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暴走列車 2

 アリスは『何を言っているのかわからない』といった顔でアイリの方を見上げた。


「1000万体のモンスターをトレインするなんて、そんなこと本当にできるの? モブの湧き上限とか、追跡距離の限界とかないの?」


 一般的に、雑魚モンスターが一つのエリアに同時に出現できる数には限りがあり、これを『湧き上限』と呼ぶ場合がある。例えば、『あるエリアに同時に出現できる、あるモンスターの数は15体まで』といった具合だ。しかし────


「モンスターの数が増えると時間当たりの出現数に『減衰』はかかるんスけど、基本的に、SOOにはモンスターの湧き上限が無いんスよ。ああでも、モンスターがプレイヤーと接触しなければ、エリアごとに定められた目標数に向かって数が減っていくんで、放置してると世界中がモンスターで溢れかえる……なんてことはないっス」


「ちなみに、追跡距離の限界はちゃんとあるよ。縄張りの概念がある生物系モンスターにはね」


 多くのゲームでは、モンスターがプレイヤーを追跡する距離或いは時間には限界がある。例えば、洞窟から出たらそれ以上追ってこないとか、10秒間プレイヤーを追跡しても追いつけなかったら諦めるとか、そんな具合だ。SOOでも生物系モンスターの場合は、そのモンスターの縄張りから脱出することが出来ればそれ以上追ってこない場合が大半だ。しかし────


「けど、一部の、特に『殺人マシーン』って呼ばれてる殺意高めの機械系モンスターは、ワープとか隠密系のスキルとかを使わない限り永遠に追ってきちゃうんだよね……」


 アイリはそう言って遠くを見つめた。アリスは引きつった笑みを浮かべるしかなかった。


「って、お喋りしてる場合じゃないんだよ! とにかくプレイヤーを集めないと! ナナホシさん! ダメ元で反乱軍に連絡してみて!」


「了解っス」


 宇宙怪盗アルセーニャことアイリは、正体がフレンド欄から露見するのを防ぐ為に、一部のプレイヤーを除いてフレンド登録をしていないので、大半のプレイヤーと連絡が取れないのだ。


 キララもフレンド欄を開きながら口を開く。


「私もアテがあるから連絡取ってみるけど……そもそも、迂闊にプレイヤーを集めて大丈夫なの?」


 ナナホシはチャットを打ちながら答える。


「確かにキララさんの仰るように、迂闊にプレイヤーを集めるの危険っス。トレインを止めるためにモンスターと戦うことは、トレインに加担することとほとんど同じなんで」


 モンスタートレインを止めるベストな方法は、トレインをしているプレイヤーを倒した後、そのまま自分もモンスターに倒される、或いはスキル等でトレインを撒くことなのだ。そうすれば、トレインは追いかける標的を失い、ゲームシステムの力で自然消滅する。しかし、協力のために駆けつけてくれたプレイヤー全員がそれを理解しているとは限らない。悪気はなくとも、トレインに加担してしまう恐れがあるのだ。


「けど、それについては前回の襲撃の時にもう答えが出てるんだ。説明は省くけど私たちはとにかく人手を集めて、モンスターを正面から全部倒し切るしかない。理想的には、宇宙戦艦を持ってるクランが協力してくれると有難いんだけど……」


 そう言ってアイリはナナホシを見つめた。反乱軍の知り合いからの返信を見たナナホシは目を見開く。


「……反乱軍のアジトが帝国艦隊の襲撃を受けていて、今は協力が出来ないそうです」


「そんな! なんでこのタイミングで!」


 アイリは頭を抱えた。キララは眉を顰める。


「宇宙戦艦を持ってて、こういうことに協力的なクランと言ったら、あとは『ターミナルオーダー』と『宇宙海軍』と……」


「申し訳ないっス、ターミナルオーダーの御三方とも、宇宙海軍所属の方とも、面識はあるんスけどフレンドじゃないんで連絡が取れないんスよ。カガミさんなら連絡先を知ってるハズなんスけど……ああそうだ、ノワールさんなら連絡先持ってるかも……ちょっと相談してみます」


 キララは顎に手を当てて呟いた


「カガミのお兄さんが居ないタイミングを狙われてる?」


 アイリとナナホシは目を見開いてキララの方へ振り向く。


 多くのプレイヤーと連絡を取ることが出来る情報屋カガミは、こういった大規模な戦闘の際に、情報をまとめて管理する中枢としての役割を自然と担っている。キララ達は、無意識のうちにカガミに依存していたのだ。カガミなら何か知っている、カガミを経由すればどんな人とも連絡が取れる。裏を返せば、カガミが居なければ何も出来ない。


 もちろん、カガミが居なくとも噂が噂を呼ぶ形で、多くの救援がフリードに集まるだろう。しかし、初動対応は確実に遅れる。一刻を争うこの状況では、10分の遅れが致命傷になる。


「っ……確かに、カガミさんのログイン状態は、カガミさんとフレンドでなくとも、カガミさんのIDさえ知っていれば『IDからフレンド申請』のページから確認することが出来るっス……」


「つまり、敵はカガミのお兄さんが『私たち』の弱点だって知ってるプレイヤー……或いはクラン」


 アイリは固唾を飲んだ。


「『失われし帝国(ロスト・エンパイア)』……!」

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