春風桜と春風さくらこ
「ふぃ」
記憶と魔力の奔流の中、さくらこは引っ張られた腕を見る。
「危なかったね。さっちゃん。あのままだと、過去に引きづりこまれる所だったよ。」
彼女は胸を撫で下ろす。自分と瓜二つの少女。
「あなたは、」
「わたしは春風桜だよ。春風さくらこちゃん。ちょっと待ってて、ね!」
彼女が腕を一振りすると荒ぶっていた、周りの魔力が緩やかに流れ出す。
「あの、おっさんの記憶と同期しようなんて、無茶し過ぎだよ。さっちゃん」
「は、春風、春風って、わたしのお母さんですか!わたし、わたし、ずっと、ひとりで」
そういうさくらこに春風桜は、申し訳なさそうな顔をつくる。
「ごめんね。私はあなたのお母さんではないの。生み出したって意味ではそうかもしれないけど」
「ど、どういうこと」
「このことを伝えるとあなたは、ショックを受けると思う。聞きたい?聞かずにいたほうが幸せかもよ。時間もないし」
「それでも、聞きたい。聞きたいです。はじまりの魔女さん」
「……わかったわ。春風さくらこ。あんたがダーリン候補になるなんてな。」
口調が変わる。彼女が私に近づくに連れて、年齢を重ねていく。見た目は30歳くらいにまで、上がった。服装も制服から、白衣に変わる。
「お前は、魔女になれなかったわたしだ」
「……魔女にならなかった春風桜、さん」
「そうだ。世界を作り替えるうちに徐々に天使たちに自我を持つものが現れ始めた。あたしのクローンをベースにしたアンドロイドたち。彼女たちを見ている時に。ふと思ったんだ。わたしがあの時、隕石を調べなければ、研究しなければ、公表しなければ、みんなを魔法使いにしたいと願わなければ、もっと違う世界があったんじゃねーかなってよ。」
さくらこの髪を撫でる。
「あたしたち、第1世界線の住人たちは、生まれ変わりや転生、コールドスリープを使って、それぞれ生き延びてきたが、それもそろそろ限界でな。純粋なクローンに未来を託すことにした。それがお前だ。……杏子。お前にとっては、校長か。わたしの妹分に頼んでな。何も知らない状態のお前が、この魔法の世界を見て、どう思うか。知りたかった。」
「わたしは、魔法の世界は好きです。いまは、辛い時もあるけど、魔法が使えて良かったと思います。」
「……お前は強いなさくらこ。」
「あ、あの、」
「なんだ」
「お、お母さんって呼んでもいいですか」
ぱちくりと目を丸くする。
「……は?」
「あ、いや、その」
「は、はははは。ダーリン探す前に娘が出来ちまった。ははは、こりゃ傑作だわ。」
「!、!へ、へへへ」
ガシッと肩を組むさくらこと桜。
「んじゃ、マイスィートベイビー!あの、おっさんぶっ倒して、私のところに会いにきてくれ。正直あいつはタイプじゃねー。」
「は、はい、」
「……行ってらっしゃい」
「……いってきます。」