引越し
翌日、さくらこはボーとした頭で、病室を後にした。脱力感がひどく、また全身のあちこちが痛かったが、引越しが行なわれるらしく追い出されてしまった。
生徒は皆無事。マツリちゃんたちも無事だそうだ。でも。
「たこさん、、、」
さくらこの胸のつっかかりは残ったままだった。
「さくらこ一年生」
そこに立っていたのは、ミナトだった。
「先輩……」
「……大変だったな。」
2人で校庭に向かう。
しばらくの沈黙ののち、ミナトは立ち止まり、口を開いた。
「悪かった。さくらこ。助けが間に合わなくて」
深々と頭をさげる。
「や、やめてください。先輩、みんな、無事だったから」
ズキンと胸がいたむ。
「あのぬいぐるみ。生きてたんだろ」
顔をあげるとミナト先輩が優しく微笑む。
「!」
「魔法生物とは違う。過去の偉物だ。」
「先輩……」
そんなミナトをさくらこは横薙ぎに斬る。
「あなたは誰ですか……」
「くくく、これは驚いた。剣を抜く前に見抜くか?そんな目でみんなよ。ダーリン。あたしは自分で確かめないと気が済まないたちでな。春風さくらこ」
「ミナト先輩の姿が魔法なのを感じます。」
ミナトの姿が歪み、人影が現れる。
「校長、先生……」
「引越し前に確かめたいことがあってな」
校長はさくらこを観察する。空中から取り出した勇者の剣。瞳の色が違う。透き通るような金の瞳。勇者の剣を託されたものに起こる肉体の変異か?興味がつきねぇ。あのタコはほとんど語らずに逝っちまったからな。彼女の手から剣が消えると彼女の瞳は元の色に戻った。
「あぁ、引越しを行うのは、奴らにこの場所が特定されたのが確定したからだ。奴らに情報を流している奴がいる。お前が1番怪しかったんだぜ?春風。中学までのデータはなく、今年突然入学してきた転校生。お前こそ何者だ?春風さくらこ。なぁ、おい。」
校長が指を鳴らすと3人の魔法少女が武器を構えてそこに立っていた。
「勇者を作りたい研究室にとって、お前は最高のモルモットだ。スパイとして敵地に送り込むのは、あまりにも……もったいねぇ。魔法の無効化。魔女に届きうる力だ。かの英雄タコニチュアが、到達して以来、人類は月に、いや、宇宙にすらたどり着けていない。」
「なんの、話、ですか。」
「ふぅー。……マジブラッド。」
「嘘をついてたなら、もう処してますよ。研究室の記憶があるようなら八つ裂き確定です」
「だよな。……春風、退学通知前の勧告だ。入学早々わりぃな。3人の魔法少女がお前の師匠兼監視役になる。魔法少女見習いとしてこの学園で過ごし力をつけ、あの月から魔女を引きずりおろせ。お前が生き残れる道はそれだけだ。さて、諸君」
それだけ言い残すと、彼女はどデカい山高帽子を被り、杖を取り出す。
「始めるぞ」
校長は長いローブの下からたくさんの杖を展開する。それぞれが意思を持っているかのように動き、別々の魔方陣を書き始める。丸を基本とした魔法陣、どこかの民族の文字で書かれた魔法陣。世界中のありとあらゆる、歴史に連なる古来の魔法まで。同時に起動させる。魔法少女たちも、そのサポートに入る。展開し、バラバラに弾け、飛ぼうとする魔法をつなぎ止める。
「3年前よりかだいぶ楽だぜ。お前たち。成長したなぁ。見とけよ。春風。今お前が見ている魔法は、現時点の最高到達地点の魔法使いたちの魔法だぜ。」
さくらこは胸のざわつきを感じた。目の前に広げられるカラフルな魔法ではなく。その大きな山高帽子を見てた。さくらこに刻まれた勇者の剣が反応しているようだった。
「……亡霊共の殺気か。姐さんの帽子に反応してるようだな。……手ぇ出さなくていい。お前ら。ラボの連中に追跡されないように多段式でいく。」
彼女の魔法が収束していき、ある形をとる。
「……鳥?」
「不死鳥だよ。さくらこ1年生。この学校が【鳥の巣】と呼ばれる所以さ」
「この鳥が学校を運ぶ。」
不死鳥の身体が一気に膨れ上がり、その魔法があたりに広がる。ほんのり暖かい空気が周りを包む。
「春風。絶対に剣は抜くなよ。魔法が掻き消えたら、私たちは消滅してしまうからな。」
「命尽きても甦り、遥かな時を飛び回り、我らを連れてけ巣と共に、多次元移動魔法【不死鳥】3段加速の陣!!」
「「「はい!!」」」
「発動!!!」
グイッと引っ張りあげられる感覚があったあと、浮遊感が感じられる。小刻みな振動がしばらくして止み。目の前に燃えるように赤い羽根がさくらこの前に現れた。
「……春風さくらこ。不死鳥の羽を校長に渡してくれ。」
「は、はぁ」
受け取った校長はその羽をしばらく見つめていたが、胸からフラスコを取り出して中へ入れた。のどに杖を当てて、校長は放送する。
「……全校に告げる。引越し完了だ。各々の荷物を確認してくれ。教職員はライフラインの確立と、ネットワークの再接続。世界樹とのリンクを最優先に。あたしは、少し休む」
くるりと振り返る時には、山高帽子もローブも消えていて、いつもの白衣姿だった。
「春風。引き受けてくれるか?魔法少女見習い。」
「拒否権はないんでしょ」
「ねーな。勇者としての運命がお前を否が応でも魔女討伐に向かわせる。犬死しようが、相打ちになろうがてめぇが死んだら、今の世界線が崩壊して、次の世界線がはじまる。すなわち今の人類の大量絶滅だ。今度は我々が亜人と呼ばれるようになる。」
「……わかった」
「いい判断だ。……運命は待ってくれない。いくぞお前ら。ミナト。今日はお前が春風につけ」
短くそういうと校長たちは行ってしまった。