剣③
皿があたり、怪人は笑う。若干の苛立ちを覚えつつ、振り返る。
「いいっすね。」
また、食器が飛んできた。魔力は感じない。腕をしならせて皿を叩き割る。
「時間稼ぎにもならないっすよ。大人しく投降するっす」
「来た」
厨房に入ってきた怪人に視線を向ける。痛む腕を押さえつつ、さくらこは以前先輩が使っていた魔法陣を思い出す。授業で習ったのは、魔法陣は消費魔力すくなく、杖がなくても発動する。自身の魔法の知識も魔力も少ないさくらこはココ最近、魔法陣について熱心に勉強していた。
「やってやる!」
仲間を助けるためにも。書き溜めた魔法陣はかばんの中にある。
「くらえ」
皿と皿の間に魔法陣の書いた紙をはさみ、投げる。
怪人が叩き割った瞬間眩い光があたりを照らす。
いまだ!身を隠していた調理場から、マツリたちの元へかけ出す。目をくらませているあいだに、助け出せば。
かけ出す足に痛みがはしる。
「みぃつけたっす」
足を貫く怪人の腕。
「ああ!!」
「この程度、無意味っすよ。」
彼女の体に目が何個も浮かび上がる。
「ほらっす」
「くっそぉ!!」
ほくそ笑む怪人。彼女へ伸びる魔の手。魔力を固めてうちだすも大した威力にはならず。
「なんで、わたしたちは、ただ、平和に魔法を学びたいだけなのに」
「ん?平和に?はははは!」
意外にも怪人は笑い出す。
「第一学園は魔法の軍事利用。第二学園は魔法の商業利用。第三学園は、魔法の平和利用っすか!笑わせるっす。武力にも財力にもどちらにも慣れなかった落ちこぼれが集まる学園じゃないっすか!」
「……みんなは落ちこぼれなんかじゃない」
「はぁ?落ちこぼれだから、今負けてんっすよ」
「負けてない!!お前は嘘つきだ」
「あー、そうっすね。わたしは嘘つきっす。春風さん。自分の状況がわかってないんすね。もういいっす。肉塊になればいいっす。嘘突き」
怪人は、鋭く尖らした腕を伸ばす。
「飛翔」
桜子の体が浮かぶ。ただ魔法陣を描いていたのは寝かした机。机に押される形でさくらこは前に飛ぶ。
肩を貫く痛みに顔をゆがめながらさくらこはさらに魔法玉を撃ちまくる。
「はああああ!!」
「やけくそっすか?」
八割がた明後日の方向に飛んでいき、かろうじて当たりそうだった数発も両断された。
「狙いも練度もひよっこ以下」
ばふん。
頭上からなにか落ちてきたが、腕の一振で粉砕。だが、それは大量の小麦粉だった。
ある程度の重みはあったが、白い粉が舞うだけだった。
「目くらましなんざ!さっきも言ったけど意味ないんすよ」
「旋風」
小麦粉が舞い上がり、白い霧のように視界を阻む。
さくらこは最後の1枚の魔法陣を発動させる。
「火弾」
「?」
爆音とともに怪人が燃え上がる。細かな粒子となった小麦粉に次々と火が燃え移り、爆発する。
「ぎゃあああ」
さらに、火が高く伸びる。さくらこがわざと外したように見せた魔法玉は、厨房にあるコンロのガスを封じた魔法陣を起動させた。
「ぐぎぎぎ、ぐらあ!!」
さらなる炎を受けのたうち回る。
「わたしの友達を痛めつけた分だ!!」
さくらこがいいはなった。