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指示厨 4

「おい! 杖使い、ヒール以外使うなって言ったはずだよな」


「だ、だって……このままじゃヒールが追いつかない……」


「黙れ、お前まだどうせフォトン管理できないだろ。初心者がフォトン管理をミスって肝心なときにヒールが使えないようじゃ困るんだよ。黙ってヒールだけ回してろ」


 フォトン管理とは、フォトンの残量を上手くコントロールする技術のことだ。例えば、ヒールの操作式の起動に必要なフォトンの量が20だとした場合、いざという時に素早くヒールを使えるようフォトンの残量が20を下回らないように立ち回る……といった具合だ。攻撃バフや防御バフをパーティーにばら撒いて、味方のピンチの際にフォトン切れでヒールが使えない……というのは初心者フォトンロッド使いがよくやるミスだ。

 

「っ! そんなことない! 俺はロスサガで5年以上魔法使いをやってたんだ! MP管理くらいできるさ!」


 ロスサガ、正式名称『ロストサーガ・ファンタジア』はSOOが発売される数年前に発売され、世界中で大ヒットしたVRMMOだ。誰もが憧れる剣と魔法の世界の作りこみが素晴らしく、今でも根強いファンがいる。


 ロスサガの『魔法使い』は、MPというリソースを消費して様々な魔法を使う職業だ。MPの管理は極めて重要なテクニックだと言えるだろう。そんな魔法使いを5年以上やっていたという杖使いの男はMP管理の大ベテランだ。同様の技術であるフォトン管理だって大抵のプレイヤーより上手くこなせるだろう。


 しかしユリウスは譲らなかった。


「黙れ、いいからヒールだけ使ってろ」


 アリスはもう我慢ならないと言った様子でユリウスの前に立ちふさがった。


「待ってよ! ロスサガで5年も魔法使い(メイジ)やってたんならエイジさんはMP管理の大大大ベテランだよ! タンクが魔法使い(メイジ)のMP管理に口出しするなんておかしいよ!」


 餅は餅屋、その道のことはその道のプロに任せるのがベストだ。もちろん、超高難易度ダンジョンにガチガチのパーティーを組んで挑戦する時などは、頭のキレる作戦係がMP管理レベルの指示を出すこともあるだろう。だが、このダンジョンは初心者向けの簡単なダンジョン、しかもパーティーはたまたま居合わせたプレイヤー達で組んだ即席の野良パーティーだ。


 ユリウスはアリスを睨む。


「レベル3の雑魚が口を挟むな。すっこんでろ」


「嫌だ! もういい加減つまんない! 私だって前出たい!」


 ユリウスは怒鳴る。


「いいから俺の言うこと聞けよ!」


 見かねた槍使いの男が、ユリウスの肩に手を添える。


「なぁあんた、ちょっといい加減にしろよ、野良は奴隷じゃないんだぞ」


 ユリウスは槍使いの男の手を払いのけて胸ぐらを掴んだ。


「口答えするな! セオリーのわからない初心者に、上級者がやり方を教えるのは当たり前のことだ!」


 槍使いの男は一瞬怯んだが、男に怒鳴り返した。


「っ! 何がセオリーだ! あんたが言っても説得力ねぇよ! いくら何でも被ダメ多すぎだぞ! 上級者のくせにヒーラーに負担掛けんなよ!」


「は? 何を勘違いしてるんだ。俺は元々DPS(アタッカー)だ。タンクじゃねぇよ。それを、低レベルのお前らより、多少マシだからって理由でタンクも兼任してやってんだろうが」


「は?」


「は?」


「え?」


 それを聞いて男達とアリスは硬直する。直後に激しい非難が始まった。


「ふざけんな! あんたが一番セオリー分かってねぇじゃねぇか!」


「SOOはステータスポイント制だから攻撃振りの高レベルアタッカーよりも防御振りの低レベルタンクの方が硬いんだよ! そんなの常識だろうが!」


「攻撃振りのDPSでタンク兼任するならやるにしても避けタンクでしょ!? なんで敵の攻撃顔面受けしてるの!?」


 ユリウスは顔を真っ赤にして怒り、それまでより更に激しく怒鳴り散らした。


「黙れ黙れ! 低レベル共が口出すな! そんなこと分かってるから、だから、回復が間に合うようにヒールだけ回せって、ちゃんと指示してただろうが! お前らは俺の指示に従ってりゃいいんだよ!」


 それまで黙って話を聞いていたキララだったが、突然、M1873の銃口をユリウスに向けた。怯むユリウス、キララは引き金を引く、撃ち出された弾丸はユリウスの耳元を掠めて通り過ぎ、背後からユリウスに飛びかかっていたヘビの頭を貫いた。


 HPバーが消し飛び、ぼとりと地面に落ちて、ポリゴンの破片となって砕け散るヘビ。キララは銃を下ろすと、スピンコックで弾をリロードして静かに口を開いた。


「……皆、野良に求めすぎ」

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