毛が胸の辺りが白く輝き、三日月のように浮かび上がる。ゆっくりと確実に落下してきたクラーケンは触手の吸盤全てから魔法を放つ準備をしていた。船諸共全て沈める気だ。
「喰らいて、喰らう。強者の牙。月の如く、全てを飲み込む。…【神化深解】」
クマ先生の体から発せられる生命力の爆発が、船を大きく揺らす。一手早く、クラーケンから魔法が放たれる。
「先生!」
身をかがめ、爪に集めた力を一気に解き放つ。
「『深月』!!!」
刹那の一振りは、魔法を裂き、クラーケンを裂き、上空の雲さえも引き裂いた。空には月が輝き、遅れて吹き荒れる突風が技の威力を伝える。
「はぁ、はぁ、はぁ、俺もまだまだやれる、だろ?」
仰向けにぶっ倒れたクマ先生は満足気に目を閉じた。