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指示厨 5

 ユリウスを含めた男達は、思わず目を丸くした。


(飛びかかっていたヘビの小さな頭を一撃で撃ち抜いただと!? なんだ、今のは!?)


 アリスは大きくため息をついて肩を落とす。


「……はぁ、そうだね。キララちゃんの言う通りだ。野良に文句言っちゃいけないね。野良に文句言うくらいならソロでやるか、フレンドとパーティー組むべきだもん。はい、終わり終わり〜」


 そう言ってアリスはダンジョンの奥へ向かって歩き出した。キララもうんうんと頷いて後を追う。ユリウスははっと我に返ったようにまた怒鳴り始めた。


「おい! 言うこと聞けって! おい!」


◆◇◆


 そして、滅茶苦茶な戦闘が始まった。アリスとユリウスと槍使いの男が競うようにして前に出て、その後ろから、キララと杖使いの男が援護をする。陣形も戦術も何も無いデタラメな戦い方だったが、皮肉なことに先程までよりずっと殲滅速度が早く、しかも全員のHPがほとんど減ることがなかった。


(まぁ、丁寧に攻略したいって気持ちは分かるんだけどね。野良にそんなの押し付けちゃダメだよ)


 キララはどちらかと言えば、丁寧に攻略をしていきたいタイプだ。周りを固めて、じわじわと標的を追い詰めていき、最後のひと押しとして銃の引き金を引く。そういう戦いを良しとするキララにとって、(発言の説得力はともかくとして)ユリウスの言い分、その方向性は十分に理解できるものだった。だが、それを自分で実践するのと周りに押し付けるのは違う。


 SNSが発達している今の時代、オンラインゲームを一緒に遊ぶ仲間を見つけることはさほど難しいことではない。本当に本気で丁寧に攻略をしたいなら、同じ志を持つプレイヤーを探してパーティーを組めばよいのだ。その努力を怠っておきながら、方向性や実力が違う野良に命令や文句を押し付けるのはただの怠慢である。


 これは、偉そうに指示を出していたユリウスに限ったことではなく、ユリウスに対して文句を言っていたアリス達にも、そして彼ら全員に対して説教を垂れたキララにも言えることだ。


 このギスギスとした空気も、揃わない足並みも、野良パーティーを組むという怠惰な選択をした全員の、それぞれの自業自得なのだ。


 キララはそんなことを考えながら絶えず引き金を引き続けた。


(しかし、このアリスって子……)


 パーティーの先頭で大暴れするアリス。はっきり言って、上手いとかそういうレベルでは無かった。MMORPGの経験が浅いキララから見ても、アリスの動きは洗練されていた。


(対コンピューター相手なら、銀華さんやクロウと比べても数倍は上手いんじゃ……)


 キララよりも一回り小柄なアバターを使っているアリスは、まだ初心者ということもあってSTRやAGIが低く、ただでさえ振りが遅い大剣をいっそう遅く、のろのろと振り回している。重い大剣に逆に振り回されているように不安定で、見ていて心配になるが、その大剣の一撃一撃は的確にモンスターの頭部を捉えているのだ。


 攻撃が的確すぎて、モンスターが向こうから大剣に突っ込んできているのではと錯覚する程だった。パズルのピースがピタリとハマるように、大剣の鈍い刃とモンスターの頭が重なる。


 しかも、回避の技術も恐るべきものだった。アリスは回避の素振りすら見せていないのにモンスターが勝手に攻撃を外していくのだ。少し異常な光景だ。ラッシュアワーで混雑する駅の構内で、人混みの中を一直線にスイスイと歩いていくような、そんな不自然さがあった。


(何も援護することが無い……)


 キララは、アリスに対する援護のやり方を思いつかなかったので、ユリウスと槍使いの男をM1873で援護した。背後などの死角から男達に飛びかかるモンスターを一体ずつ撃破していく。杖使いの男は黙々と、的確にバフと回復、そしてモンスターへの攻撃を行った。フォトン管理に一切の無駄が無く、完璧と言っていいほどの腕前だった。


◆◇◆


 そうしてダンジョンを進んでいると、モンスターの湧きがほとんどない、休憩区間とも呼べる場所にたどり着いた。道端に落ちているフィールド資源を拾い集めながら、一行はさらに奥へと進む。


「アリスさん、上手いね。何か別ゲーやってたの?」


 キララはアリスにおもむろに問いかけた。


「えへへ、実は私も6年くらいロスサガで剣士やってたんだよね。キララちゃんこそ、何かやってたの? このゲームの実弾銃、超難しいって聞いたんだけど」


「HELLZONEやってた」


「あぁ! じゃあ納得だね」


 ロスサガで6年も剣士をやっていたというなら上手いのも納得だ。ロスサガという単語に反応した杖使いが口を開く。


「へぇー、アリスさんもロスサガやってたんだ。道理で上手いわけだ」


「エイジさんこそ後方支援完璧! その腕前なら、どこかの上位ギルドに所属してたんじゃないの?」


 アリスに褒められて、杖使いの男は照れて見せた。


「へへ、実は一時期『円卓』に所属してたんだ、あの大魔法使いマリンさん率いる魔導師団に配属されてたんだぞ」


「マリンに? そりゃ凄い!」


「一度だけだけどな。俺のロスサガ人生唯一の自慢さ……ん、アリスさん、マリンさんと知り合いなのか?」


「うん、フレだよ。最近全然話せてないけど」


「マジか! 凄いな……いや待てよ、マリンさん程のプレイヤーとフレンド登録できる剣士の『アリス』ってまさか……」


 ロスサガ出身の2人組の会話に耳を済ませながら、キララは顎に手を当てた。


(いや、まさか……)

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