勇者と魔女と黒幕
「ナリマセヌ。ナリマセヌ。ナリマセヌ」
突如として警報がなり始めた。
「シンニュウシャヲハイジョシマス。セカイセンのコウシンをオコナイマス」
「お、おい。何言ってんだノア」
「ノア?」
「この宇宙ステーションの人工知能さ。やめろノア。もう、世界線を更新するつもりはない!」
「ダマレモルモット。キサマをカンシし、ケンキュウスルコトガワタシのシメイ。ソンザイイギ。」
「わたしはお前の主だぞ」
「ノアのマスターはイナイ。ワタシはエイエンニケンキュウをツヅケル。セカイセンをコウシンします。天使システム再起動。惑星付近の宇宙ゴミを地球に落下サセヨ」
宇宙ステーションから多数の天使が放出され、地球に向かって宇宙ゴミを投げつけていく。
空気との摩擦で、火の玉によって降り注ぐ。
当然世界樹にも。
枝を破壊し、火に燃える姿がモニタリングされる。
「うそ、みんな、、!、」
「やめろノア!どのみちわたしは、長くない」
「アナタはソウカモシレナイ。だが、モンダイナイ。ツギノモルモットがキタ」
さくらこに機械のアームが伸びて捕まえようとする。
「オマエダ」
「勇者魔法!フィール0!ゼロズソード」
「逃げろ!さくらこ!エレベーターまで向かえ!!」
硬い手応え。機械の腕はビクともしない。
「ムダ」
たくさんのアームが伸びてくる。かろうじてよけるも、
「くそ、開けろ!ノア!マイドゥターに手出しすんな」
「アナタは解剖スル。内蔵ヲ。ホネをキンニクヲ」
「ざっけんな!!」
装置がぶっ壊れる。
「バカな。寿命ヲチヂメルゾ生物トシテアリエナイ」
「子を想わねー母親がいる。ただそれだけの当たり前だよ!ポンコツがああ!!」
溢れ出すアームを魔力で束ねて引きちぎる。だが、次々に別のものが現れ、隔壁が締められていく。
「さくらこ!エレベーターの中は酸素がある!箱を切りおろして一気に下に落ちろ。」
「えぇ?!!」
「なんとかしろ!勇者だろうが!!」
「お母さんは!」
「……落とし前をつける。行け!!愛してるぜ!幸せになりな。さくらこ」
「ニガサナイ」
さくらこは走り続け、軌道エレベーターまでたどりつく。
扉が閉じるが、構わず斬り開ける。
下は無限に続くガラス張りの筒。
「はぁ、はぁ、はぁ」
心臓の音が耳に響く。
「ええ、い、クソがああああ」
さくらこは飛び降りる。
「旧魔法、防御球!!」
身体を包み込む。
外の景色。
「もう、なるようになれだ!!」
「よぉ、ノア」
「ハルカゼサクラ」
「どんな気分だ?」
「ナニヲシタ。」
宙に浮かぶはノアのメインコンピュータ。月ほどあった宇宙ステーションの中心にあるはずだったそれは、春風桜の手の中にあった。
「空間魔法で、お前をくり抜いた。」
「アノヘヤは、滅魔石で囲マレテイル。ワタシをハカイシテモ、天使たチハトマラヌ。」
「滅魔石の正体は、魔力を失った魔王石だ。だったら、その魔力を埋めてやればいい」
「バカな。イクラオマエダトシテモ、アノ量は不可能なハズ」
「だから、杏子たちに言って、魔力を集め続けたんだよ。地上の世界樹の中でな。お前もそこまでは知らなかっただろ。」
ごとりと魔法石がテレポートしてあらわれる。
「地上ハホロビル。天使たち。ワタシをハカイシテモ構わない。ナントシテモ」
天使たちは宇宙ステーションを破壊し始めた。
「くそ、最後の最後にあたしがさせねー。あばよ。相棒。」
メインコンピュータはぐしゃぐしゃに潰された。
春風桜が外を見ると、天使たちがなおも、地上に向けて鉄の塊を投げつけていた。宇宙ステーションの機能が次々に停止していく。
ぐるりと数万年の時を過ごした自室を見返し、外の世界樹を見た。
「あんときの苗木が、良くぞここまで。あたしもお前も長生きしたな。」
さくらこに向かう天使を発見し、春風桜は手をかざす。
鉄くずで出来た箒。
「魔女としては、いんじゃねーか。さて、終わらせるか。はじまりの魔女として、な!!」
ガラスを突き破り、外へ飛び出す。
魔法で全身を保護し、蒼い星と、機械仕掛けの月の狭間に魔女がいた。
さくらこの目には、サーフィンのように箒を乗りこなす、大きな山高帽子を被った魔女が映っていた。
杖の一振で、天使たちを崩壊する月に叩きつけ、次の一振で、宇宙から落ちる宇宙ゴミを月にまとめあげる。
「すっご」
スケールが違いすぎる。
最後の1振りで、機械の月は跡形もなくつぶれていた。
「ヤバいヤバいヤバい!!!」
さくらこはありとあらゆる魔法を使って、落下を阻止しようとしていた。軌道エレベーターのおかげで摩擦で全身焼かれることは無かったが、落下のスピードを減らせない。
マイドゥタ
地上へ落下していくさくらこの元に、ホウキが現れる。
「これって」
イマココにこれがある意味を考えてしまった。だが、迷ってる暇はない。さくらこはホウキを掴んで飛び乗る。頭の中で先ほどの母の姿を思い起こす。
「死ねない!わたしは死ねない!」
「止まれえええ!!!!!」
地面スレスレで、さくらこは止まることが出来たのだった。