指示厨 2
ナナホシはさらに別の銃を店の奥から持って来た。西部開拓時代を象徴する名銃、『コルトSAAフロンティアシックスシューター』だ。ウィンチェスターM1873と同じ.44-40センターファイア弾を使用できるリボルバーで、M1873と共に西部開拓時代にとても重宝された。
「こちらは、攻撃力6500、会心ダメージ倍率220%です。専用ガンベルトもお付けしましょうか?」
「うん、お願い。弾はとりあえず200発程貰えるかな」
「了解っス」
.44-40弾が安く売られているのには大きく2つの理由があった。1つは、単純に威力が弱いためだ。.44-40弾は黒色火薬を使用しており、新しい世代の弾丸と比べるとどうしても威力に劣る。もう1つは、SOOでこの弾が使える銃の扱いが極めて難しいためだ。
特に、ただでさえ扱いが難しいリボルバーの中でも、コルトSAAは群を抜いて扱いが難しい。コルトSAAは、他のリボルバーのように、シリンダーを横に引き出すことが出来ないためリロードの際にスピードローダーが使えないのだ。
コルトSAAで弾をリロードするには、まず撃鉄を半分起こして、シリンダーの後ろのローディングゲートを開けて、銃身の下に取り付けられたエジェクターを操作して弾を1発ずつ排莢する。そして、シリンダーを回しながらまた1発ずつ弾をシリンダーに装填しなければならないのだ(排莢と装弾を1発ずつ交互に行うことももちろんできるが)。余程慣れている者でない限り、こんな作業を戦闘中に行うことは不可能である。もう一丁銃を持ち歩いた方がいいくらいだ。
ナナホシも、相手がキララやクロウでなかったら、この銃を買うのはやめておいた方がいいと忠告していただろう。
「では……そうっスね、全部合わせて2万3000クレジットでいかがでしょう」
「いいね、ありがとう」
支払いを済ませて、店を出ようとするキララをナナホシは呼び止めた。
「そうだ、キララさん。もうお調べになってるかもっスけど、クエストやダンジョンでスキル集めをする時は、パーティーを組んだ方がお得っス。パーティーを組んだ状態で戦闘を行うことが獲得条件のスキルもあるんで」
「そうなんだ、じゃあ適当にパーティーを組むことにするよ」
そう言って、キララはひらひらと手を振ると店を後にした。
◆◇◆
キララが今回主に取得したいスキルは、生物系モンスターを100体討伐することで獲得出来る、『対生物ダメージ上昇:極小』のスキルだった。生物属性を持つ標的に対してのダメージが1.01倍になるパッシブスキルだ。なお、この『生物』の括りには人間であるプレイヤーも含まれているため、当然、PKの際に有利に働く。
たかが1.01倍。だがこの数字を侮ってはならない。なぜならこれは、攻撃力や会心ダメージ倍率とは乗算の関係にあるからだ。
このスキルのある時と無いときでダメージを比較してみる。仮に、相手の防御力が0だとした場合には、無いときではヤトノカミ分を含めたキララの攻撃力134500に会心ダメージ倍率670%が乗って合計901150、ある時ではそこから更に1.01倍の倍率が掛かって910162。最終ダメージに、9000近い差が生まれることになるのだ。
しかも、これは『対生物ダメージ上昇:極小』だから1.01倍なのであって、生物系モンスターを500体倒すことでスキルを『対生物ダメージ上昇:小』に進化させれば倍率は1.05倍に、1000体で進化できる『中』なら1.1倍に、といった具合でモンスターを倒せば倒す程、スキルのバフの倍数が上がっていくのだ。
このスキルを獲得するためには、生物系雑魚モンスターが大量に湧くダンジョンを周回するのが効率が良いとされている。ダンジョンの中は通常のフィールドとは異なる異空間扱いになっており、一部の例外を除けば、一つのダンジョンへ一度に入場できるのは一つのパーティーまで、という制約がある。(これでは、ダンジョンの前に入場のための待機列ができそうだがそんなことはなく、あるパーティーがダンジョンに入場した後に、別のパーティーが同じダンジョンに入場しようとすると、そのまますんなりとダンジョンに入場できるが、先程のパーティーとは絶対に遭遇しない別チャンネルのダンジョンに入場することになる)そのため、通常のフィールドで発生するようなモンスターの奪い合いや、PKなどに遭遇するリスクが低く、しかも、ダンジョンクリアのタイミングでちょっとしたクリア報酬も貰えるというメリットがある。
もっとも、ダンジョンの中では逆に、フィールドにあるような偶発的要素や探索要素がなく、また、敵の種類や、フィールド資源の種類も限られているため、どちらが優れているということはない。
店を出たキララは、事前に攻略サイトで調べておいた、生物系モンスターが大量に出現するダンジョンの最寄りのワープポータルへワープした。自由都市フリードの路地から一転、風景が、グランドキャニオンを彷彿とさせるようなダイナミックな岩と砂の大地に切り替わる。
ワープポータルの目の前には、靄の掛かった切り立った谷の入り口があった。ダンジョン『荒漠の大渓谷』の入り口だ。ダンジョンの入り口の前では4人のプレイヤーが雑談をしていた。