クラーケン
「クラーケン……。」
「魚人世界線の時の遺物さ。タコニチュアたち魚人たちの戦術兵器。魔力だけで宇宙に上がるほど魔力が一段と高かった彼らにとって、魔力を感知し、それを捕食するクラーケンは脅威だったろうよ。単機で国を滅ぼしていた魔法生物さ」
「知性なき暴食と揶揄される怪物ですよね。召喚工程がものすごく複雑かつ、魔力消費もとんでもない化け物」
煙で捕虜を運ばせ、上を目指す。海の研究室の役割はいくつかある。怪人を生み出し、勇者覚醒を促す。魔石の回収、怪人という新たな人類のテスト。そして、様々な世界線のデータの保存。
「あたしたちのような化学技術とは違う。魔法技術の化身さ。マザーはそこに知性を足した。あいつは、コンプレックスを感じてはいるようだが、奴は奴で十分天才の1人さ。深海の研究施設を1部屋潰しちまったのは許せねーが。知性のあるクラーケン見ものじゃねーか」
「それ、俺やばくないですか?」
「帰還用のドローンは上空に隠してあるからはやくしな。クラーケンは静観してるわけじゃない。獲物がかかるのを待っているぞ。」
「ち、今日は忙しいな。まさか市長が救出隊をだすなんて。ただの自己中やろうと思っていましたけど、なんだかんだ人の親っすね」
「あの男は腐ってはいるが狂ってはいない。そのメイドが、様々な世界線の人類を再現しているのなら、さらに先を目指しているかもしれないさ」
「さらに先っすか」
「ああ。新人類をよ。例の盾の魔法の小僧。盾の魔法自体は珍しくはないが。だが、あの盾は獣人の大戦士、大盾の獅子王の魔法によく似ている。奴は旧世界線をただ滅ぼしたわけじゃない。吸収し血肉にしてんのさ。救出隊も魔心臓の回収をして、弟に使い回す予定だろうよ」
「マジかよ。」
「まったくだ。だが、世界線はこれまで以上に理想的なところまできている。運命の日は近い。あとは勇者魔法のあの娘が成長してくれることを願うばかりだ」
船体が揺れる。異様な揺れ方
「これは……」
「くくく。急いだほうがいい」
「そうみたいですね。通信切りますよ。」
「なんだったんだ、いまの揺れは、おい!貴様、止まれ。っ!!その方は、クレア様?!」
救出隊の一行と思われる武装した一団。
「あーあーぞろぞろと。魔力を垂れ流して。バカかよ」
白衣の裾から煙をだす。
「バカにつける薬はねぇからな。」
すれ違いざまに彼らの武器を解体した。突如として、分解された武器に慌てふためく彼らを尻目に通り過ぎる。
「餌にでもなってろ」
彼らをすり抜けていき、甲板へ急ぐ。ここまで生き延びてきて、世界線の完成も近い中、おちおち死んでられるか。扉を開け、海風に白衣がたなびく中、目の前に現れたのは巨大な熊。
「ん?誰だ」
「は、ここで狂月かよ。ほんとに忙しいな今日は、数百年ぶりだぜ」
ブラックボックスを回収したロックと鉢合わせしたのだった。