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指示厨 6

 一行はその後もモンスターを倒しながらダンジョンを進んだ。程なくすると、開けた場所にたどり着いた。ダンジョンの最奥、ボスの間だ。ボスの間に踏み入るなり、それはいきなり姿を現した。


 大きな岩の隙間からズルズルと這い出てきたそれは、全長20mを優に上回る巨大なヘビだった。牙を剝き出しにし、ガラガラと鳴る尻尾を震わせてこちらを威嚇している。


 ユリウスはキララ達を睨む。


「おい、ボス戦なんだからいい加減言うこと聞けよ? 俺以外前には出るな、杖使いとガンマン気取りは後ろから援護、ほか2人は後ろでじっとしてろ」


 アリスと槍使いはそれを無視して、武器を構えて前に進む。


「はぁ……マジで味方終わってるな、クソゲー……」


 ユリウスは悪態をつきながら前に進む。キララと杖使いも武器を構えた。


◆◇◆


 巨大ガラガラヘビ、『大渓谷のヌシ』との戦いが始まった。


 前衛3人組に対して、ヌシはその巨体を使った体当たり攻撃を繰り出す。アリスは縄跳びの要領でその攻撃を難なく回避する。しかし、振りが素早くダメージ判定エリアも大きいその攻撃を、ユリウスと槍使いは躱しきれず、いきなり大ダメージを受けてしまう。


 ユリウスは怒鳴った。


「クソが! だからお前らは下がってろって言っただろ! 近づくプレイヤーが多いと、この体当たり攻撃が発生するんだよ!」


 SOOの敵モンスターはプレイヤー達の行動に応じて攻撃パターンを変化させる。攻撃可能範囲に居るプレイヤーが多ければ範囲攻撃を繰り出し、少なければ強力な単体攻撃を繰り出すのだ。

 

 杖使いの男は必死に回復と防御バフを撒いた。アリスはヌシの胴体を斬りつけながら叫ぶ。


「なら尚更! 皆で近づくのが正当な攻略法じゃないの!」


 キララはリロードしながらアリスの観察眼、そしてゲーマーとしての勘の良さに感心した。


 このモンスターのモチーフは、どう考えてもアメリカ大陸に生息する猛毒のガラガラヘビだ。ならば当然、恐ろしい毒を持っているだろう。口から覗いている2本の鋭い牙で噛まれれば『毒』の状態異常が発生することは目に見えている。


 毒の状態異常が付与されても解毒のアイテムやスキル、フォトンロッドの解毒系操作式で回復することが出来る。しかし、それは間違いなく隙になるので出来れば毒の攻撃は受けたくない。


 で、あれば。牙を使った攻撃を行わせない、つまり、体当たり攻撃をするように仕向ける為に、皆で近づいて取り囲むことが攻略の近道なのだ。


 もちろん、体当たり攻撃は物理ダメージも大きく、攻撃範囲も広いため十分に厄介な攻撃だが、ジャンプをするだけで躱すことが出来る。それも無理なくだ。


 ならば、とキララも前に出る。アリスは一瞬驚いたような顔を見せたが、強気に笑った。


◆◇◆


「ぐああっ!? クソが! 下がれ! 下がれって!」


 ユリウスは、ヌシが繰り出す体当たり攻撃を受けまくって、瀕死の重症を負っていた。


 キララとアリスは体当たり攻撃を難なく躱しながらヌシのHPを削っていく。槍使いの男も、最初こそ攻撃を受けてしまっていたが、既にヌシの攻撃を見切れるようになっていた。


「クソトロール共が! 言うこと聞けよ!」


「おいあんた! ちょっと下がってくれ! 回復が追いつかない!」


「黙れ! 指示すんな! とっとと回復しろ!」


「それが追いつかないって言ってんだろ! 下がってくれよ!」


 その様子を横目に見ていたキララは、体当たりを避けざまに、空中でアリスにアイコンタクトを行った。同じく空中で、黙って頷くアリス。


 キララは着地と同時にバネのように弾けて、空高く飛び上がる。大きく弧を描いて飛ぶキララは、そのままヌシの頭に組み付いて、ゼロ距離でショットガンを乱射した。


「シャアアアッ!」


 怒り狂い、威嚇の咆哮を上げながらヌシはのたうち回る。ガラガラと鳴る尻尾が地面に打ち付けられる度に渓谷に鈍い音が木霊し、大地が震える。


 その様子を数秒見つめていたアリスは意を決したように数歩前に出ると、突然、目をつぶって何もない場所で大剣を空高く掲げた。大剣などの重量系近接武器にのみ許された特殊攻撃、『溜め攻撃』だ。溜め攻撃を行うことで、攻撃を構えた状態で溜めた力を一気に解放し、強力な一撃を放つことができ、その最大ダメージ倍率はパワーセイバーの1250%を遥かに上回る3200%にも及ぶ。しかも、溜め攻撃は限界まで力を溜めることで、攻撃に、あらゆる攻撃バフと乗算の関係になる固有の特殊攻撃バフが付与されるほか、『確定クリティカル』『防御貫通』『気絶確率上昇』『部位破壊成功率上昇』の属性が付与されるため、そのバリューが一層大きくなる。


 しかし、ただでさえ隙が大きいパワーセイバーと比較しても、溜め攻撃は更に隙が大きく、ベテランの大剣使いでも実戦で溜め攻撃を出すのはかなり渋る。


「お前何やってんだよ! 何もないとこで溜め攻撃構えやがって! 馬鹿か!?」


 罵声を飛ばすユリウス。アリスのこの行動には槍使いの男も流石に怪訝な顔をした。しかし、杖使いの男はその真意を察して杖を構え、ユリウス達への回復を中断し、アリスにありったけの攻撃バフを付与する。


「『フォース』! 『パワーレイズ』!」


 のたうち回るヌシ。攻撃の溜めが限界に達すると、アリスは目を見開き、何もない場所に向けて攻撃を放った! 同時に、キララはヌシの頭を蹴って空高く飛び上がる────!


「何やってんだクソトロールがあああああッ!」


 ユリウスが叫ぶ。しかし、その怒号はすぐに驚愕の色に染まる。


 のたうち回るヌシの頭がアリスの足元に転がり、そして、アリスの最大溜め攻撃が綺麗に命中したのだ。

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