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暴走列車 3



 自由都市フリードの南、190km地点。


 灼熱の荒野を、津波のような分厚い砂嵐の壁が進んで行く。その砂嵐の根元では、カメラアイを赤く輝かせる無数の殺人マシーンが列を成して走っていた。


 黒い機械の群れが、轟音と共に大地を進んでいく。赤い光が地平線を埋めつくす。


 その前方では、装甲トラックの集団が排気ガスとエンジン音を撒き散らしながら大地を爆走していた。


 トラックの窓から顔を出したモヒカンの男達が叫ぶ。


「ヒャッハアアァァ! このまま、フリードを更地にしてやるぜぇぇぇぇ!」


「ヒィヤッハアアァァアアア! 俺達『闇枢突破賦流(アンストッパブル)』は無敵だアアアアアア!」


◆◇◆


 自由都市フリードの南、180km地点の荒野を大小様々な無数の車両が走っていた。フリードを守るために、車両を持つプレイヤー達が先遣隊として打って出たのだ。そんな車の列に並んで、少々定員オーバーなサイドカー付きのバイクが走っていた。


「えへへ、ごめんね、無理言っちゃって」


 サイドカーの中で半ば抱かれるようにしてナナホシの膝の上に座るアリスは、そう言って申し訳なさそうに笑った。


「いえ、一人でも多くの人手が欲しいんで、めっちゃ助かるっス」


「ほんと、猫の手も借りたいくらいだよー」


 そんなことを言いながらハンドルを握るアイリの後ろで、キララはヤトノカミを実体化させて、弾をこめた。


「くすくす、でもアリスさんは猫じゃ済まないかもよ?」


 キララのその言葉にアイリが首を傾げたその時だった。『宇宙警察』の文字が書かれた一台の装甲車が、アイリ達のバイクに近づいてきた。


「アイリさーん! こんにちはー!」


 装甲車の窓から、若い男がブンブンと手を振っている。アイリは声色を変えて、男ににこやかに微笑んだ。


「こんにちは、警部さん」


 アイリに警部と呼ばれた男は、クラン『宇宙警察』に所属しているプレイヤーだった。アイリをよく慕っており、アイリの経営する『ラバーキャット』に足繫く通っている。


「アイリさん、と、ご友人の皆様も、フリード防衛戦へのご協力感謝します! 皆でフリードを守りましょう! それでは!」


 そう言って、男の乗った装甲車は離れていった。一連の様子を見ていたアリスが口を開く。


「悪い人じゃなさそうだね」


「うん、いい人だよ。ちょっとおバカだけど……あ! 見えてきた!」


 アイリが叫ぶ。4人が見据える先、地平線から、砂煙を巻き上げながら暴走するモンスターの大群が見えて来た。アリスは身を乗り出して目を丸くする。


「噓でしょ!? アレ全部モンスターなの!?」


「機械系モンスターの中でも、随一の足の速さと追跡能力がある『ストーカー』ってモンスターっスね。大規模なモンスタートレインを作る時のスタメンっス。ただ、一匹一匹のステータスは高くないんで、初心者のアリスさんでも十分倒せると思うっスよ」


「列車の先頭に車両が見える。ダメもとで狙ってみる。アイリさん肩貸して」


 そう言ってキララはアイリの肩にヤトノカミの砲身を乗せてスコープを覗いた。アリスとナナホシは目を細める。


「車両!? どこに!? ってまさかここから狙うの!?」


「アリスさん、じっとしてて、アイリさん、そのままのスピードで真っ直ぐ走って」


「はいはーい」


 バイクの振動、銃口に吹き付ける暴風、さすがのキララもこの悪条件での狙撃はダメでもともとだ。


(この星の直径が15672km、このバイクのシート高が800mmだとして、私の今の体勢の高さ分600mmを加えると、41秒前に地平線の先から現れた先頭集団までの距離はおよそ4.68km。この距離ならコリオリ力も計算に入れるべきだ。このバイクが時速98kmで走っているから────)


「アイリさん、ストーカーって時速何キロくらいで走れるの?」


「ええ!? 多分60とか70だと思うよ!」


「わかった、ありがと」


 キララが肺に息を溜めて呼吸を止めると、アイリは身体に力を入れて砲身を固定した。何故か口を手で押さえて置物のようにじっとしているアリスの後ろで、ナナホシはキララにありったけの攻撃バフを付与する。


「『フォースレイズ』『インドミナスレイジ』『ベルセルクハウル』!」


 ナナホシのその声を合図に、キララは引き金を引き絞る。耳を劈く轟音と共に撃ちだされた弾丸が、荒野の熱風を切り裂いて飛翔する。弾の軌道を確認しやすくするために、今回ばかりはキララも曳光弾を使用した。ヤトノカミ専用弾の禍々しいエフェクトが緩やかな弾道を描き────


 空中で消滅した。


 キララは目を見開き、スコープを外す。


「……弾が消えた」


「ええ!?」


 アイリが動揺の声を上げたその時だった。キララの射撃を皮切りに、併走する他のプレイヤー達も一斉に光線銃を乱射し始めた。大小様々な無数の光弾が空に打ち上げられ、大きなカーブを描いてモンスターの群れへと襲いかかる。しかし、それらがモンスターに届くことは決して無かった。


 無数の炸裂音と共に、光弾が一斉に消滅する。その瞬間、キララ達ははっきりとそれを目視した。


 弾丸が衝突する瞬間に後ろの景色が歪んで見える程の、極めて、極めて強力なエネルギーバリア。まるで要塞のような大きさの、巨大なエネルギーバリアが、モンスタートレインの周辺に張り巡らされていたのだ。

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