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暴走列車 6

 クリームヒルトはアリスの方を睨んで、そして目を丸くした。


「そんなまさか……………聖剣のアリス……!?」


「そうだよ! アリスだよ! 久しぶり! キミもこっちに来てたんだね!」


 キララはクリームヒルトから目を離さずにアリスに問いかけた。


「知り合いなの?」


「うん! ロスサガ時代の!」


 アリスは無邪気に目を輝かせた。


「キミが居るってことは、もしかして『ニーベルンゲン』の皆も居るの? ジーク君は一緒じゃないの?」


 それを聞いて、クリームヒルトは眉を歪ませて一歩後ずさると、頭を抱えて呻き出した。


「……くりぃむちゃん?」

 

「っ! ……黙れ! この、裏切り者! ロストサーガの主人公とまで呼ばれたプレイヤーが! 聖剣のアリスが! なんでロスサガを捨ててこんなクソゲーやりに来てんのよ!」


 クリームヒルトのその言葉に、アリスは目を丸くして言葉を失った。


「あぁ、なんてこと……私達の象徴である、聖剣のアリスが……! これが裏切りでなくてなんだと言うの! 誰もが貴女に憧れていたのに! それなのに! 貴女は貴女を捨てるのね!」


 クリームヒルトは、指と髪の隙間から血走った目でアリスを睨んでいたが、やがてゆっくりと顔を上げた。


「……くりぃむちゃん?」


「悪いことは言わないわ、アリス、貴女、今すぐこのゲームをやめて帰りなさい。貴女がここに居るなんて知れたら、ロストサーガが穢れてしまう……!」


 アリスは酷く動揺したようだった。


 キララの予感が確信に変わる。


(やっぱりそうなんだね、君たちは──────)


 ボルトを操作し、ヤトノカミをリロードしたキララはクリームヒルトを見据えた。


 キララのその仕草を見逃すクリームヒルトでは無い。しかし、クリームヒルトはどうでも良さそうにキララを一瞥すると、アリスへと視線を戻した。


「くりぃむちゃん、私、キミが何言ってるのか全然分からないよ……! 裏切りってどういうこと! そもそも、キミはこんなことするプレイヤーじゃなかったはずでしょ!? なんでモンスタートレインなんて……!」


「このモンスタートレインは、そこに居るキララという女への制裁として用意されたものだったのだけれど……事情が変わったわ。アリス、今すぐ貴女がこのゲームをやめてロスサガに帰ると言うなら、このトレインを止めてあげてもいいわよ?」


「え───────」


 アリスに口を開かせる前に、キララはヤトノカミを発砲した。銃声が轟き、放たれた弾丸はクリームヒルトの左目に風穴を空けた……!


 しかし、クリームヒルトが倒れることはなかった。


(キル通知が無い……死んでない)


 多少仰け反りはしたものの、開いた傷はたちまちに塞がり、元通りになってしまう。それを見て黙ってヤトノカミをリロードするキララを、クリームヒルトは鼻で笑った。


 一連の様子を見ていたアイリとナナホシは思わず固唾を呑んだ。


(バリアによるダメージ減衰があるとはいえ、ヤトノカミのヘッドショットに耐えられるなんて……!)


(防御型、それも対実弾銃特化の装備編成っスか……徹底的にキララさんをメタるつもりなんスね)


 クリームヒルトは腕を組んでキララを見下ろした。


「言ったはずよ、このモンスタートレインは本来、帝国に楯突いたあなたへの制裁のために用意されたもの。そのトレインを率いる私が、何の対策もなしに姿を晒したとでも?」


 RPGは、対策のゲームだ。炎が弱点の敵には炎の攻撃を行い、毒の攻撃を仕掛けてくる敵と戦う場合は毒への対抗手段を用意しておく。同様に、実弾銃を使うキララを相手取るなら、実弾銃のダメージを軽減する装備を身につければよい。一度に大勢を相手するのが苦手なキララには、大軍をぶつければよい。


「私のことを完封するつもりみたいだね」


「当然。帝国は仇なすプレイヤーを許しはしないわ。モンスターの大軍でフリードを地図から消した後で、今回の攻撃はキララというプレイヤーへの制裁であった、と、声明を出す。そうすれば、あなたはもうこの世界には居られない」


 アリスは唖然とした様子でキララを見つめた。クリームヒルトの言うことが分からないアリスでは無い。クリームヒルトは、キララを社会的に殺し、SOOから追放すると言ってのけたのだ。


 もちろん、話の通じる人間なら、悪いのは帝国であってキララに一切非がない事が分かるだろう。しかし、世の中そう物分りの良い人間ばかりでは無い。誰もが多少なりとも思い入れのあるフリードという街が地図から消えるようなことになれば、やるせない怒りの矛先がキララに向けられたっておかしくは無いのだ。


 クリームヒルトはアリスに視線を戻した。


「もっとも、それはついさっきまでの計画。アリス、貴女がこのゲームをやめてロストサーガファンタジアへ帰ると言うなら、この1000万の大軍を止めてあげてもいいわ。そうすれば、フリードも、そこのキララという女も助かる。優しいアリスなら、どうすべきか分かるわよね?」


 アリスは額に汗を滲ませると、ゆっくりと周りを見つめた。


 周囲では、宇宙警察を初めとしたプレイヤー達が必死にモンスターの数を減らしているが、このペースではどうやったってフリードを守りきれないのは目に見えていた。ここから更に、どんなに強力な援軍が加わったとしても、結果は覆らないだろう。


 ここがロストサーガファンタジアの世界なら、アリスは1000万だろうが1億だろうが、正面から迎え撃つだろう。しかし、SOOのアリスはただの初心者、ちょっとばかりプレイヤースキルがあるだけの初心者に過ぎない。我儘を言える立場では、ない。


「っ……私は───────」


 返答を絞り出そうとするアリスを、キララは制止した。


「話を聞く必要はないよ。モンスタートレインは、私が止める」

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― 新着の感想 ―
だから帝国って本気でこのゲームを滅ぼしたいんだな(可哀想なものを見る目)
証拠付きで運営に報告したら即バン物の脅迫では?
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