世界は魔法に満ちている。3
さくらこはギリギリで、校舎に滑り込む。玄関には何人かの守衛さんが立っていた。守衛さんから杖を見せるように言われた。
「うん、新入生だね。グランドへ行きなさい。このまままっすぐ歩けばいいから」
建物の内部は木製であり、暖色の照明で温かみがあった。鼻をくすぐるような爽やかな香りが漂っていた。生徒たちが足しげに教室に向かう中、ジリリリとベルが鳴り響く。ベルの後、穏やかな音楽が流れ、校舎内に声が響く。
「新入生の皆さんは校舎中央のグランドへ集まってください」
まばらに集められた新入生たちは、とまどいの表情を浮かべていた。さくらこも不安と期待の入り混じった顔で、周りを見ていた。
グランドをぐるりと囲む校舎からは上級生と思われる黒いかげが静かに新入生たちを見ていた。
「あー、あー、チェックチェック。よぉ!新入生諸君!」
魔法で拡張された声が響く。
「ようこそ!【鳥の巣】へ!歓迎する若き才能たちよ」
若い女の声だった。新入生の1人が指を上空を指指すと、白衣をたなびかせた女性が腕を組み、仁王立ちで立っていた。頭には大きな山高帽子。かなり年季が入っている。燃えるような赤い瞳は鋭く、鷹の目のようだった。
「君たちに支給した杖は無垢の杖だ。これからの3年間で多くの魔法を詰めることになる。何人かはすでに魔法を入れているようだが。自ら学んだものが真に血肉となる。」
さくらこは周りを見渡すと、自分のように透明な玉は少なく、色の濃淡に差はあるものの、色がついている者がほとんどだった。
そのうちの1人がさくらこに気づき、仲間に指さしでヒソヒソと話す。3人はバカにしたような目でさくらこを見ていた。朝までは誇らしげだった自分の杖が急にみすぼらしく思えた。
「再発行はしない。杖は君たちにとっての文具であり、学生証であり、友である。」
「へへ、あそこには、みすぼらしい友達もいるみたいだがな」
さっきの3人のうちの1人がこちらに向かって、小声でいう。腹がたったが、無視をした。
「数々の授業、試験、そして、試練が君たちを待っている。大いに励め、そして学べ。【鳥の巣】一同君たちを歓迎する」
彼女が自らの漆黒の杖を振るうと、空中に色鮮やかな魔法たちが、踊るように景色を変えていく。それに合わせて、校舎からも次々に魔法が花火のように現れる。上級生や教職員たちが得意の魔法を空に放った。
「最後に、お前たちの足元にある世界樹は異世界の魔女と呼ばれた始まりの魔女が植えたとされる木だ。何度世界が滅びても、科学と魔法で守られてきた。彼女の歴史そのものだ」
「彼女のまいた芽が、世界一の大樹となったように。君たち魔法使いの卵たちが大輪の花を咲かせることを心から願っている!そして、はじまりの魔女を超える魔法使いが現れることを楽しみにしてる。今、世界は魔法に満ちている!以上!解散!!」
すると、ホウキに乗った小柄な男性が慌ててやってきた。
「ちょっと、校長先生、勝手に解散させないで下さい。あと自己紹介、自己紹介!」
「ああ!すまない。私は【鳥の巣】第3魔法学校、校長。ガリレオ・A・チェリーブロッサム!若木たちよ!諸君らの研鑽を期待している。」
彼女は白衣を翻すとその場からきえていた。かっこいい人だったな。
「では、新入生のみなさん今からクラスを決めるので、こちらに集まってください。」