参戦
「おやそこにいるのは、色なしたちじゃないか」
子分たちに宝箱をたくさん持たせたワロスがやってきたのだ。髪をいじりながら、自分は荷物を持たずに、グランドを闊歩してやってきた。アンリは無表情だが、まつりは嫌な顔をした。さくらこは魔法をとっさに消した。なんて間の悪い。
「おや?宝箱が開いてるね。どうやったんだ。」
「よぉ、ワロスの坊ちゃんじゃねーか。うちらの担任をバカにしやがって。教えるかよ。開かない宝箱なんてまさに宝の持ち腐れだね」
「お前たちは5個だけかよ。」
「はっ!数があってもな。価値の高いもんをあたしらは狙ってんだよ」
まつりが噛み付くようにいうと、後ろの2人も眉間にシワを寄せ、まつりを睨みつけた。
「いいねーボンボンは」
「僻むなよ。貧乏人が」
目から火花を散らしている。
「ちょ、ちょっとふたりとも」
さくらこは2人をなだめようとするが、聞く耳を持たない。そんな2人にアンリは水をかぶせる。
「「なにすんだよ」」
「あれ」
アンリの指先には、荒い鼻息の会長がいた。手をわきわきと動かし、こちらをロックオンしたようだ。
「みぃ~つけたぁ!!」
「!!」
全員が一目散に走り出す。
「あれは生徒会長かっ!ばか!お前らおとりになれよ」
「だれが!マツリちゃん!アルファちゃんは?」
「だめだ。さっき全力で逃げてたからな。少し休ませねーと」
元気のないアルファがまつりの肩のあたりで萎びていた。全員がその場を離れようとかけ出す。
その時、ワロスの子分の1人が逃げ遅れた。たくさんの宝箱を抱えていて、足元が見えず、躓いてしまったのだ。
「坊ちゃんすみません!逃げてください」
当然会長は彼に狙いを定める。がに股で飛びかからんとする会長は普段の冷静沈着なうつくしい姿とかけ離れていた。やべーよ、あの人。ほんとに人間か?
「あぶない!魔法種・疾風」
さくらこはとっさに最近ならった魔法を放つ。子分の体が少し浮き、飛ばされる。間一髪、会長の魔の手から逃れる。四足で着地した会長は諦めずカサカサと彼に近寄っていく。
「お前、」
ワロスは何かさくらこにいいかけるが、飲み込み、一瞬遅れて杖をぬく。
「ち、何してんだよ。魔法種・海蛇鞭。ぬぅぅりゃあああ、んで、魔法種・炎尾」
杖から水のムチが現れて、子分を巻き上げ、会長から引き離し、鞭を戻す瞬間に魔法を唱え、炎のムチに切り替え、会長を牽制する。早業だった。会長は少し驚き、ムチの嵐を冷静に捌いていった。
「おら、おら、おらぁ!くそっなんて動体視力だよ」
「ほぅ。なかなかやるな1年生。君にわたしが倒せるかい?そんなに足が震えているのに」
会長は先程の奇行を感じさせない美しい佇まいで立ち上がり裾についた泥をはらった。
「逃げればよかっただろう。これはレクリエーションだ死ぬ訳では無いぞ」
いや、殺されそうないきおいだったよとその場の全員が思った。そんな中ワロスは顎で指図し、手下を逃がす。
「う、上に立つものとしてどんな時でも部下を見捨てるわけにはいかないだろ。そうだろ?生徒会長!魔法種・炎水煙幕!」
杖の先の炎のムチを渦状になるように振り回し、水の魔法と混ぜ合わせる。大量の水蒸気によってうまれた白い煙でグランドは見えなくなった。
「……まったく耳がいたいよ。とくに君に言われたとなるとね」
会長は手刀を一閃、霧を払う。そこには、6人の姿はなく、大量の宝箱が散らばっていた。
「ふむ。開始してから15分ほどか。残りは20組。ウグイ。次のアナウンスを頼む。さてと、私は」
大量に宝箱の上に腰掛け、伸びをする。
「体もあったまってきたし、本気で捕まえに行くか。」
急いで、校舎に逃げ込み、胸を撫で下ろす。
「あいつ、意外にやるんだね」
「腐ってもワロス家の人間ってことだろうぜ。なんとか逃げきれたな。あいつらよりか高いもんみつけようぜ!!さくらこちゃっちゃと調べるぞ」
「探求針!100ブロッサムの宝箱」
さくらこは杖を振るう。光の矢が現れその場でクルクル回る。おそらく全ての宝箱に反応してるのだろう。
「1000ブロッサムの宝箱」
クルクル回る速度が落ちてきた。
「5000ブロッサムの宝箱」
今度は何ヶ所を順番に指し示す。
「……なぁ、所持ポイントみんなだいたいいくらある?1500」
「……わたし、700」
「3200」
ぬぅ、わたしが1番すくない。
「せっかくだし、あたしたちがもらえるいちばん高いお宝狙おうぜ」
「わたし、1番ポイント少なくて」
「気にしない。ウチらはチーム」
「そういうこった。こういうのは、どうだ?あたしらにとって1番価値の高い宝箱」
すると光の矢はピタリと一点を指した。
北棟の上の方おそらく食堂だ。
「よっしゃ!さっさとかっぱらおうぜ」
ピンポンパンポーン
「お知らせします。現在残り15チームになっております。生徒会の皆さま。魔法葉までの魔法がこれより使用可能になります」
校舎上空から飛来した【鳥の巣】付近の世界樹の幹にささった。円錐形のそれはドリルのように回転し、幹に食い込む。
それの一部が開き、人影が中から現れる。
「世界樹に侵入成功っす。追突の衝撃で銅級が死んだっす。創造主よ。指示を。」
「お前が喰い殺したんだろ。嘘をつくな。こっちはモニタリングしてんだよ」
「小腹が空きまして」
悪びれずそう言った。
「なにやら宝探しをしてるようでな。その宝の中に、異世界の魔女の反応がある。横取りしてこい」
「学生の景品にそんなものを混ぜるっすか?魔女の遺物はどれも希少性が高いものでしょうに」
「あの女の考えることなんざわからねーよ。かっさらってきてくれ。お前の能力ならたやすいだろう」
「了解っす」
黒い人影の体がメキメキと音をたてて変わっていく。
「ふぅ!完成っす」
浅黒い肌の女の子がそこにたっていた。
「出発っす」
「ばか、待て。服を着ろ!服を」
「えー」
「潜入する前に捕まっちまうだろ」
「人間はめんどーっすねぇ。服なんてうっとおしい。」
「潜入員が用意したんだ。着ろ」
「はぁ、そいつがやればいいのに。」
「バレたら、今後情報が入らなくなる。早くしろ」
ふーん。じゃあ、そいつ見つけて成り代わってもいいよね。自分は金級だし。そいつより役に立てるだろうし。
「くれぐれも騒ぎを起こすなよ、今回は回収後素早く離脱しろ」
「はーいっす!」
自分は嘘つき。『嘘突』制服に身を包み、クルクル回る。嘘を身につけ、敵を突く。
「守衛さん!こんにちはっす!寝坊してしまったっす」
にっこり笑いながら、近づく。守衛はとっくに登校時間が過ぎていたので、1人しかいなかった。
「杖は?」
「はいっす」
杖を取り出す。杖を調べようとする守衛の喉に杖を1突き。
「がはっ?!」
さらに顔と言う顔に杖を突き刺す。苦悶の表情を浮かべる守衛をさらに突く。
「キツ突き!」
滅多刺しにされ、膝から崩れ落ちる守衛の脇を通り過ぎると、彼の姿はどこにもなくなっていた。
「あんまり、おいしくないっすね。」
彼女はくちをもぐもぐと動かしている。
「嘘八百」
彼女の影から先程の守衛が出てきた。彼女の魔法だ。
「しばらくしたら、戻るから。よろしくっす」
悪意が学園に入り込む