魔法の授業3
教室内がざわつく。特に獣人の生徒たちの唸り声がする。
だが、
「なんだ文句あるのか?僕の父は市長だぞ。貴様らの仲間たちがこの街にすめなくなるぞ」
そういうと静かになった。静かになったが、憤りが伝わってくる。ロック先生は静かに言った。
「そのようなやり方で言葉を阻むのはよくない。亜人と言う言い方も感心しない。我々獣人も人類だ。」
「人類?魔女に負けた旧人類のくたばりぞこないさ。負け犬なのさ」
けらけらと笑う。さくらこはどういうことか分からなかったが、苛立ちを感じた。
「侮ることは足元を掬われることになるぞ。魔法種もそうだ。生活魔法も攻撃魔法にも結界術にも召喚にも使える。さて、授業をつづけるぞ。いまから、君たちにもこれらを作ってもらう。」
「誰がやるか。そんな亜人の低レベルな授業。父上が僕が亜人の元で授業してるなんて知ったらさぞお悲しみに」
「ワロス。その発言は父上の品格を貶める発言になる。この都市が出来た経緯は知らないわけないだろう。」
周りの冷ややかな目が彼を見つめる。
「お前、俺を脅すのか?ただの一教師が」
「脅す?これは品位の話だ。魔法は誰でも扱える時代になりつつある。大きな力だ。扱うものが優しさと思いやりを持って取り組まねば、取り返しのつかないことになる。」
「は?魔法は選ばれたものの選ばれた力だ」
「いい加減にしろ!授業のぉ」
さくらこはつかつかと彼の後ろまでやってきて、杖を握りしめ、思いっきりなぐりつけた。
「邪魔だ!!」
ヒートアップしてた彼はこれに気づけずそのまま気を失ってしまった。
「坊ちゃん!」
「てめぇ!ワロス家のご子息に向かって!」
「うっさいわ!わたしは魔法の授業を楽しみにしてたのに!ごちゃごちゃごちゃごちゃと!授業受ける気がないなら、さっさとそいつ連れて、教室から出てけ!」
そうだ、そうだとまわりの生徒たちも声をあげる。ロック先生はため息をつき、取り巻きの二人につげる。
「ガロ、グロ、君たちは、ワロスの友人なのだろう。彼を保健室へ連れていくように」
さくらこの剣幕に押されたのか、ロック先生の有無を言わせない雰囲気に押されたのか取り巻きの2人は、主人を連れてすごすごと出ていった。
「ロック先生授業の続きを」
「春風。いかなる時でも暴力にたよるようではいけない。君のポイントを引かせてもらう。授業後教室に残るように。」
「は?」「え?」
周りはザワザワしていたが
「構いません。」
頭に血が上っていたさくらこは凛としていった。
「……魔法種の魔法は全ての基本だ。大地の魔石から魔力を集め、行使したい魔法の呪文やイメージを杖に伝える。今回は」
ロック先生は杖を振るう。浮いていた魔法球が赤白で的の模様を映し出した。
「この的に魔法種を当てる練習をしてもらう。イメージすることは、的に当たるイメージでも、球が飛ぶイメージでも構わない。集めてぶつける。魔法種の魔法でひとつ的を破壊するごとにポイントを与える。でははじめ」
的は木々の間をフワフワと飛んでいる。
「魔力を集めて……集めるってどうするのよ?」
うんともすんとも言わない自分の杖に途方がくれる。どかっと背中をたたかれた。
「よう!あんた!さっきはすかっとしたにゃ」
「うんうん!やな奴やっつけた!うんうん!」
頭に猫耳と犬耳をはやした獣人の女生徒たちが声をかけてきた。
「あたしは、ニャルゴ、こっちはドグル。狐組にゃ。今の猿人たち、いや、人類たちにはいいイメージにゃかったんだけど、イメージ変わったにゃ!名前教えてにゃ」
「うんうん!教えて!教えて!」
すごい勢いでせまってくるのにたじろぎながら、自分の名前をつげる。
「は、春風、さくらこ」
「うんうん!よろしくね!!さくらこちゃん」
そういうと彼女は鼻をさくらこの首すじにあてて、匂いをかぎはじめた。
「っとっと!こら、ドぐる!失礼でしょうが!」
「えへへ!さくらこちゃんのこときちんと覚えたくて」
「は、はぁ」
心臓がドキドキする。
「ごめんにゃ。さくらこ。まだドグルはこの町に来たばかりなんにゃ」
「うんうん!勉強中なの!またね!さくらこちゃん」
「お困りのようだから、コツを教えるにゃ。まずは地面から力をひっぱりあげるイメージでやってみるといいにゃ!」
「…地面からひっぱりあげる?」
イメージしながら杖をあげると、杖先にコインほどの小さな光が現れた。
「わっ!出た!」
よろこびのあまり集中がきれてしまった。光が消える。
「あ、」
「そうにゃ!少しずつできるようになるにゃ!がんばれにゃー!」
「ありがとう!!」
しばらく練習したが、さくらこは結局的に当てることはできなかった。それでもあらたな友達ができたようで嬉しかった。
授業が終わり、他の生徒が出ていく中、さくらこは教室に残る。
「春風。君はやりすぎだ。杖を出せ。マイナス1000だ」
「……はい…」
杖を差し出す。後悔はしていないが、やりすぎてしまったとは思っている。うなだれていると、ロック先生はさくらこの前に小瓶を置いた。
「……?」
「……ウチで作っているはちみつだ。……個人的な礼だ。ありがとう」
小声でかれは囁いた。顔をあげるとロック先生は教室から出るところだった。
「春風!今回のことは反省するように」
廊下まで聴こえる声だった。彼が居なくなったあと、すぐに教室にアンリとマツリが入ってきた。
「大丈夫だった?」
「あんの、熊野郎。さくらこだけ罰則ってのは、いただけない。訴えてやろうか?アルファたちをけしかけてもいいぞ。」
「大丈夫。わたしは平気だし。わたしが軽はずみなことしてしまっただけだから。」
お昼に、食パンにロック先生からもらった小瓶から蜂蜜をたらして食べた。とろりとした金色の液体はとても甘かった。