指示厨 3
4人のプレイヤーのうち、長い金髪を揺らす可愛らしい少女がキララに気づいて手を振る。大きく無骨な大剣を背負っており、キララと同じく、初心者用の装備を身につけている。
「あ! 5人目が来たよー! こんにちは! キミもダンジョン周回? ねぇ、良かったらパーティー組んでくれないかな?」
所謂『野良パーティー』の勧誘だ。キララは基本的にソロでゲームを遊ぶが、別に人嫌いという訳でもなく、ナナホシのアドバイスもあったのでパーティーへの招待を受けることにした。
「いいよ」
「わーい! だってさ! これで5人揃ったね!」
そう言って、大剣の少女は他の3人の男達の方へ振り向いた。3人の男達もキララと同じような初心者装備を身につけているが、1人だけ他より少し装備が良い、大剣を担いだ男が居た。
装備の良い男はキララを一瞥し、ため息を吐くと、やれやれと言った様子でホログラムウィンドウを起動し、キララに無言でパーティー招待を送った。キララはそのパーティー招待を承諾する。
すると、キララの視界の端にパーティーメンバーの名前やレベル、使用武器、HPやPPフォトン残量の現在状況が表示された。
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レベル17 ユリウス [大剣]
レベル9 ナイト [槍]
レベル8 エイジ [フォトンロッド]
レベル6 キララ [実弾銃]
レベル3 アリス [大剣]
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「キララちゃんだね、私はアリス! よろしく!」
大剣の少女、アリスはそう言ってにこやかにキララに手を差し出した。キララはアリスの手を取り、軽く握手を交わす。
「おい、行くぞ」
大剣を背負った装備の良い男、ユリウスはそう言ってキララ達を睨むと、ダンジョン入り口のホログラムウィンドウを操作し、ダンジョンに入場した。
◆◇◆
ダンジョン、というとどこか閉鎖的な印象があるが、この『荒漠の大渓谷』は、ダンジョンの中から青空が見えていた。なお、幅4~5メートルの通路の両側には何十メートルもあるだろう高い崖がそびえ立っている。
ダンジョンに入場するなり、ユリウスはキララ達の前に立ちふさがって、それはそれは偉そうに話し始めた。
「おい、お前らは俺よりレベルが低いんだから俺の言うことを聞けよ」
「えー! 何それー!」
アリスは頬を膨らませて不服のアピールをする。ユリウスは怒鳴った。
「黙れ、レベル3の雑魚が。足を引っ張ったらただじゃおかないからな。お前もだ、ガンマン気取り」
ユリウスはキララを睨む。
「実弾銃なんてネタ武器使いやがって。俺は、ゲームだからといって好き勝手して野良に迷惑をかけるトロールが一番嫌いだ。野良パーティーを組むなら最低限の勉強をしてこいよ」
言葉遣いはともかく、男の言い分には一理あるとキララは思った。SOOはゲームだから、基本的には自分の好きに遊ぶべきだが、MMOである以上必ず他人と関わることになる。気の知れたフレンドと一緒に遊ぶ時ならともかく、赤の他人である野良に迷惑をかけるような真似をすれば、嫌な顔をされるのは当然のことだ。
「だがまぁ、実弾銃使いでもドロップアイテム拾いくらいはできるだろ、お前は最後尾でアイテム拾いでもしてろ。ダンジョンを出るときに貢献度に応じてドロップアイテムを再分配するからな。ネコババするんじゃないぞ」
「……ふーん」
キララはいつもの無表情で曖昧に返事をした。そんなキララを見て、アリスは困ったような顔をした。
「レベル3のお前は────」
「私前衛でタンクしたい!」
アリスは元気に手を挙げるが、ユリウスはそれを鼻で笑った。
「何言ってんだ馬鹿が。お前が前に出ても即溶けするだけだろ。お前は後ろで杖使いを守れ。杖使い、お前はヒール以外何も使うな、俺のHPが減ったら即ヒールを投げろ。槍使い、お前は俺と一緒に前衛だ。だが俺より前には出るな。俺がメインタンクだ」
「えー!」
不満げなアリスを無視して、ユリウスはダンジョンの奥へ進み始めた。槍使いと杖使いも渋々ユリウスに従う。
キララはしばらく黙っていたが、一旦様子を見ることにし、M1873をリロードして後を追った。
◆◇◆
戦闘が始まった。サソリやヘビのようなモンスターがわんさかと湧き、キララ達のパーティーに襲い掛かる。ユリウスと槍使いは前衛でモンスターを倒し、杖使いは前衛のHPが減る度にヒールをした。アリスは杖使いのそばで退屈そうにそれを眺めていた。
キララはサソリの尻尾やヘビの牙といったアイテムを拾い集めながら後を追う。
ユリウスは、偉そうにしているだけのことはあり、腕前は中々のものだった。スキルのクールタイムの管理が上手く、通常攻撃とスキルの使い分けに無駄がない。しかし、被弾が多かった。大剣という武器は攻撃一発一発のダメージが高い分隙が大きいため、被弾が多くなってしまうのは仕方ない。だが、だとしても少々被弾が多すぎる。というより、攻撃を避ける気が一切ないようにしか見えない。おまけに、被弾の回数だけでなく被ダメージも相当なものだった。被弾が多くても、それ相応に防御力があれば被ダメージは抑えられるが、ユリウスの被ダメージは尋常ではなかった。まるで、防御に一切ステータスを振っていないかのような被ダメージ量だ。
ヒールが追いつかなくなることを懸念した杖使いは、防御アップの操作式を起動し、ユリウスに防御バフをかけた。するとその途端、ユリウスは怒り始めた。