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Re:start Ⅰ

彼女が守っているのは魔法実習室への廊下の5メートルほどの空間。足元は大量の怪人の体液でびちゃびちゃになっていた。すでに何百と打ち付けた拳に感覚はなく、ジリジリと追い込められていた。

「はぁ、はぁ、はぁ、」

「さけさけさけさけさー!!」

何匹かが飛び出してきた

「ったくよぉ!!」

先頭の1匹を片手で掴み壁に叩きつけ、着地と同時に体を捻り、もう1匹に回し蹴りを食らわす。最後の1匹は拳に魔力をため、殴り落とす。爆散させることも可能ではあるが、また増殖してしまうことを考えると気絶させる方がまだマシであろう。

旧結界(ホールドシールド)

なんとか押し返すが、またジリジリと距離を詰めてきてやがる。ぴきぴきと魔力の壁が音を立てる。

「くそっ」

諦めて放棄するか?命には変えられない。だが、その時、背後から物音がし、慌てて杖を向ける。まずった。背後を。

「ひっ」

「おま、さくらこ1年生なんでここに」

そこにいたのは静かに震えるさくらこだった。

「わ、わたし、魔法が下手くそで、練習しようと思って、ここに来てみたら、魚の化け物がいっぱいで。隠れてたら先輩の声が聞こえて、それで」

さくらこの不安気な表情を見て、舌打ちをする。この舌打ちはさくらこに対してではない。己へのものだ。魔法少女になった日の誓いを。思い出した。

「だあああしゃあねぇなぁ。引けなくなっちまったじゃねぇか。安心しろさくらこ1年生。てめぇを必ず守ってやらあ!!」

両頬を思いっきり叩いて目を覚ます。口に出すのは、あの日の誓いの言葉。


「『もう一度!誰もが魔法で笑いあえる、そんな世界に』!!」


彼女は魔力振り絞る。そんな彼女をさくらこは見ていた。ボロボロになりながらも、自分のために動いてくれたミナト先輩の姿を。全身の震えが治まり、先輩の指示にしたがう。


「さくらこぉ!実習室の床掘り起こして、魔石をたくさん持ってこい!!早く!!」

「は、はい!!」

さくらこは戸惑いながらも実習室に入り、床を掘り返す。あまり、猶予はないが、魔力を回復できれば。

「行くぞ!!魚ども!!」

手のひらを合わせる。

「ぶち壊せ!旧魔青拳!」

青い気が、手を覆う。いまの魔力で出来る気休めの魔法。ミナトが初めに覚えた。魔法が苦手な自分が習得した思い出の魔法。

「葵会長……、劣等生と呼ばれたあたしを生徒会に入れてくれてありがとうございました。ルイズお前と切磋琢磨できて良かったよ。処すのはほどほどにな」

念波を飛ばす。怪人に阻まれてるが、会長たちならきっと倒しきるだろう。そしたら、届くはずだ。

「さーけ?さけさけ!」

向こうもこちらに余力がないことを見抜いたようだ。一斉に襲いかかる。

「おらああああああ!!!」


「魔石!魔石!」

さくらこは実習室の床を掘り返し、魔石を探していた。だが、魔石はなかなか見つからない。焦りばかりが募っていく。

「……さくらこ殿、このままだと、あの娘は魔心臓が壊れて、二度と魔法が使えなくなる」

「だめ。そんなことはさせない!早く魔石を」

「……君も戦うんだ」

「え、でも、私魔法なんてろくに」

「君は闘えるのに」


「はぁ、はぁ、はぁ、」

「先輩!こ、れ、」

「おぉ、ありがとう、な」

「先、ぱい、」

魔法少女マジカルブルーは、ボロボロだった。片腕はだらりと下がり、壁によりかかり体を支えている。呆然とするさくらこから魔石をとり、魔法を発動しようとする。

「旧魔蒼け……」

「いや。だめだ。だめぇ!」

このままだと先輩が居なくなってしまう気がしたのだ。魔石を先輩から取り返し、さくらこは杖をぬく。

「おい、ふざけてる場合じゃ」

「私がやるんだ。先輩が私をたすけてくれたみたいに魔法種(シード)

杖先に魔力が集まる。その魔法を鮭の怪人にぶつける。

「やああああ!」

「無駄だ。魔法種はあくまで魔法を使う前段階の技術だ。ろくに魔法を覚えてないお前じゃ、」

「さーけさけさけ」

攻撃は当たったが、意味はなさず。怪人たちは高笑いするのだった。

「そんな」

「大人しくそれを渡せ」

「嫌です。」

「震えてるじゃねーか」

「先輩だってボロボロです。」

「さくらこ!」

「私だって、私だって!魔法種が、魔法を使う前段階ってんなら、アンリちゃんの魔法で」

微かに風が杖から流れ出る。胸があつい。やってやる!先輩を助けるんだ。絶対に!!気持ちに呼応するように杖が脈打つ。

「ガルダ…「違う!勇風刻(ウィンザリオ)だ!」は?え、と。ウィン、ザリオ!!!」

とっさに傍らにいたぬいぐるみが叫び。つられてさくらこも叫んでしまった。焼けるように熱くなった杖を思いっきり鮭の方に振るう。


キィィィア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!


突如として、轟音と突風が吹き荒れて、鮭の怪人たちを薙ぎ払っていく。さくらこは握った魔石が一気に砕けるのを感じる。目も開けられないような突風が過ぎ去り、マジカルブルーたるミナトはようやく目をひらく。

「うそ、だろ、」

バラバラになった怪人と、めちゃくちゃになった廊下があった。壁すらも風に切り刻まれ、鮭の圧迫とはまた違う傷跡を残していた。

「お前、いったい」

倒れたさくらこを見つめる。息はある。魔力を消費し過ぎたのだろう。眠っているようだった。怪人たちは復活する様子もない。足をつつかれる

「おい、魔女の娘」

「誰がかわいいキュートな魔女っ子だ。」

「そこまで言ってない。このことは、秘密にするんだ」

「何でだよ。ポイントどころの話じゃない、こんなすげぇ魔法持ってんなら、学園生活で苦労するどころか優雅な生活だって」

「魔石を大量に消費した魔法だ。この娘の今の実力じゃない。それに、この技は今の世にあまり知られて欲しくない。この少女の運命がゆがむ。頼む」

「………わかったよ。いや、よく分からねーが。知られたくないんだな。アンタは命の恩人だ。義理は通す。」

「恩にきる。」

「ふぃ…とりあえずなんとかなったのか…」

マジカルブルーも、その場に仰向けで倒れる。マジカルワサビやマジカルブラッドも、そのうち来るだろう。猛烈に眠たい。




研究室(ラボ)では、教授(プロフェッサー)が高笑いしていた。

「はーはははは!!いひひひひ!!」

「アンタはなにしてくれたんだ。物凄い額の請求書が来てんぞ!!」

「あーひゃひゃひゃ!」

「気でも触れたか。貴重な魔王石を銅級の怪人にぶち込むなんて」

「あはははは!!いやーいいデータがとれたよ。助手君!!」

「んな。たしかに魔法少女を追い込んだかもしれないですけど、さすがにこの暴挙は」

「困るかい?」

「当たり前です!!」

憤慨した助手は部屋を出ていった。それでも教授の笑いは止まらない。ひとしきり笑った後、教授は呟く。

「くくっ。魔王石なんて、目じゃねーよ、ようやく現れたか、ははははは!」

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