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指示厨 7

 轟音と共に、眩いエフェクトが飛び散り、ヌシのHPが3割ほどまとめて一気に削られる。気絶の状態異常が発生し、ぐったりと動かなくなるヌシ。


 ユリウスと槍使いの男は、目を大きく見開き、言葉を失った。杖使いの男がポツリと呟く。


「やっぱり間違いない……! 聖剣(ヴォーパル・ソード)のアリス……!」


「キララちゃん!」


「うん」


 アリスはすぐに4歩ほど走って、再び何もない場所で大剣を構える。ヌシが気絶から立ち直るのとほぼ同時にキララはヌシの頭に着地し、再び集中攻撃を始めた。


「っ!?」

 

 動揺し、啞然とするユリウスをよそに、はっとしたように槍を構える槍使いの男。槍にのみ許された特殊な溜め攻撃『槍投擲』だ。大剣の溜め攻撃に比べればダメージは小さいがその分隙が小さく、遠距離攻撃ができる上に、弱点に命中時に『穿槍』という特殊な状態異常が発生する。『穿槍』効果中は対象の被ダメージが1.1倍になり、ダメージが通りやすくなる。そして当然、男が狙う先はアリスの大剣が狙うその一点────!


「シャアアアアアアアアッ! シャアアアアアッ!」


 暴れるヌシの頭に張り付いたまま、執拗にゼロ距離攻撃を繰り出すキララ。


(3────2────1────今────!)


 キララは、今度はアリスの方を確認すらせずにヌシの頭を蹴って空に舞い上がる。


 キララの跳躍を合図に、杖使いの男は再びありったけのバフをアリスに付与し、槍使いの男は槍を投擲する。


「『フォース』!『パワーレイズ』!」


「ぜりゃあああああッ!」


 アリスの足元に転がってきたヌシの頭に吸い込まれるようにして槍が突き刺さり、それと同時にアリスの目が見開かれる。


「はああああああっ!」


 穿槍効果中のヌシの頭にアリスの最大溜め攻撃が炸裂し、半分ほど残っていたヌシのHPが一気に消し飛ぶ!


「シャアアアアアアアアアアアッ!」


 激しく身体を躍動させ咆哮した渓谷のヌシは、そのまま弱弱しく尻尾を震わせると、白いポリゴンの破片となって静かに消えていった。


◆◇◆


 キララがアリスの隣にひらりと音もなく着地すると同時に『ダンジョンクリア』の文字が現れ、ダンジョンの出口が出現する。


 アリスは大剣を納めると、キララの方を向いてニッと笑った。


「たまに居るんだよね、キミみたいな天才が」


「くすくす、君ほどじゃないよ」


 キララはあくまで、アリスの攻撃の邪魔にならないように頭から飛んで離れていただけで、ヌシをアリスの方へ誘導していたわけではない。アリスがヌシの頭に的確に攻撃を当てていたのは、正真正銘、アリスの能力だと言えるだろう。


 杖使いの男と槍使いの男が二人に駆け寄ってくる。


「おいおいまじかよ、すげーなあんたら!」


「キミたちこそナイスサポート! バフも槍投げもタイミングばっちり!」


「アリスさん……アリスさんってやっぱり、あの聖剣(ヴォーパル・ソード)のアリスだったのか」


 そんなことを言う杖使いの男に、アリスは穏やかに笑いかけた。


「……今はただのアリスだよ」


「ふざけるなっ……!」


 4人が振り向くと、そこには怒りの形相で握りこぶしを震わせるユリウスが立っていた。


聖剣(ヴォーパル・ソード)のアリス……だと……!? なんでっ……ロスサガ最強のプレイヤーが、こんなところで初心者やってんだよ!」


 アリスは口を膨らませてみせる。


「仕方ないでしょ、昨日このゲーム始めたばっかりなんだから」


「黙れ! この卑怯者! お前なんか、スマーフと一緒だ! お前もだぞガンマン気取り!」


 スマーフとは、所謂ランクマッチがある対戦ゲームで、上級者がサブ垢を作って初心者になりすまし、初心者のランク帯に不正に侵入する一種の初心者狩りだ。しかし、MMOであるSOOで、まして、協力プレイであるダンジョン攻略で『スマーフ』なんて単語を持ち出すのは些か見当違いだと言わざるを得ない。


 アリスはムッとした様子でユリウスに詰め寄ると、腕を腰に当てて至近距離でユリウスを見上げた。


「ちょっと待ってよ。仮に、キミの言うように私がスマーフだったとして、それでキミに何の不便があるの? 弱い野良は嫌いなんでしょ? 野良が強いことになんの不満があるの?」


「お前が『強い』だと? 思い上がるなよレベル3の雑魚が! あんなの、大剣を構えていたところにたまたま敵が突っ込んできただけだ! ただの運だ!」


「そうだね、私もあのボスは初見だったから、実際半分くらいは運だと思う。溜めの間、ずっとキララちゃんがヘイト買ってくれてたし。まぁそれはそれとして、話を逸らさないでよ、野良が強かったとして、それに何の不満があるの?」


「っ! 黙れ! この雑魚が!」


「そもそもキミ、なんでこのダンジョンを周回してるの? 私は初心者だからこれは予想でしかないんだけど。多分、キミのレベルならこんな初心者向けダンジョン、周回する必要ないよね?」


「っ!!」


 アリスの追求から逃れるように、ユリウスは目を逸らした。アリスはその様子を見ると、興味を失ったように小さくため息をついてダンジョンの出口に歩いて行った。


「くそくそくそ、初心者のくせに偉そうにしやがって……! 俺の言うことを聞いておけばいいのにっ……! 許さねぇ、絶対に許さねぇ……っ!」


 地面を見つめたままブツブツと文句を吐くユリウスを横目に見ながら、キララもアリスの後に続いた。

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