反逆の小熊
「ミナト先輩無事で良かった」
「それはこっちのセリフだぜ。3日も目を覚まさないから」
「3日も?!」
「ったく」
「さくらこ殿目が覚めたようだな」
よじよじとタコニチュアがベッドの上によじ登ってきた。
「タコさん!」
「大事なことを聞きたいのだが、気を失う前のことはどこまで覚えている。」
「気を失う前のこと?」
さくらこは思い返す。
「魔法、私、何か魔法を唱えて、それで」
「その魔法は覚えているか?」
「ユウ、え、と、あれ?なんだっけ」
タコニチュアは頷く。
「さくらこ殿。君の放った魔法は、大変危険な魔法だ。だから、報告ではミナト殿が放ったことになっている。だから、このことは秘密にして欲しい。君を守るためだ。あと、自分のことも君の召喚獣ということにしてくれ」
「は、はぁ」
状況はよく分からない。だが、ふたりの真剣な顔に頷くしかなかった。
「強力な魔法は扱いが制限されるし、研究室にぶち込まれる可能性もある。この学校にも通えなくなる。現にうちの副会長は、魔法が強くてあちらこちらに引っ張りだこでろくに学校に通えてない。わたしは、魔法少女としての職務があるから多少の融通は効くんだよ。今までのこともあるし、魔石を大量に使ったから、すげぇ魔法が出たってことになってる。さくらこは」
ドアの外で、ドタドタと走る音がして、扉が勢いよく開く。
「「さくらこ!!」」
アンリとマツリが病室に飛び込んできた。
「腹へり過ぎて、魚の怪人食べまくって意識が戻らないって聞いたときには、心臓が潰れちまうかと思ったぜ」
「ほんと、焦る」
ま、こういうことだなと、肩を竦めた。いや、あんたらはそれが嘘だと気づかないんかい。タコニチュアは慌ててカバンの中に潜り込んだ。
「ふたりとも、私がそんな間抜けだと」
「今度から学食でおかず分けてやるからな」
「ウチも。少しわける。」
彼女たちは信じきってるようだった。
「おいおいお前ら、寮生は待機って言われてるだろ」
呆れた顔でミナトは言った。
「うぉ!ミイラが喋った!」「ひっ!」
「あ、ふたりともこちらは、ミナト先輩だよ。包帯でぐるぐる巻きだけど」
「よ、久しぶりだな、お前ら」
挨拶を交わす。寮も外出禁止になっているようだ。
「大丈夫。身代わり置いてきた。」
「バレたらこえーぞ。あの寮長」
何やかんや話をしていると、思い出したかのようにマツリが話し始めた。
「なぁ、さくらこ。さっき寮で聞いたんだけど、こんど組対抗で宝探しがあるってよ。いってみようぜ」
「宝探し?」
「そう!入学早々1週間休みになって、学生に迷惑かけたとかで。商品も豪華。レポート免除。学食タダ券。人気スポット招待券。ポイント。いっぱいある!」
鼻息荒くアンリは息巻く。
「3人1組のチーム戦みたいでな。アンリと話したんだが、さくらこと出よーぜって」
「われら、反逆の小熊」
シャキーンとポーズを決めるアンリ。ちいさな身長も相まって、ほんとにちびっ子みたいだった。
「反逆の小熊?」
「チーム名さ。ほら、あたしら、クマ先に魔法ぶち当てようとしただろ?んで、学校で変なあだ名が着いちまったんだよ。それをアンリが気に入ってしまってな」
「反逆、かっこいい!」
ああ目をキラキラさせちゃって。かわいい。
「あたしは血染めの決死隊とかが良かったんだが」
「物騒だよ。え、でも、あたしは何も取り柄なんかないよ。マツリちゃんみたいに召喚術使えるわけでも、アンリちゃんみたいに、すごい魔法知ってるわけでもないし」
「何を水くせぇ!あたしらは友達だろ?楽しく行事した方がいいじゃねーか!」
「学食タダ券!学食タダ券!、あ、そうだね」
ヨダレを垂らしているアンリは我に帰って言った。
さくらこは、胸を踊らせた。
「わ、私頑張るから」
「うん!」「おうよ!」
ミナトは、そんな様子を見て、人肌脱ぐことにした。
「ははは!よーし、じゃあ、先輩から、とっておきの魔法を教えてやるよ。」
「とっておきの魔法?」
「おうよ!さくらこ杖を出しな。んで、あたしの杖をとってくれるか?そう、握らせてくれ。ありがとう。よっと、旧探求針」
ミナトが杖を振るうと、光の矢が浮かび、その場で、回転し始めた。
「?その魔法なら魔法種にもある。探針。旧魔法は狂ってしまうことも多いって。捜し物するならこちらがいい」
アンリがそう呟くと、にやりとミナト先輩は笑う。
「そうだな。分かっているものを捜すなら、な。だが、こいつが狂っちまうのは、使い分けが出来てないからだ。先生方は生徒が探針の魔法くらい使うってのは想定済みだ。なら、当然対策もしてるはず。じゃねーと、宝探しの意味がないからな。」
彼女の杖が空中でクルクル回る。そのうち、ピタリと針の向きが変わる。
「だが、こいつは、旧魔法。そもそもあまり知られてない魔法だし、信用性も低いとされてる。だがな、対策もされてないだろ。特徴さえ捉えていたら、汎用性は高い便利な魔法だ。例えば」
「この場で召喚術に長けた者」
「うぉ!なんだ!」
光の矢が、マツリを指し示す。
「ま、こんな風に質問次第で相手のステータスがわかる。相手とのレベル差次第だが。学生相手なら、十分だろ。あとは。この学園内で私たちが食べられて美味いものがある場所!」
その場でクルクル指針が回り始める。テーブルの果物を指し、また上の方と交互に指し示す。
「あれ?壊れちゃった?」
「これは壊れてる訳じゃなくて、食堂と交互に指し示してる。だから、杖に言う時は、具体的に言うといい。ただ単に、食べ物がある場所って言ってしまうと、ありとあらゆる食べ物のある場所を指しちまう。だから指令を明確にすればいい。精度がましてくる。使い方は分かっただろう?」
「おぉ!」
「探針は頭に浮かんだものを探してくれる。だが、宝がどんな形をしてるか分からない以上あまり意味がないからな。」
さくらこの杖に自分の杖を押し当てる。さくらこの杖の魔石に色がつく。青い輝きが足された。
「ま、宝探し頑張れよ。あたしは多分生徒会だから、運営側だろうしな」
「ありがとうございます!」
「さ、お前らはさっさと帰ったほうがいいぜ。さくらこも目が覚めたんだ。検査がある。」
その後、静かになった保健室で、ミナトは魔法を唱える。
映し出されたのは、自らのカルテ。
「ちぃと無茶しすぎたかな。」
魔心臓へのダメージ大。医者からも今後は大魔法の使用は控えるように言われた。
「どうすっかな。」
彼女は病室の天井を見上げた。