修行の成果
「勇者魔法は魔力を使わない。感情によるものだ。喜び、悲しみ、怒り、憎しみ。羨望、感謝などの思いをのせる。熟達していくと、それぞれの感情が力を帯びる」
「フクロ先生の重力みたいな力も」
「憂鬱の感情を載せたものだ。感情のままに力を放つのをフィール1(ワン)。力を発動させたものをフィール2(ツー)と仮に名付けている」
「フクロ先生はなんで勇者魔法を使えるのですか」
「正確にはこの力は勇者魔法とは言えない。昔壁にぶち当たってな。強くなるために色々探してたら、勇者魔法にいきついたのさ。勇者魔法を自分なりに解釈し、魔力で再現しているだけだ。魔力も感情に反応するからね。それを応用している」
彼女はおもむろに手袋を外した。いつも付けている革製の手袋。さらに服を脱ぎ始める。
「ちょ!先生!?」
「何赤くなってんだ?見ろ」
「な、なんて大胆なダイナマイトボディ!」
「馬鹿か。ほれ」
「これって、刺青?」
手のひらから手の甲、腕、肩、上半身から胸にかけて、体の半身に魔法陣が刻まれていた。
「これだけ魔法陣を使ってようやく、フィール1の状態まで持っていける。さらに呪文や詠唱、魔道具を加えて、フィール2。つまり普通の人間には効率が悪すぎるんだよ。そうなると淘汰されていく。伝承がないのは、この事も要因だろう」
「じゃあ私の魔法って」
「こういう手間なく撃てるのは、正統な継承者の君の利点さ。あとは、感情を乗せてないまま、勇者魔法を発動すると、ぽっかりと真空状態のようなまま魔法が出てしまって、その穴を埋めるために、周囲の魔法を吸収して消してしまうのさ。わたしにはできないフィール0。吸収した魔法をそれ以上の威力で放つこともできる。十分脅威だ」
「つまり感情をコントロールすれば、普通の魔法とも併用できる!」
「そう考えるとは面白いね。理論上は可能だね。そもそも感情のコントロールは難しい。実戦で使うには、感情の純度が濃く大きく無ければならない。気持ちと向き合い、感情を解き放て」
あれ?これ走馬灯?
「感情を、解き放つ!!」
空からクマ先生が吸盤のついた気色悪い触手に襲われているのが見えた。懸命に引き裂いているが、あのままでは時間の問題だ。絶対助けてやるんだ!!私の力で!
「はあああああ!!クマ先生をはなせえええ!!このイカ野郎!!勇者魔法ぅ!!」
剣が閃く。
「フィール1・拒絶!!!」
クマ先生の体にまとわりついた触手がはじけ斬られる。ゴロゴロと甲板を転げるさくらこだが、すぐに受け身を取り立ち上がる。触手たちはなおも執拗にクマ先生を狙っている。彼の首を絞めあげていた。
「魔力の塊ってんなら!!」
すばやくさくらこは剣を下段に構え、荒ぶった心を静める。呼吸を整え、息を短く吐く。
「フィール0・無の剣」
体を回転させ、太く硬い触手に体重をかけて切り込む。
「向日葵!!」
会長の剣技を勇者の剣で放つ。修行してきた技の1つだ。魔力の塊である触手が切り裂かれる。ロックの首を締めていた触手が消えていく。クマ先生ははげしく咳き込み、吠える。
「か、は、はぁ、はぁ。馬鹿が!春風!なんで来た!!」
「助けたかった!!!」
少女のまっすぐな目と、ちいさく震える身体に、驚き、謝意をつげる。
「お前は命の恩人だ。ありがとう春風さくらこ」
「どういたしまして」
さくらこは笑顔でピースをした。