剣②
校内にアナウンスが響き渡る。
「全校生徒につげる。怪人が校内に侵入した。これは訓練ではない。これは訓練ではない。シェルターに近いものは避難を、物陰に隠れ防御魔法を張るように。落ち着いて行動せよ。教職員ならびに、戦闘許可を得ている生徒は、北棟中心に展開。迎撃を」
校内放送を効いたアンリの反応は早かった。杖を床に擦り、円を描く。
「…風結界」
「な、なんにゃ?風かにゃ」
渦巻く風が食堂にあった椅子を浮かび上がらせ、周囲を回り始める。
「食堂にはシェルターがない。ウチが、守る。マツリは攻撃を」
「なんだってんだよ。アルファ!ガンマ!力を貸してくれ!魔法種・力魔法」
召喚された二体の身体が強化される。かわいい体からゴリゴリの腕が生える。彼らは風の結界の中心にいるさくらこたちを守るように両手を広げた。
「「秘術 獣化加速」」
二人の獣人たちも、自身に魔法をかけて周囲を警戒する。全身の毛が増え爪や歯が伸び、野生味あふれる姿になる。
さくらこも杖を取り出し、あたりを見回すことにした。自分にはこの程度しか出来ないから、食堂の中を注意深く歩く。
「ひっ、」
さくらこに一人の少女の声が聞こえた。テーブルの下を見ると震えている子がいた。髪をまとめて一つにした気の弱そうな感じだった。
「あ、あなたもこっちへ。なんかまた、怪人が現れたみたいなの。わたし1年生の春風よ。」
「わ、わたし、怖くて怖くて、春風さんありがとう。わたし、2年のホウズキ」
「ホウズキ先輩こっちへ。私弱いからみんながいるところへ早く」
彼女の手を引き、みんなの元へ急ぐ
「ありがとう春風さん」
「おーい、まつりちゃん!こっちにも逃げ遅れた人が」
「ん?人?おかしい。サーチはした。生徒はいないはず」
「馬鹿!逃げろさくらこ!!」
「逃げろ?こういうときは、人質をとるのがセオリーっすけど。違うと思うんすよ。こちらの情報が割れてないうちにその場の強者を蹂躙するんすよ」
さくらこの友達の四人は何かをする前に壁に打ちつけられた。
「え……」
「その方が手っ取り早い。ま、嘘なんすけど。…ん、あれ?弱すぎないっすか?」
「みんな?!」
伸ばした腕を鞭のようにして侵入者は彼女たちをあっという間に薙ぎ払った。さらに腕を4つにして、突き刺すように伸ばす。
「春風さんの持っているそれ。こっちによこすっす。力の差は今見たとおりっす。抵抗しても無駄っすよ」
口調が替わり、そう爽やかに言った女は制服を着ている少女の姿をしていたが、両腕がゴムのように伸びていた。
「こ、これを渡したら、みんなに酷いことしない?」
「え?するっすよ?当たり前じゃないっすか」
「っ!」
彼女は笑顔でさくらこに告げた。
「魔法少女たちに体をかなり削られたっすからね。補充しておかないと。あとで怒られるかもしれないっすけど。背に腹はかえられぬっす。」
舌なめずりをする。
「いまや絶滅危惧種の獣人は新鮮な刺身に、あそこの魔力の高い子はよーく焼いてメインでッシュに、君はデザートに。ここは食堂みたいだから、丸呑みせずに調理ができるのがいいっすね」
「魔法種」
さくらこが杖を抜こうとしゃがんでカバンに手を伸ばすが思い切り踏みつけられる。
「宝箱みたいだから、君の骨で鍵でも作るのもいいかもっす」
「ああああああ!」
パキッという音とともに魔法を放とうとしたさくらこの腕は折られた。とっさにカバンで防御しようとするも長い腕はムチのようにしなり、カバンごとさくらこの体を地面に叩きつける。
「可愛らしい細い体っすね。温室育ち」
さくらこを蹴り飛ばす。彼女は宙を舞いキッチンに落ち、派手な音をたてた。
静かになった食堂。さくらこが持っていた宝箱を拾いあげる。
「ふーん。施錠魔法に硬化魔法。このくらいなら、いけそうっすね。」
バキッという音とともに、宝箱をこじ開ける。
「これは?」
「かはっ。はぁ、はぁ、」
さくらこは目を覚ました。お腹が痛い。まわりにはさくらこがあたったことによって散らばった調理器具が散乱しており、自分のバッグも落ちていた。頼りの杖は見当たらず、痛みにうずくまっていた。
痛い、痛い、痛い。
痛みと辛さに涙が滲みでる。
バキッバキッバキッという音が、聞こえてくる。
恐る恐る顔をあげると、そこには、椅子に座らされた4人の姿があり、彼女たちの目の前には、折られた杖があった。
「さて、可愛いお人形さんたちに聞きたいんだけど、読めるっすか?」
彼女の手には、日記帳が収まっていた。
「魔道具でも魔導書でもないっす。見たこともない言語っす。統一言語以外の言語も大抵覚えてるんすけど、まったく当てはまらないっす。」
「はぁ、はぁ、はぁ、知るか。」
彼女の頭上に巨大なハンマーが現れ、マツリの頭上から振り下ろされた。
「がっ」
「にゃにしてんだ!」
「猫ちゃんたちにもしつけが必要か、な?ねぇ!」
手をニャルガたちに伸ばすも頭に何かがぶつかり、その手が止まる。
足元に落ちるのは鍋。
「ふーん。」
再び獣人の娘に向かおうとするも、がんっと頭に今度はフライパンが当たる。
「はぁ、はぁ、はぁ、」
「痛くは無いっすけど、うっとおしいっすねぇ!」
さくらこはさらに皿を投げつけた。