寮 スズメ御殿
さくらこはヘトヘトの体で鳥の巣を出て寮へ向かう。校舎の位置が高い場所に移ったため世界樹の幹は以前より細くなったが、依然として頑丈で枝の上にいることを感じさせないほど巨大だった。
「たしか、三つ別れた幹を通り越して、っと」
沢山の穴が空いた幹をみつける。穴に杖を突っ込む。
「くま組1年春風さくらこ。ただいま帰りました。」
ガチャリと音がして、扉が現れる。
第三魔法学校【鳥の巣】の寮は今回新しく設置された。名を【スズメ御殿】。学校に近く、幹を伝っていけばすぐに着く。先生たちの魔法によって作られたこの建物は外から見てもどこにあるか見つけにくい。世界樹の幹のところにいくつかの小さなドアがあり、そこが魔法の入り口になっている。正しい鍵穴に自分の杖をかざせば、ドアがみるみる大きくなり自分の部屋につながる廊下へ行けるようになっている。廊下には同級生たちの部屋があり、本人の許可があれば自由に行き来もできる。1年クマ組の皆が同じ廊下を共有している。
スズメ御殿が作られた理由は生徒を守るためだ。まずこの学校の場所が公になっていない。2ヶ月前の戦いでスパイが紛れ込んでいることがわかったからだ。そのため、自宅から通っていた生徒も寮で暮らすことになった。引越しのあった日に通達があった。生徒に示されたのは2つの選択肢。1つは寮で暮らすこと。もう一つは記憶を消されて別の学校で暮らすこと。3分の2の生徒が学校に残り後の生徒は別の学校に行くことになった。多くの生徒がそれぞれの国や家のために学校に来ているので残った。
スズメ御殿の前の寮では、男子寮、女子寮の2つの建物があるだけで、防犯対策が不十分ではなかったと言われている。が、裏の事情としては、さくらこの身の安全の為だ。さくらこは自分の家から通っていたが、勇者の剣を継承し、魔力が覚醒した結果、狙われる可能性が高い。また初めの1週間は勇者の力をコントロールが出来ず、ところ構わず魔法を消してしまっていた。マジブロッサムは魔法都市。移動するのも、生活するのも魔法だよりだ。大きな事故を起こしかねない。いまでこそ、勇者の剣の抜き差しで、オンオフの切り替えがある程度出来るようになったが、しばらくは大変だったのだ。
魔法の扉をくぐるとベルが鳴り、級友たちが飛び出してきた。
「おかえり、さくらこ。もう食堂は閉まっているから、夜食を確保しておいたぜ」
「早く食べよ。お腹すいた。今日はアンリの部屋でいいよ」
「まつりちゃん!アンリちゃん!」
2人は皿に盛られたサンドイッチをさくらこに見せた。さらに赤い光と青い光が、飲み物やスープを運んできた。
「アルファちゃんもベータちゃんもありがとう」
2つの光は、マツリへと向かっていく。使い魔2匹は2ヶ月で少し大きくなった気がする。
アンリちゃんの部屋でくつろぎながら夜食をいただく。アンリちゃんの部屋には書物がたくさんあり、難しそうな魔法陣がたくさん部屋の中に干してあった。ガラガラと魔道具をどかしてスペースをつくる。
「ったく。どいてな。アルフ、ベー。ぷろぐらむ家事魔法だ。」
マツリちゃんが手を叩く。ふたつの光は手の形になり、次々に片付けていく。乱雑なものは整理整頓され、部屋の隅に重ねられていき、ゴミやホコリはみるみる集められていく。
「家事魔法はマツリが1番うまい。」
「アンリおまえ、このために自分の部屋つかわせたんじゃねーだろうな。せっかく一人一人に個室家具風呂付きアレンジ機能マシマシの超快適空間だってのに」
「そんなことないし」
目が泳ぎまくっている。呆れた顔のマツリだったが、さくらこに向き直り、心配そうにいった。
「今日はいつにも増して遅かったなぁ。また例の秘密の特訓か」
「さくらこいつも忙しそう大丈夫?」
「らいじょうぶ、もぐもぐ、なんで、2人は起きてるの?いつも、この時間寝てるじゃん」
2人は顔を見合わせて、さくらこにいう。
「いや、だってテストあるじゃん」
「ふぇ?」
「クマ先生朝言ってた。」
「来週テスト週間だとよ」
「ええええ!!」