暴走列車 4
「嘘でしょ!? ヤトノカミの弾丸を止められるエネルギーバリアなんて聞いたことないよ!」
アイリは叫んだ。対戦艦狙撃銃ヤトノカミの弾丸には、戦艦の砲撃に耐えられるエネルギーバリアをも突き破れる貫通力があるからだ。
「車両に搭載出来るバリア発生装置で、この強度のバリアを作れるわけがないっス。宇宙戦艦に使われるような惑星級炉心の”全力”を使えば…………いや、新手のスタースキル持ちが現れたと考える方がまだ納得が行くっスね」
その時、キララ達と一緒に走っていた宇宙警察の装甲車のスピーカーが起動し、聞き覚えのある声が戦場に響いた。偽銀華騒動の際に、キララ達の前に立ちはだかったあの隊長の声だ。
「"全員! 転回────ッ! 停車──────ッ!"」
警察の車両だけでなく一般のプレイヤーの車両までもが、その声に合わせて急ブレーキを踏み、車両をUターンさせた。
「"これより我々は戦線を徐々に後退させながら敵戦力を消耗させる! 遠距離攻撃は効果が薄い! 車両からの落下に気を付けながら、できる限り至近距離で攻撃せよ!"」
「不本意だけど今はアイツが言ってることが正しいね。足並み揃えるのも大事だから一回従おう」
そう言って、アイリもやむを得ずハンドルを切ってバイクをUターンさせる。キララはヤトノカミをリロードすると、3人の方へ向き直った。
「考えがある。協力して欲しい」
◆◇◆
「"全員、発進用意!"」
それからそう経たぬうちに、モンスタートレインはキララ達の目前まで迫ってきた。そびえ立つ砂煙の壁が、轟音と共にキララ達に迫る。モンスタートレインの前には、砂で汚れた装甲トラックが何台も並んで走っていた。このトラックの中のプレイヤー達が、モンスタートレインをフリードに誘導しているのだろう。
「"まだだ! 引きつけろ!"」
アイリはバックミラーを睨みながらハンドルを握りしめる。ナナホシとアリスは、迫り来るモンスターの大群を、固唾を飲んで見据えていた。
その時だった、装甲トラックの窓が開いたかと思うと、光線バズーカ砲を構えた何人ものモヒカン男達が身を乗り出してきた。
「ヒャッハアアア! 死ねええええっ!」
「"発進!"」
スピーカーの声に合わせ、プレイヤー達は一斉に車両を発進させた。アイリもアクセルを全開にしてバイクを発進させる。それとほぼ同時にモヒカン男達がバズーカ砲を撃つ。放たれた砲弾が近くの地面に当たって爆炎を上げる。攻撃に巻き込まれた数台の車両はそのままモンスターの波に飲まれ、ポリゴンの破片になった。
ナナホシは爆風と閃光に目を細めた。
(やはり選択性エネルギーバリアっスか。こっちは銃火器が使えないのに向こうは遠距離攻撃をし放題、分が悪いっスね)
ゲーム的に、自分達が生成したバリアのせいで不利益を被ってはあまりにつまらないので、特定のプレイヤー(この場合はモヒカン男達)には影響を及ぼさないように設定ができる、選択性エネルギーバリアというものが存在するのだ。
アイリは叫ぶ。
「コイツら帝国じゃない! 多分、モンスタートレインを専門にやってる『闇枢突破賦流』ってクランだよ!」
「そんなニッチなギルドがあるんだね!」
何人かの勇敢なプレイヤーは、モヒカン男たちの装甲トラックに飛び移り、車両を滅多打ちにした。しかし、トラックに張られた装甲はかなりの強度があるようで、傷一つ付かない。
キララもヤトノカミを構えて、近くの装甲トラックに狙いを定める。するとモヒカン男達は、慌てて顔を引っこめて窓を閉めた。トラックの窓や、本来排気口があるであろう場所にまで装甲が貼られている。前に真っ直ぐ進むだけだから、大して視界も必要ないのだろう。キララは、装甲が薄いと予想される窓の当たりを狙って引き金を絞った。
弾丸が放たれ、甲高い音と共に弾丸が装甲に受け止められる。
「硬い……」
他のゲームに登場するバリアを壁に例えるなら、SOOの『エネルギーバリア』は水や泥に例えられる。空気中なら問題なく進める弾丸も、水の中は抵抗が強すぎてすぐに威力が落ちてしまうように、SOOのバリアは効果範囲内の遠距離攻撃に対してダメージ減衰を発生させ、減衰の結果、ダメージが0になった瞬間に攻撃を消滅させるという代物なのだ。したがって、極めて攻撃力が高いヤトノカミの弾丸であれば、この異常な強度のバリアもある程度は貫通できる。しかし、装甲に弾丸を阻まれては意味が無い。
「バリアによるダメージ減衰の影響があるとはいえ、少し異常な強度っスね、恐らく、ただの装甲板じゃないっス」
キララは今度はタイヤを攻撃したが、それも容易く阻まれる。しかし、キララは弾をリロードしながらこう言った。
「問題ない、作戦通りに」
◆◇◆
装甲トラックの中で、2人のモヒカン男が、キララの様子を笑っていた。
「ギャハハハハハ! そんな豆鉄砲でこの装甲を貫けるわけねぇだろ!」
「宇宙戦艦の炉心の隔壁に使うような、超高強度装甲だぞ! トラック全面合わせて4億クレジットだ! 目の前で陽電子爆弾が爆発したって平気なんだぜ〜!」
すると、モニターの中のキララがバイクのサイドカーから大きく身を乗り出し、ほとんど地面スレスレのところで銃を構え始めた。キララの脚をナナホシが引っ張って、バイクから落ちないように支えており、バイクの反対側ではアリスがバランスを取るように身を乗り出している。
モヒカン男たちは手を叩いて爆笑した。
「ギャハハハハハ! 何やってんだこいつ!」
引き金を絞ると弾丸が打ち出され、キララは反動で大きく仰け反る。直後に、モヒカン達のすぐ後ろで、甲高い金属音が鳴り響いた。
「……なんだ?」
直後に、爆炎が車内を包み込み、装甲トラックは内側から弾け飛んだ。
キララの視界の端に二人の男の死亡通知が流れると、キララは黙ってヤトノカミをリロードした。その様子を見つめていたナナホシは固唾を飲んだ。