生徒会長の稽古2
「ふぅ。身体強化はだいぶ様になってきたな。剣術も基礎は叩き込んだ。そろそろ、魔力を伴った魔剣術に移りたいが」
「ふぁ、ふぁい」
疲労困憊のさくらこを見て、会長はしかたない、と、ため息をついた。
「それはまた今度にするか」
彼女はカバンから取り出した購買のパンをさくらこにわたした。
「いつも、あ、ありがとうございます」
「さっさと食べるんだ。フラフラだろう。全員が寮生活になって、通学しなくてよいとはいえ、寮まで歩く。エネルギー補給して行くんだ」
もぐもぐと食べ終わることを見届けてから、会長は帰ることを促してくれた。
さくらこを見送ったあと、通信魔法をいれる。
「こちら、マジカルわさび。校長先生今日の魔法少女見習いの訓練終了しました。やはり、勇者の魔法が足かせになって、私の魔法剣術の習得はなかなか難しいと思われます。マジカルブラッドのような召喚魔法も不調で、勇者の剣の取り出しと収納くらいしかできてないみたいです。」
「ご苦労。この2ヶ月の訓練でわかったことがいくつかある。体の内部に働きかける身体強化魔法、この辺は習得可能だ。体内の属性付与される前の魔力なら利用可能のようだ。やはり勇者の魔法の肝である対魔法の性質があるから、習得するための魔法は厳選しないといけないな。魔法と言うのは、自分の魔力と周囲の魔力を混ぜ合わせて発動する。自分の魔力だけだと、出力がたりない。そういったことをクリアするために新魔法の仕組みを作ってきたのだが、彼女は例外になりそうだ。となると、やはり勇者のオリジナルを習得しないとやっていけないか。」
「しかし……」
「ああ現在、勇者の魔法を知っているものは少なく、扱えるものは皆無だ。過去の世界線まで遡らないと勇者の魔法の記録は無い。まぁこの辺のことを研究しているフクロ=ティアンを学校に招いたのは正解だったな。元は冒険家、扱いにくい人間ではあるが、春風さくらこのことを知れば乗ってくるだろう。彼女の研究は個人の趣味と公言している位世間には知られていない。そもそも普通の考古学ではなくて、世界が崩壊する前に起こったことを研究する世界線考古学はオカルトじみたものであり、亜人の存在がなければ、世界線の研究そのものが妄想の類だと思われていたんだ。」
「協力は得られそうですか?」
「さてなぁ。彼女がこの学園に来たのは、世界樹の研究をするためだ。おそらくな。だが、それはこの世界じゃ禁止されてる。何を知りたいかは知らないがしっぽを出すまで泳がせておくさ。お前たちは引き続き春風を鍛えてくれ。ラボの連中はここのところ元の低コストの怪人を送り込むことしているが、油断はできない。この間のやつみたいに過去の世界線のDNAを使った強力な怪人を呼び起こす可能性がある。奴らが何体過去のサンプルを持っているのか、一体だけじゃないだろう。こちらもできるだけ準備をしておく。じゃあマジカルわさび。今日も特訓いってみよーか。いつも通り100人切りか?」
「後輩が健気に頑張ってるんだ。倍でお願いします。」
「ははっ!いいね」
彼女の周りに武装した黒いゴム人形が現れる。
「いくぞ」
そんな様子を世界樹に登り双眼鏡で覗くものが1人いた。
棒状のレーションをさくさくと食べながら、嵐のような剣技に見蕩れる。人影が次々に切り倒されて行く。
「ひゃあ、さすが噂に名高い雷牙だな。あいつ第一魔法学校でもやってけんじゃないか?」
フクロは黒いライダースーツに黒い目隠し帽をかぶり闇に同化していた。
「身体強化に剣の技術。魔法剣も使え、さらには世界樹のバフがあるとなると。相手にしたくはないなぁ」
世界樹の枝に広げていた道具を片付けはじめる。何かの計器や、シャーレ、瓶の中には切って細かくされた世界樹の葉が入っていた。またなぜか徳利とお猪口。それらがアルコールの匂いを漂わせていた。徳利以外のものを箱のようなかばんに詰め込み、最後にくしゃっとレーションの入っていた袋を丸め握る。開いたときには、袋は砂のようになっていた。
「さて、何秒で現れるかな」
「貴様、なにをしている、……フクロ教授?」
目の前に転移魔法で、警備員が2人現れる。
「わぉ、警備員さん。杖下ろしてくれよ。眩しいっての。いやぁ、ここで月見酒でもしようとしたらね。絶景でね。毎日子どもたちの相手してると静かな空間にいたくなってね。警備員さんもいっぱいどぉ?いまなら熱燗あるけど」
警備員たちは呆れた顔でこちらを見ていた。
「フクロ先生、この時間は外出禁止ですし、世界樹の近くでの個人の魔法は厳禁です。火属性の魔法使ってたでしょ。燃えたらどうするんですか」
「ああそうなの?ごめんごめん。あたし長らく外の世界にいたからさ。」
彼女は頭をかきながら照れたように言った。
「お酒飲んでるなら、危ないんで我々が送りますね。あと、世界樹の葉をお皿替わりにしないで下さいね。始末書レベルですよ!」
「あははは物資が足りないのは日常茶飯事で、使えるもの使わないと」
「やめてくださいよ。我々も校長先生に叱られてしまうんですから」
転送魔法を準備する様子をみながらフクロはつぶやく。
「……30秒、属性まで感知、校長直属。個人で転移魔法つかえる。怪人に突破されたらしいが、十分優秀だな」
「なにかいいましたか?」
「いんや、ありがとうね警備員さん。色々教えてくれて。お礼を言いたかっただけ」