フクロと会長
生徒会長が授業後のフクロ教授を捕まえて、空き教室に連れ込んだ。事の経緯を説明するも不機嫌な顔になる。
「断る。そんな事は契約にはなかったじゃねーか。」
フクロは不機嫌そうに言った。
「しかし校長先生はあなたを救助隊の班長に任命してましたよ。なにより生徒の人命が」
「知るかよ。そんなこと。私が言われたのは2つだ。1つは空席になっていた歴史学を教える教員として、ここで働くこと。もう一つは、あの魔法少女見習いの娘に勇者魔法の手ほどきをすることだ。なんで危険な学校の外に行って、命をさらさないといけないんだ。」
「しかし」
「あのなぁ、生徒会長さんよ。私は考古学者であって、戦闘員ではないんだ。魔法騎士ではない。魔法警察でもない。考古学者だ。勇者魔法だって、護身術として使っているだけで、本物じゃない。本来の勇者魔法を見た人間なんて、この世にはいないんだ。」
「だが、あなたは外の世界を知り、生き残ってきた。」
「がむしゃらだったからさ。女一人で外に出る危険をお前は分かっていない。外の世界は、世界樹の加護も、守ってくれる大人もいない。この街でお前たちができてることの半分もできない。それになんで、そいつは町の外にいるんだ。本来許可なくして、魔法使いは外には出られない。おかしいだろ」
「言われてみれ、ば」
会長の言葉は止まる。彼女の首元にナイフが迫っていた。
「…っ!」
「へぇ、さすが魔法少女。寸止めするつもりだったとはいえ、よくかわしたな。…まぁ、だけど、まだ青い」
「なにを…」
そんな彼女の脇腹あたりには刀の切先が突き立てられそうになっていた。ナイフとは反対の手で抜かれていた。
「わたし相手に剣術を…」
「ははっ。すげーもんだろ。ミスディレクションに居合術を組み込んだ。初撃を反応したのはさすがだがな。注視するあまり、二撃目の対策がおろそかだ。だからこうなる」
足元から、魔弾が見えた。これは避けられない。
「ひきょ……。……ご指導ありがとうございます」
会長は言いたい言葉を飲み込んだ。フクロはクルクルとナイフを回しながら袖の中に納めた。
「てめぇはお利口さんだな。だから心配だよ。あの校長にしろ、市長にしろ、研究室の奴らにしろ。世界線を調べれば調べるほど、分からなくなってくる。……自分の頭で考えることを忘れるなよ」
「……はい」
わたしが剣術で遅れをとった。そのことに、軽くショックを受けた。こんなことは副会長以来だ。だが、このままでは。なにか策を考えねば
「はぁ、はぁ、はぁ、生徒会長とは決着を付けたかったんだけどね……」
眼前の怪人を押し潰し、盾の魔法を解く。どっと疲労感が押し寄せてくる。杖の解放による一時的な魔力の向上は、長時間続けると魔心臓に影響が出る。
半壊した船の中。
「ぼっちゃまおやめ下さい我々のことなんて見捨ててください」
執事たちが口々に言う。
「無理しなくていい。震えているじゃないか。君たちはよく尽くしてくれている。それに僕は昔から弟に言っている。我々は王になる。だが、ひとりぼっちの王さまに意味はないってね」
とは言え、謎の男の襲撃から逃れて戻った先の母艦は半壊。船内には怪人が多数。何があった。それに足元に目をうつす。
船のまわりをぐるぐると回るこの魔力。危険だ。
「さぁ、みんな僕がいるし、きっとお父上が助けてくれる。食料と水を確保しにいこう」