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暴走列車 7

「……キララちゃん」


 それを聞いて、クリームヒルトはキララを嘲笑った。


「止める? 見栄を張って、できもしないことを────」


「くす、君と一緒にしないでよ」


 クリームヒルトの目が見開かれ、毛が逆立つ。クリームヒルトだって、SOO最強プレイヤーの候補の一人、上澄みも上澄みの超一流プレイヤーだ。キララの発言は、傲慢がすぎる上にクリームヒルトのことをナメ過ぎている。


(落ち着きなさいクリームヒルト、今ここでコイツの挑発に乗ったら思う壺よ……)


「君が私と同じ立場、ステータスだったとして君にこのモンスタートレインを止める手立てが無いのはよく分かった。だと言うのに、君はアリスさんに『言うことを聞けばモンスタートレインを止める』だなんて……君はどうやってこのトレインを止めるつもりなんだろうね、この規模の大軍が相手では君と私のステータスの差なんて誤差だろうし、何かもっと、根本的な戦力の差があるんだろうね」


 そう言ってキララは、クリームヒルトの後ろ、湧き上がる砂煙の壁のそのさらに上空を見つめた。


「……いい加減姿を見せてくれてもいいんじゃない?」


「……いいでしょう」


 クリームヒルトは不満げに、右腕を水平に振りかざした。



「姿を現しなさい、バルムンク」


 

 日差しが遮られ、キララ達のいる地面に巨大な影が落ちる。光学迷彩を解いた宇宙戦艦がクリームヒルトの後方に出現する。帝国軍第四師団が保有する重装戦艦、四番艦バルムンクだ。


 キララはバルムンクを見て目を細めた。


(撤退戦の時と形が変わってる……装甲を増やしたのか?)


 周囲のプレイヤー達の間にどよめきが走る。アリスも思わず身構えた。アイリは警戒してハンドルを握り直す。


(なるほど、バリアの発生源はアレか)


 バルムンクに限らずだが、SOOの宇宙戦艦は、ハート・オブ・スターをコアに持つ『炉心』でエネルギーを生成し、そのエネルギーを、ロケットエンジンや大砲、様々な艦内設備、そしてエネルギーバリア発生装置に振り分けて使用している。戦艦同士の撃ち合いを想定する場合には、あらゆる設備にバランスよくエネルギーを振り分ける必要があるが、今回のように『エネルギーバリアを生成する』という明確な目的があれば、全てのエネルギーをバリア発生装置に集中させることで、極めて強力なバリアを生成することが出来るのだ。


「な、なにこれ!? 戦艦!? 戦艦が空を飛ぶの!?」


「そうよ、アリス。これで力の差がよく分かったでしょう? モンスタートレインを止めたければ、まずこのバルムンクを何とかしなければならない。あなた達に、そんなことが出来るかしら? 貴女は私の言う通りに、SOOをやめるしかないの!」


 アリスは俯いて、そしてキララを不安げに見上げた。


「私を殺すことすら出来なかった、その女のでまかせを、貴女は信じるのかしら! そいつにこのモンスタートレインが止められる訳が無いわ! 根拠もなく他人をただ信用するなんて、責任の押しつけ、ただの無責任よ!」


 キララの赤い瞳がアリスを捉える。キララは、静かにアリスに問いかけた。



「……君はこのゲームをクリアしたの?」



 アリスの黄金の髪が暴風に打ち靡く。


「っ……でも私は────」


 その時だった。


 キララ達のすぐ上の空間が眩く光り、突然爆ぜたかと思うと、黒い軍艦が姿を現した。──────ハイパーブリッジで跳躍してきたのだ。一歩間違えれば荒野に衝突してしまう危険な跳躍だ。勢い余ってそのままキララ達の後方へ飛び去っていく軍艦は砂原に碇を降ろす。砂を噴き上げる碇を引きずりながら大きく弧を描き、ドリフト走行の要領で進路を変える軍艦。その軍艦を見てアイリは叫んだ。


「鉄靴のカティサークだ! 応援に来てくれたんだ!」


 カティサーク号の甲板から小さな黒い影が飛び上がる。火花を曳きながら飛翔するその影は軽やかに身を翻すと、トラックの上のクリームヒルト目掛けて、かかと落としを放った。


 鈍い音と、空間を揺らす衝撃。赤熱し、火花を散らす鋼の脚鎧が、蹴りを受け止めたクリームヒルトの腕に食い込む。


「ノワール……!」


 クリームヒルトの反撃の拳を細い身体でそのまま受け止め、ノワールは次々と蹴りを放つ。ドレスの裾が破れるのも厭わず、黙々とクリームヒルトを蹴るノワール。殴り返すクリームヒルト。二人の黒髪が激しく舞い、肉と骨が軋む重い音が響く。防御度外視の激しい肉弾戦を制したのは、ノワールだった。


 舌打ちをして隣のトラックへ飛び移り、膝をつくクリームヒルト。


「気色悪い! 私が対実弾銃用の装備をしているのを見て仕掛けて来たわね!」


 ノワールは口元の血を親指で拭うと、大袈裟に声を張った。


「ああ! ああなんと見苦しい! 武器商人に過ぎない私に、得意の格闘戦で負けただけでなく、言い訳をするなんて! ああ! なんて無様なのでしょう!」


 クリームヒルトは装備の変更画面を開くが、キララの視線に気づくと、歯ぎしりをして画面を閉じた。


 クリームヒルトは立ち上がり、アリスを横目で見た。


「……返答はいつでもいいわ、けど、ぐずぐずしてると手遅れになるってことだけは覚えておきなさい」


 そう言ってクリームヒルトはトラックの天板を蹴ると、高く飛び上がり、バルムンクへ帰って行った。

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