夜のひととき
あわわわどうしよう。テストができるほど自分に実力があるとは思えない。私はそんなに勉強が得意ではないし、特に魔法の授業なんてものは全く素人だ。この学校に来ていろいろなことに巻き込まれてきた。けれど、勉強に関しては人並み以下。頭の中がパニック状態だ。そんな私の肩をトントンと優しく叩き話しかけてきた。
「まぁ、さくらこ、今日はしっかり休めって。勉強はあたしたちで教えてやっからよ」
「あたし、たち?」
アンリちゃんはいぶかしげに聞いた。
「おい、アンリどういう意味だよ。あたしだって召喚に関してだけは自信あるんだぞ。ちんちくりんがよ」
「カチーン。私は飛び級して、まだ成長期の途中なんだ。2年後にはマツリを超えるダイナマイトボディーになる」
2人が取っ組み合いを始めそうになっていたので、間に入ってなだめる。が、2人が手当たり次第に投げるものが顔面にぶち当たり、さくらこはぶっ倒れた。
「あ、すまね」「ごめん、さくらこ」
「あは、あははははは」
さくらこが笑い、つられて2人も笑い始めた。大笑いをして、さくらこたちはそのままみんなで寝ることにした。
皆が寝静まる頃、研究室は動き出す。ようやく見つけた第三魔法学校の場所がロストし、ラボの面々は再度捜索をしていた。
「ったく!空のヤツら。普段何も力を貸さないくせに、手柄をかっさらいやがって」
「魚人世界線の勇者。魂の残滓だとしても魔心臓はかなりの質だろう。やつの心臓はどこへ消えた2ヶ月もさがしてるのに。欠片ひとつもみつからない魔王石に匹敵するのでは?ないなんてありえない」
「勇者の剣の反応もねぇし、勇者の継承者はほんとにいんのか?おれたちの悲願だろうに」
「世界線は何パーセントに設定するのだ。想定外が重なりすぎてわからないのだ」
研究員たちはそれぞれに不満を言って、それぞれの研究を続けていた。ある者は怪人たちの納まる液体詰めの巨大なフラスコをいじり、ある者は魔法の杖を解体し、ある者は何やら長い紙にひたすら計算式をかいていたり。白衣を着た異形のものたち。白衣の裾からは毛が生えた腕や、ヌメヌメとした触手が見え隠れしていた。彼らは戦闘には適さないが、知能が高い怪人たちで研究室の中で働いている。
「ベイビーズ静まりなさい」
「YESmam!!」
1人の声で静まりかえる。
「まったく」
白衣を着た白髪の女。高い身長で背筋もピンと伸びている。上品な佇まいでタブレットを操作しながら、指示を飛ばす。
「魔心臓探しは潜入員たちがしてくれてます。怪人たちを暴れさせ、その裏で工作、調査を。地道ですが、確実です。魔法少女たちの出現時間が遅くなっています。第3魔法学校は世界樹の下層から上に移動したのでしょう。本気で隠れるつもりですから、コチラから探し出すことはほぼ不可能でしょう。要人の子供ですら、外部と連絡をとらしてないのです。勇者の剣もほっておきます。継承者はただの学生、まだつかいこなせるわけではないでしょうし。世界線は87パーセントとします。勇者の継ぎ手が現れたのですから、彼女の理想に近づいていますわ」
「母」
「なぁに」
1人の研究員が近づいてきた。
「教授からの連絡です。」
「ふぅん」
彼女が、モニターの前に座ると画面が光る。
「よぉ、ベイビー元気にしてたか?」
画面の向こう側からの能天気な声にすこし、苛立ちを感じるも、表情にはださない。
「今不機嫌になりましたわ」
「相変わらずつれないねぇ。助手くんから、詫びの品はとっくに届いたろ?」
「あの古代文字の切れ端のデータ。本物でなければ意味はありませんよ」
「そういうなって、貴重な魔女世界線のものなんだ。消失した魔力からサルベージするだけでも、大変だったんだぜ?助手くんが」
「気の毒に」
代わってやろうとは微塵も思わないが。あのイカれた女と一緒に仕事するなんて考えたくもない。彼女が机の上のタブレットで、データを見る。さくらこたちが手に入れたノートの断片的なデータだった。カラフルな色の紙に古代文字。データを読み解こうにもサンプルが足りなさすぎる
「ひひひ、貴重な魚人の姫のDNA使って作った怪人だ。大活躍だったろ、あいつは」
「我が子たちを食いつぶしたアレが姫?笑えない冗談ですわ」
「カリカリすんなって。あの老いぼれが貴重なコレクションを出したんだ。何かしらのヒントがあると思うのが普通だろ?やつらと我ら。やり方こそ違うけどやりたいことは一緒さ。始まりの魔女との邂逅。そのために必要なもの、つまりだ。第二の月への到達方法、魔女との対話方法、バカ強い魔力。魔法少女世界線の誤差修正、魔女様の機嫌を損ねて世界がもう一度崩壊してしまうのはいただけねーからな」
「今回が過去1番理想に近い。魔力を持つ人間が多く、化学と魔法が共存している。」
「ベイビー。その通りだ。エラがあるわけでも、全身毛が覆われてるわけでもねー人類が生まれた。しかも魔力持ちが多数!対話の準備もしとかねーとな。なんせ奴らは俺たちに比べて寿命が短い。あの老いぼれも動くなら今だと思ったのかもな」
「……なるほどそのために、必要なのかあの紙切れが、魔女の言語を知るために」
「御明答!あの魔女の本があたしは欲しい」
「分かりました。」
通信が切られ、マザーは立ち上がる。
「ベイビーズ。いつも通りバックアップをとっておきなさい。それが終わったら休みなさい。しばらくは通常どおりに。」
「マザーは?」
「わたしは新しい子を産みます。こないだのあの蛸にやられないような強い子を産んでみせます。何か異常があれば教えなさい。」