フクロ教授の特別授業
「っと、その前に授業料をいただこう」
「え?お金なん、てぇ?!」
鋭く飛んできた掌底をかわす。
「いきなりなにを」
「これを避けるか、さすがだなぁ。かっかっか。魔法少女見習いの実力ためさせてくれ。ひっく。一撃でも当てたら君はテスト免除。5分当てられなかったら赤点だらぁ!」
「うわああ!」
さっきの掌底は一撃目は魔力を込めず、二撃目は魔力を込めて、打ち出した。やはり魔力込の方が反応がいいな。勇者の直感ってやつか。真面目に修行をしてるようだ。学生にしてはよく動いている。まぁ、学生にしてはだが。
「ほんとに酔っ払いですか?」
「酔ってない。酔ってないのらああ」
そんなふうに嘯きつつ、魔力を使って攻撃の回転数を上げていく。さぁどうする。
「早っ!迷ってられない……か。旧防御」
さくらこは杖を出しドーム状のシールドを張る。
「へぇ」
面に対して高い防御をほこる新魔法のほうではなく、早く360度カバーできる旧魔法を選択したか。新魔法を推進するマジブロッサム内は旧魔法は嫌われてると思ったが。まぁ、早い分脆いんだがな。力を込め、シールドを割る。
「っ?!」
その拳はさくらこには通らない。さくらこはニヤリと笑う。シールドの下にもう1枚シールド。勢いの死んだ拳は簡単に止まる。
「試験免除いただきますよ!魔法種・拘束紐!」
さくらこの杖から紐が現れ、フクロの腕にまきつこうとする。だが、フクロの腕には絡まらず、見えない何かに阻まれる。
「ጿ ኈ 」
なんて言った?
「?!」
何かによって弾かれる。フクロはそのまま、ひとっ飛びに迫ってくる。さくらこは杖を振るう。得体の知れない力。たぶん、さっきより強い。
「魔法種・盾!!」
前面に盾を張る。
「んな脆い盾張ってんじゃねーよ。」
素手の拳にさくらこの盾は砕かれ、殴り飛ばされる。シールドの上で威力が減っているとしても、人間の身体が浮くほどのパワーってなんなのこの人。
「嘘ぉ?!っなら」
さくらこは魔力を体内で練り上げ、走り出す。一撃当てるだけならこの速さで、押し切る。さくらこのスピードがあがる。そのままぐるぐるとフクロの周りを走り、タイミングを伺う。が、そんな様子をつまらなそうにフクロは見ていた。
「なんで、勇者魔法をつかわねーんだよ。春風。なめてんのか。ちっ、本気をだしてもらわねーと張り合いがねーよ。こちとら、この境地にくるまで相当かかってんだから」
「?」
「まさか、すっとぼけてんのか!春風、ጿ ኈ ቼ ዽ」
まただ、聞き馴染みのない言葉。
「憂鬱だ」
空気が重くなり、さくらこは悪寒を感じる。フクロの視線はとても冷ややかだった。
「こんなのが、今の世界線の勇者継承者か。憂鬱だ……この世界線も魔女に滅ぼされるのかよ」
「何勝手に盛り上がって、萎えちゃってんだ」
さくらこは背後からフクロに襲いかかる。
「ጿ ኈ ቼ ዽいや、今風にいうと勇者魔法…憂鬱一撃」
彼女は見当違いの方向にゆったりと拳を繰り出す。
「なにやっ…!!」
突如さくらこは何かに体をがっしりと掴まれ、気づいたらフクロの前に浮かんでいた。彼女の緩いこぶしは、さくらこを地面に叩きつけそのまま地面を割るほどの威力をみせた。さくらこは地面に伏したままうごかない。
「……かは」
「手加減はした。意識はあんだろ。少しは修行したみたいだが。赤点は勘弁してやる。てめぇはお気楽に試験受けて、周りの無能どもに守られてろ。」
「みんなは、む、のう、じゃ、ない…」
「へー、他人のために怒れるタイプの人間か。理解できないがなぁ。お前が弱いと、関わってる人間の程度が知れるぜ。はー、辞表出しにいくか。ガリレオの野郎。何が新たな希望だよ。期待外れだ。」
さくらこは激痛の中無力感に苛まれていた。今までやってきたことは無駄だったのか。そしてなにより、仲間や先輩たちが、自分のせいで低く見られることは不甲斐ない。
「待って、いや待て、よ。逃げん、なよ」
「……あ?」
フラフラと立ち上がり、さくらこは空中から剣を取り出す。
「今のは、ハンデだ。はぁ、はぁ、あたしは剣士だ。ぶった切っても、問題ないですよね。」
「かまわねーよ。届きゃしないんだからな。そんなヘボ剣術」