怒涛の授業ラッシュ
学校が再開されてから、1週間が経ったさくらこたちは、様々な授業を受けて過ごしていた。
「魔法体術は全身に魔力を流すことで身体能力をあげるだに。ただ、基礎体力あげないと、からだがもたなくて引きちぎれるから注意だに。まずは足から始めると良いだに」
「魔法薬では、魔力のこもった世界樹の葉を加えることでさらに効果の向上をうながすことができる。特に回復をさせる作用は抜群である。忘れないように。」
「で、あるからして、魔女と勇者の長きにわたる戦いは終わったのです。前回の魔女大戦以降は、強大な一の力ではなく、たくさんの仲間で魔女に対抗するようになりまして、勇者の力はいつのまにか失われたのです。」
「魔法種がだいぶ上達してきたな。なら、次の段階だ。杖に命令式を入れることで更なる魔法を使えるように」
「魔法化学では、通常の化学に加え、魔力のコントロールが極めて重要で、その絶妙なバランスによって奇跡ともいえる魔法薬ができるのだ」
「ぐへぇ」
さくらこは疲れ果てていた。先生達は授業の遅れを取り戻すべく、ハイスピードで授業を進めていた。
多くの1年生は力尽きていた。まわりを見渡すと多くの生徒の屍があった。ほぼみんな机に突っ伏している。
「あたま、パンクしちまうぜ…さんきゅ、アルファ」
アルファが、団扇でマツリを扇いでいる。
「なんで、そんなに疲れている。授業楽しい」
「タフだね。アンリちゃん」
そんな中、アンリは目をキラキラさせて授業をうけていた。
「わたしの故郷、魔法禁止だった。だから勉強できて楽しい」
「禁止?このご時世にか?つうことは禁魔区出身か。ご愁傷さまだぜ。そんなに魔力あんのに、タブー視されてたんなら、大変だったろ」
「禁魔区?」
「魔法を嫌う連中が集まって町を作ってんだ。ロクな連中じゃねーよ」
「む」
「いや、お前を悪くいうつもりはなくてよ。」
マツリは口を滑らせたことを後悔した。アンリは怒っていた。
「悪かったって」
「それでも、ウチの故郷」
「あぁ、悪かったよ、すまない。あたしは故郷にゃあんまりいい思い出がないんだ。」
「?」
「んあ、あー。あたしのとこじゃ。召喚術は赤子でもできたんだよ。あたしは、数年前にようやっとさ。惨めだったぜ。それまでは。親の目も冷たいのなんのって。んでも、ようやく召喚できたかわいいこいつらは不完全な召喚獣っていわれてよ。頭きて出てきたわ」
みんな色々あるんだな。わたしは、苦労せず暮らしてきた。魔法はからっきしだったけど。わたしは。
急に現実に引き戻される。教室の空気が一変したからだ。
「みな、いつまで喋っている。わたしは魔法陣学担当。レオナルド・ハーツ。はじめに言っておく才能なきものの相手をする時間は我にはない。」
はじめの一言から高圧的な先生だった。鋭い目つきにたじろぐ。今までの先生たちが優しく思えるほど。首もとには、頭蓋骨を繋げたネックレスをつけて、くぼんだ目は鈍い光を放っている。くすんだ金髪をかきあげて、杖を振るう。
「魔法陣学はなぜ、重要だと?オリバ」
「は、え?!」
「高度な魔法ほど詠唱や術式、杖の振り方が複雑になるからだ。高位の魔法使いほど魔法陣を使いこなす。ピーター。魔法陣は、なぜ魔力のこもった特別なペンを使用しないといけないか」
「じゃないと、魔法が発動しないから、ですか?」
「違う。ガンアユスン三大法則による。魔法原則に反して、魔法がただしく発動せず、術者に危険がともなうからだ。」
彼の授業が終わるころには、全員がノックダウンしていた。
「なんだよ、アイツ。めっちゃ難しい」
「かなり、ハイレベル。」
さすがのアンリも疲れたようだった。わたしはというと、完全に分からなかった。なに?カルメソムの定理って、ガンアユスン3大法則って。一応教科書には書いてあったみたいだけど。読んでないって。
「はぁ」
この先やっていけるか凄く不安だ。
放課後のこと。休校期間もあわせたこの2週間、廊下や教室で、警備員が他の魔法がないか探していた。見つかったそれらの品々が校長室に並べていた。
校長室には教職員が集まっていた。机の上には、様々なガラクタ、モニターには、魔法陣がはられていた。
「大小様々呪いや魔法すごい数だな。多くは学生たちのイタズラだが。3つほど危険な魔法陣がある。どれも外部からアクセス可能になってる。こりゃ、スパイの説は濃厚だが、実力はさほど高くないのか?」
ベアーズは集めらられた魔法の痕跡をつつきながら言った。
「捨て駒にされていた低能力者と言ったところだろう。捕まっても痛手にならん」
「まぁ、これでほぼ見つけ出したと言っていいかもしれーな。安心して宝探しを始められる。子供らの準備はどうだ?教頭」
「順調に進んでいます。すこし、詰め込み過ぎですが、身体強化、回復魔法、結界術などを優先して教えています。あと1週間もすれば、ほぼ全員が習得します。珍しいですね。校長先生。このようなイベントを企画なされて、景品も自腹らしいじゃないですか。」
「魔法が絡むととんでもないことが起こることもあるからな。生徒の自衛力はあげておいて損はないだろ。死なれたりしたら困るからな。景品についてはお前たちから集めても良かったんだがな。まぁ、楽しい学校生活を提供してやるのも大人の務めさ。あたしが負担する。公平になるように。贔屓するやつがいてもつまらないしな」
ちらりと教頭を見る。彼は有力者の子供たちに宝のありかを教えようとしていたので見破られて笑うしかなかった。
「ははは、はは」
「今回はそういった取引はなしだ。学生たちはエンジョイ。我々は信用回復といきたいものだね。宝探しついでにほかの罠を見つけてくれたら御の字だぜ。後々のことを考えてもな。新入生たちの実力を見ておきたい」
校長は高く積まれた書類に判を押す。
「宝探しは週明けに行う!楽しめ若人!」