学園会議
今回の怪人の襲撃を受けて、会議が開かれることになり、学校は1週間の休校になった。生徒たちは寮や自宅で待機、自習となった。
第3魔法学校通称【鳥の巣】の上空にある会議室。校長並びに教職員と、生徒会のメンバーが集まっていた。ここは普段は校長の執務室兼魔道具保管庫として使われている秘密の場所であり、一般生徒たちには、疑似太陽として、空に浮かんでいるものと思われている。入るためには校長の許可が必要で、防音や盗聴にたいする防護魔法がかけられている。
「さて、以上が、事件報告だが、異論はないかね。まったく、やつらは面倒なことをしてくれたもんだよ。で、今回の1番の功労者はいないのか」
空中に浮かぶ椅子に足を組み座っている初老の男が言った。シルクハットを被り、スーツを着ていた。
「すみません。主幹先生。ミナト書記は深手を負ったため、休ませています。」
「詳しく話しを聞きたいのだが。」
手を出し、校長が遮った。
「かまわねぇよ。不甲斐ない我々に代わって生徒会のメンバーはよくやってくれたみたいだからな。報告書は事件後すぐに上がってんだ。問題ねーよ」
「ですが、校長。魔法石を大量に消費し、地下施設に多大な損害を与えた生徒をそのままにするには、あまりにも」
教頭が進言した。魔法実習室に配置していた魔石の30パーセントが失われ、その他の設備もかなりのダメージを受けてしまった。復旧にはそれなりの金と時間が必要だ。
「たしかにあまりにもだな。」
「お言葉ですが、校長。ミナト書記は命をかけて」
「くくっ、そう身構えるな。葵山生徒会長。たしかに何もなしってわけにはいかねーな。件の書記ちゃんには10万ポイントのボーナスをやろう」
「は?本気ですか!!校長!」
「本気も本気、大真面目さ。彼女が居なければ、生徒たちに犠牲者が出た可能性も、連中に貴重な魔石や魔道具が奪われていた可能性だってあったんだ。妥当だよ。教頭、今回の侵入についてのスケープゴートに生徒を使おうとするなよ」
鋭く目を光らせる。
「なっ、わ、わたしはただ」
「スポンサーや親達の反発がすごいのだろうが、誰かを切り捨てるやり方は知らない間に、自らの頭を切り落とすことにつながっちまう」
「ぐぅ」
教頭は面食らっていた。
「それよりも、万全な体制だとアピールするにこしたことねーよ。」
「は、はぁ?!正気ですか!」
「あぁ。十分な警備体制。元気な子供たち。それですこし安心するだろうよ。生徒会には忙しくさせちまうがよろしく頼むよ。」
「はいっ」
「ベアーズ。」
校長が目配せをした。
「さて、君たちは下がりなさい。ここからは我々の話だ」
「わかりました。失礼しました。」
口をパクパクさせていた教頭を尻目に生徒会のメンバーたちは会議室を後にした。
「校長!」
「かははは。すまなかった。いつも悪役をさせちまってすまねーな。今回は全てが異例だ。街中にしか現れなかった世界樹の、さらに結界の中の学園の怪人の出現。何重にも巡らされた高度な召喚魔法技術。今までのまぬけな怪人像とは明らかに違う。生徒たちと敵対すべきタイミングじゃないぞ」
よいかなと、1人の男が手を上げる。首もとには、たくさんの生き物の頭蓋骨を繋げたネックレスをつけた男。くぼんだ目は鈍い光を放っている。くすんだ金髪は逆立ち、獅子のようなその男は、獅子組担任のレオナルド・ハーツだった。
「しかし、いくら生徒を守るためとはいえ、高価な魔石を使用するなど言語同断。色なし、失礼、低魔力層の子どもでしょうに」
「なにが言いたい。レオナルド。おれの大事な生徒だ」
「おぉわるいな。ベアーズ。生徒が生徒なら、教師も教師だな」
「なんだと」
「やめなさい。2人とも。みっともない」
主幹先生が2人を止める。
「今回怪人にとどめを刺したミナト書記は、低魔力の生徒だったが、ここまでの力を出せたんだ。魔石の有用性をアピールできる。ものは使いようさ。」
校長は、淡々と言い放った。
「次は……この行事についてだな」
さくらこが目を覚ましたのは学校が休みになって3日目の朝だった。
「いたたたた」
身体中がカチコチになっていて、動きづらい。
「ここは?」
「保健室さ」
となりのベッドから声が聞こえる。
「ひっ、ミイラ」
全身を包帯で巻かれた塊が置いてあり、辛うじて口だけが見えていた。
「あたしだよあたし」
「ミナト先輩!」
「ありがとよ。さくらこ。お前のおかげで命拾いしたぜ」