研究室のジョシュア
「しかしこんなことになるとは」
救難信号は出したらしいが、助けが来るかは正直あやしい。追われていた魔道士たちは船で保護したそうだが、話しを聞いている最中に怪人が現れ、絶命したようだ。どうやら研究室から逃げてきたらしい。彼らは空のクジラを攻撃し、反撃を受けたようだ。
怪人たちは1枚岩ではないようだ。海の研究室と空の研究室では役割が違うようで、海の研究室は怪人の生産を、空の研究室は人類の観察をしているらしい。どういう意味か聞くために問い詰めたところ怪人が彼らを食い破り、外で暴れだした。多くの死傷者をだし、また船も件の化け物に襲われ半壊してしまったようだ。
「ぼっちゃんの留守を守れず申し訳ございません」
ばあやが辛そうに言う。ほかの執事たちも同様だ。
「はぁ、はぁ、構わない、さ」
曲がり角で出くわした怪人を盾で切り裂き、突き進んでいく。幸いそこまで強くない。
「何体いるんだ。この化け物どもが。ソウルアーツ!!」
執事の左腕が光り、怪人を殴り飛ばす。そこに盾を突き立てる。
「坊ちゃん、はぁ、はぁ、ナイスです!」
「セーバ。きみの力もなかなかだ。無理はするなよ」
銅クラスほどか。杖を解放しなくても倒せるくらいだ。だが、量が多い。報告で聞いた鮭の怪人を思いださせる。執事たちも奮闘しているが。
「魔法が使えなくとも、我々は、ソウルアーツを使えます!どうか坊ちゃん1人だけでも生き延びて」
「僕が倒す。心配するな」
魔法使いが、マジブロッサムの外の世界で戦う時、その戦力は激減する。これはマジブロッサムの地中に多く埋められている魔法石や世界樹の恩恵を得られないためだ。そのため、外界では世界樹の葉や枝を持参するか、旧魔法が使われることが多い。それらはつかい尽くしてしまった
あとはソウルアーツ。ワルス家に伝わる秘術。魔力とは別の力。坊ちゃんは魔法が強いから習う必要はないといつも教えてくれなかった。
幼い時に父に言われたことがある。
「数多の世界線、魚人世界線、巨人世界線、獣人世界線、魔道世界線……。魔女は世界を作り替えるが、はじまりの世界線に到達はしていない。だが、技術は継承されてきた。痕跡は残っている。残すことができる。ソウルアーツは俺が遺跡で見つけた秘術。使用人たちにも教えるが、リスクは知らせてない。」
「リスク?」
「HAHAHA。力にはリスクが付き物さ。」
「坊ちゃん!!!」
盾を重ねて突如現れた魔法を防ぐ。白衣の男が立っていた。
「よぉ」
ボサボサの頭の男が現れた。その手には血まみれになった人間を持って。
「あ、が、が、」
微かに声が聞こえる。生きては居るようだが。
「貴様」
「おぅ。お前か。盾の魔法のボンボン」
咥えたタバコから煙を吸い、吐き出す。その煙が飛びかかった執事を捕まえる。
「セーバ!?」
「坊ちゃん逃げて!こいつは、特級の指名手配犯です!!」
「勝手に犯罪者にされてしまったら困るんだが。お前たちの方が捕まるべきだろ」
「黒煙のジョシュア!旦那様の邪魔ばかりしやがって、ソウル…アーツ!!!」「ソウルアーツ」「ソウルアーツ!」「ソウル…アーツ…」
煙の拘束を払い除ける。他の執事たちも、敵意むき出しでその男を睨みつける。
「…へぇ、ソウルアーツ、ねぇ。あいつめ。執事になんてもん仕込ませてんだよ」
「ワルス家の執事として、今ここで貴様を殺す」
「よせ!!」
止めに入ろうとする。この男の実力は計り知れない。さきほど海上で戦った時も、底が見えない位強かった。盾の魔法を使う自分が命辛々逃げてくるほどだ。
「黒煙?だせー二つ名つけんなよ。この世代の連中は、人の名前も覚えられねーのか。第二研究室副室長。ジョシュア=フラスコだ。教授からは助手くんと呼ばれてる。…ソウルアーツは多用しないほうがいいぜ」
「この海域で戦うなら他に方法は、ない!!」
「だから、あの木の周りから出てくんじゃねーよ。ったく。」
手に持っていた人を壁に投げつけ、タバコを取り出し火をつける。ばあやを除く全員がソウルアーツを使用し肉薄する。
「肉体強化のさらに上を行く、魂を使用した体術強化。一撃につき、一年くらいか。上級魔法ですら殴り消すその技術、お前ら、何年寿命を使った?」
「何をごちゃごちゃと訳のわからぬことをこれは、我らの誇り!一人前の証!!旦那様から教えていただいた!唯一無二の!」
「ソウルアーツ…黒衣」
その言葉は、ジョシュアから発せられた。黒い煙が白衣を黒く染めあげる。五人の執事の周りを黒い煙が一瞬通り過ぎて
「え…」
「三世代前巨人世界線の技術だ。てめぇらのじゃあない。長命の彼らだからこそ使えた超パワー」
男の声がした頃には、執事たちはもれなく叩き潰されていた。
「ばかな、」
「ふぅうう」
煙を吐く。白衣姿に戻る。
「わざわざ滅ぼした文明を呼び起こしてくれんなよ。めんどくせー。」