学園侵攻
夕方の学園に響き渡る警報。生徒たちがパニックになる中、その流れの逆を行く者がいた。
「皆っ!落ち着いて避難を。状況は」
生徒会長は尋ねる。
「体育館内にて怪人が召喚。術者不明。卵から増殖するタイプのようです。現在教職員たちが応戦中。ですが増殖は押さえられていません。生徒たちは屋上に避難してます。通報はしてますが」
「学園内に怪人など、聞いたことないな。被害者は」
「負傷者多数。地下はすでに敵の卵でいっぱいです。あれらが一斉に孵化したら」
「……。お前たちは避難しろ。」
「ですが」
「わたしを信じろ、この学校の生徒会長だ。なんとかする」
「は、はい!」
別れた生徒を見届け静かになった廊下で杖を振るう。
彼女の服が変化し、姿を変える。
「……魔法少女マジカルワサビ、見参」
彼女は巫女の服を身に纏う。柔らかな桜色のそれは彼女の黒髪と相まって神聖な面持ちをしていた。静かに杖を振るうと、それは刀にかわった。刀には魔石が埋め込まれていた。そのうちのひとつが輝く。
「……魔法種・強魔人体・魔法葉韋駄天」
彼女の呟きのあと、彼女の姿は消え、足元の床が大きく崩れていた。
廊下は延々と彼女の足跡が強くめり込まれており、数秒後には現場に到着していた。
廊下を埋め尽くさんとした鮭の怪人が床から天井までビッシリと埋め尽くされていた。
「「「「「さけさけさけさけ!!!」」」」」
「……これは見るに耐えんな」
「ねぇねぇ、マジカルワサビ!処していい?処していい?」
頭に念話が届く。
「マジカルブラッドか。構わん。やれ。同士討ちだけは気をつけろよ。今どこにいる。」
「南棟の1階だよぉ。」
「……もうそこまで。一匹残らず殲滅しろ。魔石を埋め込まれた本体がいるはずだ。……マジカルブルーいまどこにいる。」
「あいよ。北棟1階だ。殴っても殴ってもキリがねぇ。」
「今から、ブラッドが、動く。南棟1階だ。巻き込まれるなよ」
「はいよ。ワサビさんは?」
「この東棟から、下へ向かう。1年生がいる西棟も心配だが、この状態だとたどり着くあいだにも増えてしまうだろう。先生方は1年生側に向かうはずだ。」
「了解。生臭くていやになるぜ。しばらくは鮭は食いたくねーな」
「同感だ。北棟には魔法実習室がある。魔石を大量に奪われたら厄介だ。それだけは死守してくれ」
マジカルワサビは構える。ピチピチと鮭が跳ねまくる。
「古来より受け継いだ魔法剣術、千華流を披露しよう。魔法種」
浮いた魔法玉を斬りつける。
「蒲公英」
魔法玉が刃に変わり、斬撃を飛ばせ鮭の怪人を大きく切り裂く。返す刀を地面に擦り上げる。刀が、火花を散らし、散った火花が、魔法陣となる。
「魔法葉・彼岸花!」
足元に紅い刃の華が咲き乱れ怪人を斬る。かなりの数を切り伏せたが、あとからあとから湧き出てくる。マジカルワサビは、深く腰を下ろし、地面から魔力を拾い上げる。
「……魔を払いて敵を討ち滅ぼさん……聖なる大樹よ、力を貸したまえ……」
彼女は詠唱を静かに続ける。うごきのなくなった彼女に一斉に鮭が飛びかかる。
「「しゃけしゃけしゃけしゃー!!!」」
「魔法華・」
魔法陣がいくつも浮かび上がり、彼女の周りに魔法が込められた花が咲き誇る。
「桜ぁ吹雪ぃ!!!」
突風が吹き、怪人たちは粉微塵まで切り刻まれる。再生することなく、道を開ける。
「……」
彼女は祈りをささげ、場を清める。
「結界術仙人掌」
廊下全体に結界を張り侵攻を防ぐ。
南棟1階。2年生の校舎でマジカルブラッドは跳ね回っていた。彼女も制服ではなく、鮮血のようなあかいゴシックロリータの服を着ていた。
「ははは!あははは!楽しいね!たのしいな!魔法種ぉ!」
彼女を喰わんと追いかける鮭たちの目の前にたくさんの光の玉が表れる。
「チンチン断頭台!ギロチンチン!あはははは!」
鮭たちの頭が切り落とされる。
「鮭の切り身ぃ!あはははは!」
だが、倒されたはずの鮭の怪人からまた新たな鮭の怪人が表れた様子を見て、表情を変える。
「あっはぁ!」
舌なめずりをし、杖を回転させる。
「魔法葉!アンアン鉄の処女デン !」
鮭たちが召喚された鉄の型に入れられる。広げた手のひらを閉じる。
「圧殺!!あははは無限に出てくる。湧いてくる!はははは!処して処して処しまくる!あはははは」
北棟地下
「はぁ、はぁ、はぁ」
マジカルブルーの息はかなり上がっていた。
「たしかに、厄介だ。あたしたち魔法少女が世界樹の加護があるとはいえ、この数は」
倒しても倒しても湧いてくる。どうやって戦えばいいんだ。
「あたしは徒手正拳が基本だからなぁ。ちっ、分が悪すぎるぜ。」