勇者と魔女
さくらこは透明なチューブのようなエレベーターを登っていく。世界樹の内側にあるそのエレベーターは、木の内部を映しながら上がっていく。かなり長い時間が立って、世界樹の頂上にたどりつく。宇宙が近い。見下ろすと果てしない大きさの世界樹があった。何千、何万年もの時間をこの地に居続けたのだろうか。
ふと、動いているものが、見えた。校長と教授が見守るようにエレベーターを見上げていた。
「……行ったか」
「あぁ、姐さん。うちの生徒を無事返してくれるといいが」
「あたしたちは次の瞬間滅ぼされるかもしれねーのに、一人の心配かよ」
「未来ある若者の命には変わりないさ。私たちは私たちのできることをするぞ」
「はーッわかったよ」
流れ星のような、エレベーターを見送った後2人はそれぞれの陣営に指示を飛ばした。
「全研究員、怪人諸君。研究のお時間だ...」
「マジブロッサムの住民、および、全人類に告げる」
初めて見る宇宙は、途方も無かった。第二魔法学校での無重力の部屋。あそこなんて、比べ物にならないほど、果てしない空間にさくらこは目を丸くしていた。
たくさんの機械の破片を抜けた先にそれはあった。
巨大な月。いや、機械の塊。月と地球の間ぐらいに存在していた。
軌道エレベーターは、その中に繋がっていた。
「ご利用ありがとうございました。宇宙ステーション駅。宇宙ステーション駅。お忘れ物にご注意ください」
がらんとした駅。気味が悪いほど清潔で、静かだった。
「んで、よぉよく来たな。マイドゥター。そのまままっすぐ進みな」
駅内のアナウンスから突如として話しかけられた。
「はるかぜ、さくら、さん」
「おぅ、そうだぜ、モノホンさ。早く来な」
無機質な廊下を進んでいくとガラス張りの広い空間に出た。そとには蒼い星があり、中心に巨大な機械が設置してあった。
恐る恐る近づくと、中には、老婆が液体の中で静かに眠っていた。
「あんまりジロジロ見るんじゃねーよ。恥ずかしいだろ?こっちはすっぽんぽんだぜ」
「あなたが春風桜さん」
「あぁ、悪いな。こんな格好で。まぁ、でも、力は健在だからよ」
さくらこの身体がふわりと浮かぶ。
「まさか。天使の一体が、勇者になるなんてな」
「私は人間じゃないのですね」
すこし寂しそうにさくらこは言った。
「いや、人間さ。りっぱに生きて、怒って喜んで、悩んで感情があるんだ。誇れよ」
「……はい」
「いまの世界線はどうだ?マイドゥター?いや、さくらこ。」
「戦いは嫌だけど、魔法のあるこの世界は好きです」
「そうか。あたしの目指す、私がいた世界は多分二度と作れないんだろうな。結局どこかで起きる小さな綻びがデカイズレになっていく」
「……わたしは、世界樹の中であなたの魔法石に触れました。たくさんの人たちが、生きて、死んでいきました。精一杯。姿形は違っても、幸せを求めて」
「……あたしがしてきたことは間違っていたか」
「………………わかりません。でも、さくらさんが、いえ、お母さんが幸せになりたかったことは分かります。日記も見ました。お母さんは魔力の隕石を研究するまでは普通の子どもでした。もとの生活を取り戻したかっただけですよね」
「まぁな。……さくらこ。お前は勇者として、私を討つか」
「えっ」
「勇者の剣は私が暴走した時に止めるために作った。歴代の継承者はたとえ相手がどんなに巨大でも、立ち向かう資質があるものがなっている。」
装置から膨大な魔力が漏れ出す。
「あたしを終わらしてくれ」
切なる願いだった。
「……………………………………」
「わたしにとってお前の人生は決していいものじゃなかっただろう。天使の肉体はたしかに丈夫だが、対魔力に特化してほとんど自前の魔力がなく、勇者魔法の素質のせいで魔力がない。この世界線では、不便なことも多かっただろう。両親はおらず、幼い記憶はない。それでも、お前はこの世界が好きだと言った。私の分身たるお前が」
「……はい」
「あたしは未来をお前に託したい。」
ダメダ