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後輩ちゃんはわからせたい!

「先輩は、猫みたいです」


 僕の頭を撫でながら、君は澄まし顔でそう言った。初夏の陽が差す部室。開いた窓から入ってきたそよ風が、君の前髪を僅かに揺らす。


「違うよ?」


「いえ、猫です」


 君はクスクスと笑って、僕の背中に手を這わせた。


「っ……」


 思わず、声が漏れる。

 息を殺し、唇を噛み、君のお腹にぎゅっと顔を擦り付けた。


「ほら、やっぱり。膝の上で、丸くなってるじゃないですか」


 君の指先は、僕の骨盤をなぞりながら、腰とウェストバンドの間に入ってくる。脛骨部を触れられ、ワイシャツを捲られる。露わになった腹部。君の手のひらが、僕の肋骨や腹筋の窪みを撫でた。

 脇腹を甘噛みされ、熱い吐息が肌に染み込む。ちらちらと蛇のように動く舌が、僅かに音を立てていた。


「先輩。にゃーって、鳴いてください」


 甘い声が鼓膜に浸透する。

 窓の外から聞こえる蝉の鳴き声が、遠くから聞こえた。

 

 君の瞳を見上げる。

 その勝ち誇ったような顔は、少し火照っていた。それがどこか愛おしくて、笑みが溢れた。


「真っ赤だよ、顔」

「にゃ、なにを言って……」


 慌てる君の唇に親指を当て、輪郭を確かめるように肌の上を滑らせる。


「ぁ……」


 半身を起こし、君の顎に手を添えて、唇をついばむように奪う。互いに息を吐き合う。顔を離せば、潤んだ瞳と目が合った。


「やっぱり、僕は猫じゃない」


 君の髪を梳くように頭を撫でる。

 頬と頬を擦り合わせ、耳元で囁く。


「鳴きなよ、にゃーって」


 すると、君は真っ赤な顔でわなわなと唇を震わせた。


「せ、先輩が猫です!絶対っ!」

「どうかな」


 人差し指で首筋をなぞれば、君は小刻みに痙攣する。


「ひゃっ……ぅあ……」

「ほら、鳴いて?」


 耳まで真っ赤になった君の目が、僕の視線から逃げるように伏せられる。


「それとも、終わりにする?」


 言うと、君は目を伏せたまま、僕の裾をちょこんと掴んできた。


「にゃぁ……」


 小さな声は、すぐに蝉の鳴き声に掻き消される。


「聞こえない」


 君は指先でワイシャツをぎゅっと掴み、僕の胸に頭を押し当ててきた。


「ちゃんと、言いました……」


「何してほしいの?」


 小さな背中に腕を回す。密着した体が、心臓のトクトクという脈音を伝えてくる。


「……にゃあ」


 白い肌を紅潮させた君は、小さく鳴いた。

 不安と期待が入り混じった君の眼と、視線が交差する。

 身体が熱いのは、夏のせいだ。

 カーテンが揺らぐ。透き通った青空が、静かに僕らを見下ろしていた。

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